記事内に広告が含まれています。

池波正太郎「鬼平犯科帳 第2巻」の感想とあらすじは?

この記事は約4分で読めます。

本書、第二話「谷中・いろは茶屋」で同心の中でも憎めない登場人物の木村忠吾が初登場します。

本書では二話で主要な役割を果たします。

また、小房の粂八と相模の彦十は密偵として板に付き始めてきているようです。

まだ、他の主要な密偵が登場していませんが、それも鬼平を読む上での、今後の楽しみです。

「蛇の目」が「鬼平犯科帳 劇場版」の原作の一つだと思われます。

(映画)鬼平犯科帳 劇場版(1995年)の考察と感想とあらすじは?
監督は鬼平犯科帳のテレビシリーズの監督もつとめている小野田嘉幹。松竹創業100周年記念作品。率直な感想としては、"別に映画化しなくても良かったのではないか?テレビの特番で十分"といったところ。

内容/あらすじ/ネタバレ

蛇の目

鬼平にさんざんに邪魔された蛇の平十郎。長谷川平蔵宣以の鼻をあかすまでは、江戸を離れないと意地になっている。その蛇の平十郎が目を付けたのが、医師の千賀道栄の家である。前の田沼時代に、金を貯め込んでおり、金が唸っているはずであった。

そして、予定通り押し込みに入ったものの、金蔵には金がない。なぜなのか?

谷中・いろは茶屋

同心の木村忠吾は、谷中にあるいろは茶屋でお松と戯れていた。金が尽きてきた忠吾は、お松と会えなくなると思っていた。しかし、世の中には奇特な人物がいるもので、お松に金を与え、好きな人と遊びなさいと言う。

このおかげで、忠吾はまたお松を会えるのだが、元々は火付盗賊改方の内勤の忠吾。そうそう外出はできない。ある晩、たまらず役宅を抜け出し、お松の元へはせ参じるつもりであった。

その途中で怪しい人間を見かけてしまい、忠吾はその人物の見張りを行う。

女掏摸お富

お富はかつての掏摸仲間の岸根の七五三造に脅されていた。百両を用意しなければ、お富の亭主に全てをばらすと言われたのだ。

今の生活を守りたいお富は必死になって、百両を作ろうとするが、それには掏摸をするしかなかった。久方ぶりの掏摸も、回数を重ねる毎に感覚を取り戻すお富。そして、約束の百両を用意し終えるも…。

妖盗葵小僧

小房の粂八が預かっている〔鶴や〕に妙な客が現れた。その客の話しを総合して推測するに、押し込みにあい、亭主の前で女房が犯されるという事件だったらしい。その話しを聞き終えた平蔵は、粂八と二人きりで捜査を始める。

やがてこの盗賊が頻繁に出没するようになった。しかもこの盗賊葵の御紋を身にまとった不埒な輩であった。しかし、この”葵小僧”の足取りはようとしてつかめない。平蔵を嘲笑うかのように犯行を繰り返す葵小僧。平蔵の面目は丸つぶれとなり、火付盗賊改方の評判も落ち、平蔵は憔悴する。

密偵

密偵のぬのやの弥市の前に乙坂の庄五郎が現れた。そして、弥市を縄ぬけの源七が狙っているという。弥市はたまらず、佐嶋忠介に報告をする。

しかし、この後、再び乙坂の庄五郎が現れ、盗みを助けてくれないかという。助けてくれれば、縄ぬけの源七の居所を教えるというのだ。

お雪の乳房

同心の木村忠吾が惚れて、夫婦になっても良いと考えた娘・お雪の父親は盗賊だった。お雪の父親である鈴鹿の又兵衛は、自身の引退を考え、最後の盗みをするつもりで準備を進めており、このことを知り困惑する。

埋蔵金千両

自分の命が後幾ばくもないと考えた、小金井の万五郎は、妾のおけいに隠し財産のことを漏らしてしまう。しかし、その後、医師の中村宗仙が治ると請負い、実際に治りかけると、おけいに隠し財産のことを漏らしたのを後悔する。

本書について

池波正太郎
鬼平犯科帳2
文春文庫 約三〇〇頁
連作短編
江戸時代

目次

蛇の目
谷中・いろは茶屋
女掏摸お富
妖盗葵小僧
密偵
お雪の乳房
埋蔵金千両

登場人物

蛇の目
 蛇の平十郎…盗賊
 白玉堂紋蔵…蛇の平十郎の手下
 千賀道栄…医師
 座頭の彦の市
谷中・いろは茶屋
 木村忠吾…同心
 お松
 墓火の秀五郎…盗賊
 油屋乙吉…数珠屋
女掏摸お富
 お富
 霞の定五郎…掏摸の元締
 岸根の七五三造…掏摸
妖盗葵小僧
 鶴屋佐兵衛…骨董屋
密偵
 弥市…ぬのや亭主・密偵
 乙坂の庄五郎…盗賊
 縄ぬけの源七…盗賊
お雪の乳房
 鈴鹿の又兵衛…盗賊
 お雪…又兵衛の娘
 つちや善四郎…足袋屋
 木村忠吾…同心
埋蔵金千両
 小金井の万五郎…盗賊
 おけい
 中村宗仙…医師

池波正太郎の火付盗賊改もの

映画の原作になった小説

藤沢周平「竹光始末」の感想とあらすじは?
短編6作。武家ものと市井ものが織混ざった作品集である。「竹光始末」「恐妻の剣」「乱心」「遠方より来る」が武家もの、「石を抱く」「冬の終りに」が市井ものとなる。また、「竹光始末」「遠方より来る」が海坂藩を舞台にしている。
井上靖の「敦煌」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)

敦煌が脚光を浴びるのは、20世紀になってからである。特に注目を浴びたのは、敦煌の石窟から発見された仏典である。全部で4万点。

司馬遼太郎の「城をとる話」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
覚書/感想/コメント昭和三十九年(1964年)に俳優・石原裕次郎氏が司馬遼太郎氏を訪ね、主演する映画の原作を頼みました。それが本作です。司馬氏は石原裕次郎氏が好きで、石原氏たっての願いを無下に断れるようではなかったようです。映画題名「城取り...
藤沢周平の「花のあと」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
「旅の誘い」は「暗殺の年輪」に収録されている「冥い海」とあわせて読むと面白い。「冥い海」は葛飾北斎から見た広重が描かれており、「旅の誘い」では安藤広重から見た葛飾北斎が書かれている。
井上靖「おろしや国酔夢譚」の感想とあらすじは?(映画の原作です)
覚書/感想/コメント「序章」で大黒屋光太夫ら伊勢漂民以外のロシアに漂着した漂民を簡単に書いています。それらの漂民は日本に帰ることはかないませんでした。ですが、この小説の主人公大黒屋光太夫は日本に帰ることを得たのです。帰ることを得たのですが、...
浅田次郎の「憑神」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
幕末も幕末。大政奉還が行われた前後を舞台にしている。主人公別所彦四郎の昔らからの知り合いとして榎本釜次郎が登場する。この榎本釜次郎とは榎本武揚のことである。
宇江佐真理の「雷桜」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
江戸という都会から少しだけ離れた山里。その山里にある不思議な山という特殊な空間が、現実を忘れさせてくれる舞台となっている。そして、そこで出会うお遊と斉道というのは、まるでシンデレラ・ストーリー。
京極夏彦の「嗤う伊右衛門」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)(面白い!)

第二十五回泉鏡花文学賞受賞作品。伝奇や幻想話というのは好きであるが、怪談やホラーというのは苦手である。だから積極的に読む気がしない。映画などに至っては見る気すらない。

藤沢周平「たそがれ清兵衛」の感想とあらすじは?
短編八作。全てが、剣士としては一流なのだが、一癖も二癖もある人物が主人公となっている。2002年の映画「たそがれ清兵衛」(第76回アカデミー賞外国語作品賞ノミネート。)の原作のひとつ。
佐伯泰英の「居眠り磐音江戸双紙 第1巻 陽炎ノ辻」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
坂崎磐音が豊後関前藩を出て江戸で暮らさなければならなくなった事件から物語は始まる。居眠り磐音の異名は、磐音の師・中戸信継が磐音の剣を評した言葉である。
山本兼一の「火天の城」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)

第十一回松本清張賞。織田信長の最後の居城・安土城をつくった職人たちの物語。天主を担当した岡部又右衛門以言、岡部又兵衛以俊の親子を主人公としている。安土城は謎に包まれている城である。

池波正太郎「雲霧仁左衛門」の感想とあらすじは?
池波正太郎の火付盗賊改方というと「鬼平犯科帳」があまりにも有名すぎますので、本書は霞んでしまう面がありますが、「鬼平犯科帳」とは異なり、長編の面白さを十分に堪能できる時代小説であり、短編の「鬼平犯科帳」とは違う魅力にあふれた作品です。
浅田次郎「壬生義士伝」の感想とあらすじは?(映画の原作です)(面白い!)

第十三回柴田錬三郎賞受賞作品。新選組というものにはあまり興味がなかった。倒幕派か佐幕派かといったら、倒幕派の志士の話の方が好きであった。だが、本書で少し新選組が好きになった。興味が湧いた。

藤沢周平「時雨のあと」の感想とあらすじは?
「闇の顔」の犯人は一体誰なのか。最後までわからず、そして、その犯人が意外な人物であることに思わず唸ってしまう作品。「鱗雲」では、二人の女性の対照的な結末が印象的な作品である。
司馬遼太郎の「梟の城」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
司馬遼太郎氏が第42回直木三十五賞を受賞した作品です。舞台となるのは、秀吉の晩年。伊賀忍者の葛籠重蔵、風間五平、木さる。そして謎の女・小萩。それぞれの思惑が入り乱れる忍びを主人公とした小説です。
藤沢周平「雪明かり」の感想とあらすじは?
直木賞受賞前後の短編集。大雑把には前半が市井もので、後半が武家ものだが、中間のものは市井もの武家もの半々である。藤沢周平としては前期の作品群になる。
池波正太郎「鬼平犯科帳第22巻 特別長編 迷路」の感想とあらすじは?

個人的に、鬼平シリーズの中で、本書が最も長谷川平蔵が格好良く書かれている作品だと思う。特に最後の場面は、思わず"目頭が熱く"なってしまった。

海音寺潮五郎「天と地と」の感想とあらすじは?
本書は上杉謙信の側から見事に描ききった小説であると思う。本書では、上杉謙信が亡くなるまでを描いているのではない。しかし、重要な局面で印象的に小説は終了している。
池宮彰一郎の「四十七人の刺客」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
第12回新田次郎文学賞受賞。いわゆる忠義の士を描いた忠臣蔵をベースにしたものではない。だから、忠義の士という描かれ方というわけではない。
池波正太郎「鬼平犯科帳 第6巻」の感想とあらすじは?

主立った登場人物が登場しつくし、登場人物が落ち着いてきている。本作で印象に残るのが、「大川の隠居」である。火付盗賊改方に盗っ人が入り込み、その盗っ人と平蔵の駆け引きがとても面白い作品である。