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池波正太郎「鬼平犯科帳 第1巻」の感想とあらすじは?

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第11回吉川英治文学賞受賞。池波正太郎「鬼平犯科帳」その他の業績に対しての受賞でした。

記念すべき「鬼平犯科帳」の第一巻です。

時代は、田沼時代が過ぎ去り、松平定信が老中の時代。

本書で、相模の彦十と小房の粂八が登場します。二人が今後しばらくの間、密偵の中心になります。

二人ともまだ本格的に密偵としての活動はしていないのですが…。

それと第二話「本所・桜屋敷」で、”鬼平”ではお馴染みの軍鶏鍋屋の〔五鉄〕が登場します。

さて、”鬼平”は対盗賊が基本スタンスです。

この盗賊に関して、第四話「浅草・御厩河岸」で真の盗賊のモラルが書かれています。

一.盗まれて難儀するものへは、手を出さぬこと。
一.つとめするとき、人を殺傷せぬこと。
一.女を手ごめにせぬこと。

池波作品にいえることなのですが、池波正太郎は”真の盗賊”にどちらかと言えば好意的である感じがあります。

対して、香具師の元締については手厳しい物語の設定をしてるように思われます。

また、主人公の長谷川平蔵宣以ですが、歴史上マイナーな人物だったのです。

第八話「むかしの女」で、長谷川平蔵が火付盗賊改方に就任した翌々寛政元年に、老中・松平定信に人足寄場設置の建言をおこない、石川島に人足寄場をもうけたという記述があります。

もともと、この人足寄場を作ったことで知られている程度で、この「鬼平犯科帳」で一躍、有名になったのです。

本書で直接登場するわけではないですが、第六話「暗剣白梅香」で「仕掛人・藤枝梅安」シリーズでお馴染みの白子屋菊右衛門と思われる人物が書かれています。

同じように、「仕掛人・藤枝梅安」では直接登場することはなかった羽沢の嘉兵衛の名前が登場します。

内容/あらすじ/ネタバレ

唖の十蔵

小野十蔵は、長谷川平蔵の配下ではない。前任の火付盗賊改方の配下である。その小野十蔵は、野槌の弥平につながる手がかりを、〔豆岩〕の岩五郎から受け、野槌の弥平を追っていた。しかし、この手がかりが死んでしまった。殺したのは女房のおふじであった。

小野十蔵はいけないこととは知りつつ、このおふじと関係を持ってしまう。そして、火付盗賊改方が長谷川平蔵に代わった。小野十蔵はそのまま、火付盗賊改方に配属になり、おふじとの関係を続けてしまう。

しかし、このおふじのおかげで、再び野槌の弥平の手がかりをつかむことが出来た。おふじが娘のお順と一緒に出かけた先で、たまたま聞き及んだことが手がかりとなったのだ。長谷川平蔵は、配下のものを繰り出し、手下を捕まえた。その中に、小房の粂八がいた。

本所・桜屋敷

平蔵の剣友・岸井左馬之助は押上村の春慶寺に居候している。平蔵はこの旧友とある場所で再会する。そこは、かつて二人が剣術に打ち込んだ道場のすぐそばであり、二人が恋いこがれていたふさの住んでいた場所である。

また、平蔵は久方ぶりに相模の彦十に会う。この彦十、平蔵が本所で暴れ回っていた頃の知り合いである。

この彦十が、野槌の弥平の残党である、小川や梅吉を捜し当てる。そして、その梅吉がたむろしているところは、なんと、ふさの亭主の家であった。

さて、小野十蔵が死に、おふじも死んでしまい、天涯孤独となったお順は平蔵夫婦が育てることとなる。

血頭の丹兵衛

血頭の丹兵衛という盗賊が残虐な手口で押し込み強盗を働いている。捕まっている小房の粂八は、血頭の丹兵衛の手口ではないと思っていた。平蔵はこの小房の粂八に血頭の丹兵衛の探索をまかせ、牢から出す。

粂八は血頭の丹兵衛を追い、東海道を下ったが、手がかりらしいものを得ることが出来なかった。そして、江戸に戻ろうとした時、血頭の丹兵衛が粂八の前に現れた。驚くべきことに、江戸での残虐な手口は血頭の丹兵衛が行ったものだという。かつてのように、人を殺めない真の盗賊だった血頭の丹兵衛の姿はそこにはなかった。

浅草・御厩河岸

火付盗賊改方の密偵・〔豆岩〕の岩五郎の所に、海老坂の与兵衛の手下がやってきた。久々の盗みの仕事を助けてくれないかという頼みである。

密偵である岩五郎は、この事を佐嶋忠介に告げるが、海老坂の与兵衛の話を聞いている内に、岩五郎の中に眠っていた盗賊の血が騒ぎ始めた。というのも、昨今、残虐な手口が増えている中、海老坂の与兵衛は真の盗賊の手口を守って、盗みをしようとしていたからである。

岩五郎は、密偵としての仕事を全うすることができるのか?

老盗の夢

盗賊を引退していた簑火の喜之助は、大女のおとよと静かに過ごすための資金稼ぎに、再び盗みを働くことにした。

しかし、かつての配下は散っているため、野槌の弥平の残党を借受け、盗みを働こうとした。しかし、この借受けた連中は、残虐な手口を何とも思わない連中であった。押し込みの直前に簑火の喜之助を縛り上げ、自分たちで押し込みをすることにした。悔しさで一杯の簑火の喜之助は、身体が柔らかいため、縛っていたものを外し、この連中を殺そうと決意する。

暗剣白梅香

三の松平十から長谷川平蔵の殺しを依頼された金子半四郎は、仇持ちである。しかし、仇は見つけることは出来ずに、金で人を殺すところまで、身を落としていた。

この金子半四郎は、多くの人を斬ってきた。そのため身体に血のにおいが付いている気がして、香油を付けることを常としていた。長谷川平蔵は、この香油の臭いから、金子半四郎を突き止めようとする。

座頭と猿

蛇の半十郎の手下である座頭の彦の市はおそのという女を囲っていた。そのおそのが他に男をつくって、度々あっているらしい。相手の男に嫉妬した彦の市は、相手の男が小間物屋の徳太郎であることを突き止める。彦の市は、この徳太郎を殺そうと考える。

一方、徳太郎も彦の市を殺そうと考えていた。

むかしの女

長谷川平蔵が本所で暴れ回っていた頃の女であったおろくが平蔵の前に現れた。懐かしさに、平蔵はおろくにお金を渡して、役宅にも遊びに来いと告げる。しかし、おろくは昔の男達のまえに面を出しては、かねをせびっていたのである。

この事を知った、雷神党と呼ばれる不良どもの首領格である井原惣市は、おろくが金をせびっていた男の所に赴き、脅しをかけた。

本書について

池波正太郎
鬼平犯科帳1
文春文庫 約二九〇頁
連作短編
江戸時代

目次

唖の十蔵
本所・桜屋敷
血頭の丹兵衛
浅草・御厩河岸
老盗の夢
暗剣白梅香
座頭と猿
むかしの女

登場人物

唖の十蔵
 小野十蔵…同心
 おふじ
 お順…おふじの娘
 野槌の弥平…盗賊
 小川や梅吉…野槌の弥平の手下
 小房の粂八…野槌の弥平の手下
 〔豆岩〕の岩五郎…密偵
本所・桜屋敷
 ふさ
 小川や梅吉…野槌の弥平の手下
 小房の粂八…野槌の弥平の手下
 〔豆岩〕の岩五郎…密偵
 相模の彦十…密偵
 岸井左馬之助…平蔵の剣友
 文治郎…日本橋の御用聞き
血頭の丹兵衛
 血頭の丹兵衛…盗賊
 小房の粂八…野槌の弥平の手下
 簑火の喜之助…盗賊
浅草・御厩河岸
 〔豆岩〕の岩五郎…密偵
 海老坂の与兵衛…盗賊
老盗の夢
 簑火の喜之助…盗賊
 おとよ
 (夜兎の角右衛門…盗賊)
 前砂の捨蔵…夜兎の角右衛門の手下
 蛇の平十郎…盗賊
 座頭の彦の市…蛇の平十郎の手下
暗剣白梅香
 金子半四郎…浪人
 三の松平十…本鄕の顔役
 利右衛門…鶴や亭主
 天野甚造…与力
 (白子の菊右衛門…大坂の顔役)
座頭と猿
 座頭の彦の市…蛇の平十郎の手下
 おその
 白玉堂紋蔵…蛇の平十郎の手下
 前砂の捨蔵…夜兎の角右衛門の手下
 小間物屋の徳太郎…夜兎の角右衛門の手下
むかしの女
 おろく
 井原惣市…雷神党の首領格
 文治郎…鉄砲町の御用聞き
 (羽沢の嘉兵衛…香具師の元締)
 駒造…羽沢の嘉兵衛の右腕
 三の松平十…本鄕の顔役

池波正太郎の火付盗賊改もの