読むのは本書の前半部だけでよいと思います。
前半部には池波正太郎自身が語っている部分や、インタビューなどが収録されていますので、これは「剣客商売」を読む上若しくは読んだ後に、作者がどういう風に書いたのかが分かり、面白いです。
特に、秋山小兵衛の風貌のモデルとなった人間国宝・中村又五郎が演劇で「剣客商売」をやった時の写真などは、池波正太郎がどういう感じで小兵衛を想像していたのかが分かりとても参考になります。
個人的には、作中の小兵衛のイメージにピッタリでした。
また、表紙の裏面には、「剣客商売」に関係する場所の地図が掲載されていますので、これを見ながら読まれると、情景が思い浮かべられて読むのが楽しくなります。
もう一つ楽しくなるのは、「剣客商売」の登場人物一覧と年表です。これらはとてもよい付録です。
本書の後半は池波正太郎に対する思い入れのある人びとの故人を偲ぶエッセーで構成されています。これは、「剣客商売」を読む上で何の役にも立ちません。
この後半は、「読本」と銘打っている本書としては余計です。
ピックアップ
「私のヒーロー」:「鬼平犯科帳」の長谷川平蔵に関して多少述べられている。盗賊・葵小僧は当時の史料にも載っているエピソードである点が興味を惹かれた。
その後で、「仕掛人・藤枝梅安」の誕生秘話が語られているのも面白い。ジャズのアーティ・ショウの「ナイトメア」を聞いている時に脳裡にうかんだのが仕掛人・藤枝梅安の風貌であったというのだ。
「連想」:「剣客商売」の各短編の題名をつけるときのエピソードが書かれている。
「芝居と食べもの」:中村又五郎が舞台「剣客商売」の千秋楽を迎える時のエピソード。歌舞伎俳優ならではの〔そそり〕というしゃれっ気を出して、思い思いのいたずらや演技をすることをいうのだが、このときの又五郎がやった〔そそり〕の話にはクスリとしてしまう。
「池波正太郎インタヴュー秋山小兵衛とその時代」:これは本書の中で一番興味の惹かれる内容である。
というのも、小兵衛の晩年の構想を作者自ら語っているからである。池波正太郎はそのうち、孫の小太郎を主人公に据えるつもりであったらしい。そして成長した小太郎の人物設定もある程度出来上がっていたようである。
これは、是非とも「剣客商売」の続きが読みたかった。
さらに、このインタビューでは、大きな作品を書く構想があることも述べている。具体的なものは語っていないが、池波正太郎が生きていれば読めただろう”大作”が何であったのかはとても気になるところである。
本書について
池波正太郎ほか
剣客商売読本
新潮文庫 約三八〇頁
池波正太郎へのインタビューほか
目次
池波正太郎〔剣客商売〕を語る
私のヒーロー
京都・寺町通り
小鍋だて
連想
芝居と食べもの
大根
ハンバーグステーキ
池波正太郎インタヴュー
秋山小兵衛とその時代
又五郎なくして小兵衛なし
〔剣客商売〕事典
〔剣客商売〕作品一覧
〔剣客商売〕人物一覧
〔剣客商売〕挿絵で見る名場面
〔剣客商売〕料理帖
池波作品の中の食べ物
〔剣客商売〕食べ物一覧
〔剣客商売〕年表
〔剣客商売〕色とりどり
〔剣客商売〕の楽しみ
『剣客商売』の読み方
男の流儀
剣の達人に見た人生の達人
鐘ヶ淵まで
〔剣客商売〕江戸散歩
〔剣客商売〕私ならこう完結させる
池波さんのこと
「時代小説の名手」その人と作品への旅
池波さんはツラかった
一冊も読んでいない後輩
「原っぱ」のつきあい
晴れた昼さがりの先生
「青春忘れもの」の頃
若いころの池波さん
池波正太郎年譜