やはり本書では”五月闇”と”さむらい松五郎”の最後の二編でしょう。
特に、”五月闇”では鬼平ファンにとっては馴染みの人間が死んでしまうので、残念な思いをすることでしょう。
作者・池波正太郎のもとには、何で殺したのか?とか、仕方がないからお通夜をした等の手紙が来たそうです。
ファンを悲しませた後、”さむらい松五郎”で悲しい気分をいくらかでも和らげる設定にしてあるのは、作者の優しさでしょうか。
内容/あらすじ/ネタバレ
あごひげ三十両
長谷川平蔵宣以の部下の失態で、若年寄の堀田摂津守正敦から謹慎の命が出た。その後に、岸井左馬之助が訪ねてきて、珍しい人間を見たという。
かつて、恩師・高杉銀平を斬りつけようとした野﨑勘兵衛である。野﨑勘兵衛には平蔵が斬りつけた切り傷があるはずである。平蔵はふと覗いてみたくなり、左馬之助と一緒に赴く。すると、確かに野﨑勘兵衛がいた。
そこに、堀田摂津守正敦の家来がやってきて、野﨑勘兵衛の髭を三十両で譲って欲しいと頼み込んでいた。能面を作るのに必要なのだという。
尻毛の長右衛門
布目の半太郎は仲間のおすみとただならぬ仲になってしまった。頭の尻毛の長右衛門はこの事を知らないが、半太郎はおすみと所帯を持っても良いと考え、この事を尻毛の長右衛門に伝えようとするが…
殿さま栄五郎
火間虫の虎次郎という急ぎ働きをする盗賊から助っ人を紹介してくれと鷹田の平十は頼まれるが、気が乗らない。というのも鷹田の平十は急ぎ働きが嫌いなのである。
しかも、江戸には鬼平こと長谷川平蔵がいる。鬼平の怖さは尻毛の長右衛門の一件で身にしみて分かった鷹田の平十であった。しかし、火間虫の虎次郎の頼みは断れない。
浮世の顔
娘を犯そうとしている侍がいた。これを見ていた盗賊の二人は侍を殴り殺し、懐の金を頂いて、さらに気絶している娘を犯そうとしたが、ここで仲間割れが起きた。
そして片方の盗賊がもう片方を刺し殺してしまった。もともと仲の良い二人ではなかったようである。
五月闇
密偵の伊三次が負い目を持つ相手、強矢の伊佐蔵を見かける。平蔵に報告をするが、伊三次の受け答えはいつものようではない。それと知りながら、平蔵は強矢の伊佐蔵の探索を伊三次に任せた。負い目があるというだけでどうにも探索に身が入らない伊三次である。
さむらい松五郎
木村忠吾をさむらい松五郎と勘違いして声をかけた須坂の峰蔵。今のお頭は轆轤首の藤七という急ぎ働きをする盗賊であり、愛想を尽かしていたところをさむらい松五郎に出会ったと思ったのだ。須坂の峰蔵は木村忠吾に手下に加えてくれと頼む。
本書について
池波正太郎
鬼平犯科帳14
文春文庫 約二九〇頁
連作短編
江戸時代
目次
あごひげ三十両
尻毛の長右衛門
殿さま栄五郎
浮世の顔
五月闇
さむらい松五郎
登場人物
あごひげ三十両
堀田摂津守正敦…若年寄
野﨑勘兵衛
お兼
尻毛の長右衛門
尻毛の長右衛門…盗賊
布目の半太郎…盗賊
おすみ…盗賊
鷹田の平十…口合人
殿さま栄五郎
火間虫の虎次郎…盗賊
鷹田の平十…口合人
おりき…平十の妻
(殿さま栄五郎…盗賊)
浮世の顔
薮塚の権太郎…盗賊
三沢の磯七…盗賊
佐々木典十郎
およし
伊三郎…御用聞き
おりき…鷹田の平十の妻
五月闇
伊三次…密偵
強矢の伊佐蔵…盗賊
さむらい松五郎
木村忠吾…同心
須坂の峰蔵…盗賊
轆轤首の藤七…盗賊
さむらい松五郎…盗賊