覚書/感想/コメント
女性剣士を描いた作品です。池波正太郎作品で女性剣士といえば、ある作品を思い起こされる人もいるのではないでしょうか。
物語の中で、「…井関忠八郎の門人の中には、佐々木三冬という女剣士がいて、井関道場の四天王のひとりだという。」という記述があります。
そうです。池波正太郎の人気シリーズ「剣客商売」の佐々木三冬のことが書かれているのです。
ですから、時代設定も「剣客商売」と全く同じです。田沼意次が権勢をふるった時代を舞台としています。
ただし、まだ佐々木三冬と言っていますので、「剣客商売」でいえば、ごくごく最初の頃でしょう。
本書を読んでから「剣客商売」に取りかかるのもよし、「剣客商売」を読み終えてしまってから本書を読むのもよし、です。
いずれにしても、「剣客商売」の同じ時代の空気を味わえる一品です。
女性剣士を扱った作品では、他の作家で宇江佐真理の「余寒の雪」などがありますので、あわせて読まれると楽しいと思います。
本書と似たすじの話に池波正太郎の「妙音記」があります。「剣客群像」に収録されています。
内容/あらすじ/ネタバレ
堀真琴が乳母の見舞いに行った帰りのこと。
浪人二人に襲われた。供の山崎金吾が真琴を逃がしたが、浪人に殺されてしまった。そして、浪人に犯されそうになっている真琴を助けてくれたのは、関口元道という医者だった。元道は浪人のうち一人の鼻を切り追い払ったのだ。
堀真琴は助けられた後に山崎金吾が殺されたことをしり、敵を討つと決心する。真琴は大身旗本・堀内蔵助直照の姪である。その姪が家来の仇討ちなど出来るはずもなかった。
九年後。男装の堀真琴を見ることになる。この九年間のうちに真琴は伯父の養女となり、そのかわりに剣術の修行をさせてもらう約束をし、桑田勝蔵のもとに通って剣術の腕を上げたのだ。
近頃ではだいぶに腕が上がり、たまさかの悪戯に武士どもをからかうようなことまでする。
伯父の堀内蔵助直照は真琴に婿を取ることを考えているが、真琴は自分を打ち負かすほどの男であれば構わぬという。だが、真琴を打ち負かした男はいない。
そもそも、真琴は山崎金吾の仇討を諦めたわけではない。しかし、それも最近は剣術の方が面白くなり、少しずつ薄れかけている。
その真琴に縁談が持ち込まれた。例によって、立ち合うことになった。相手は織田平太郎道良という。だが、この立ち会いで、織田平太郎道良は剣を交えることなく、唯一言「このような女、抱く気もせぬ」と言い放って去ってしまう。真琴は屈辱で真っ赤になる。
屈辱の真琴は気を紛らわすために、獲物を探してからかおうと考えたが、この日は獲物が見つからなかった。それどころか、以前真琴がからかった武士に見つけられ、付けられてしまう。
何やら真琴の周辺がきな臭くなってきた。そうした折、伯父が発作で倒れた。
本書について
池波正太郎
まんぞく まんぞく
新潮文庫 約三〇〇頁 江戸時代
目次
白い蝶
九年後
稲妻
復讐
菊日和
急迫
引鶴
登場人物
堀真琴
堀内蔵助直照…伯父
鈴木小平次
万右衛門
千代…万右衛門の姪
織田平太郎道良
桑田勝蔵…師
山崎金吾
関口元道…医者
友治郎…御用聞き
井戸又兵衛
三河屋清七
佐久間八郎
滝十兵衛