長谷川平蔵宣以が京へ旅をする期間を描いています。
京の寺に父・宣雄の墓があるため、墓参りに行く旅です。
道中を供するのが木村忠吾です。
忠吾が神妙に平蔵の供をするわけがなく、方々で遊んではしくじって、とうとうこの旅で平蔵に全く頭が上がらなくなってしまいます。
木村忠吾のキャラクターがほぼ形作られ、人気のある脇役となる過程が本作であるといえます。
また、本作では、平蔵の過去についても随所で触れられており、また、妻・久栄の過去も触れられています。平蔵夫婦のバックボーンについて多くが語られ、今後の下地となっていきます。
つまり、本作は平蔵夫婦と木村忠吾のキャラクター設定を理解する上で重要な作品と思われます。
内容/あらすじ/ネタバレ
麻布ねずみ坂
老盗・万五郎の重病を軽快にみちびいたほどの腕前の中村宗仙の指圧を平蔵は受けていた。
その宗仙の家から怪しい浪人が出てくるのを、同心の山田市太郎が見かけた。すぐさま、小房の粂八に頼み、浪人のあとをつけさせた。すると、浪人は羽沢の嘉兵衛の所に入って行くではないか。
宗仙と、怪しい浪人、そして羽沢の嘉兵衛の繋がりとは一体何なのか?宗仙が火付盗賊改方に出入りする者のため、緊張が走る。
盗法秘伝
平蔵は火付盗賊改方を解任されたが、多分に平蔵たちを一休みさせる意味合いがあった。
この機会をのがしては、父の墓参りも出来ないだろうと思った平蔵は、木村忠吾のみをつれて京へと旅だった。剣友の岸井左馬之助も、追って出立するという。
平蔵は駿河の宇津谷峠を超えたところで、若い男女を縄で縛り上げている無頼漢を見かかる。その、若い男女を助けるが、その様子を見ていた者がいた。
善八と名乗る男だが、よくよく聞いてみると、盗賊で平蔵に惚れ込んで、今までに蓄えた盗賊の秘伝を伝えたいというのだ。妙な成り行きに、平蔵は困惑しつつも、この善八につきあう。
艶婦の毒
京についてみると、先に京に入っている木村忠吾は相当に遊んでいるらしく、げっそりとしていた。忠吾は京である女にのめり込んでいたのだ。
その女をみた平蔵は、お豊であると看破した。このお豊はまだ昔の通りなら、盗賊の一味であるはずである。平蔵とお豊は浅からぬ因縁があった。昔、平蔵が父について京にいた折りに平蔵がのめり込んだ女なのである。
兇剣
平蔵と忠吾が京を見物している折りに、助けをもとめる女をひろう。女の名をおよねといい、出雲屋丹兵衛に勤める女中である。
およねを追っていたのが、猫鳥の伝次郎という男で、高津の玄丹の手下である。この伝次郎を見かけた牛滝の紋次は、牛滝の紋次は平蔵にやられた仲間の敵討ちをとりたいとこぼす。
紋次は高津の玄丹経由で白子の菊右衛門に平蔵の殺害を依頼する。しかし、菊右衛門は中村宗仙の一件以来、平蔵びいきになっていた。
一方、およねを執拗に探し回る高津の玄丹の一味。およねを奈良に送る途中襲われ、平蔵は九死に一生を得る。平蔵を助けたのは岸井左馬之助だった。一体、およねは何故襲われなければならないのか?
駿州・宇津谷峠
京の滞在中、江戸から至急戻るよう幕府からの命があった。恐らく平蔵を火付盗賊改方に再任させるためのであろう。平蔵は京を去るが、その帰路はのんびりとしたものであった。
岸井左馬之助も一緒に江戸へと向かったが、途中で平蔵と別れた。その先で、同郷の鎌太郎に会うが、鎌太郎は左馬之助を避けるようにして分かれた。その鎌太郎が実は…
むかしの男
平蔵が京からまだ戻ってきていない時に、久栄の宛に手紙が届く。かつて久栄をすてた近藤勘四郎からのものであった。
久栄は近藤勘四郎に会うが、どうせよからぬことを企んでいるに違いないと思い、中間の鶴蔵を連れていた。近藤勘四郎との短い対面のあと、久栄は鶴蔵に近藤勘四郎のあとを付けさせた。
屋敷へ戻ると、あわただしく人が行き来している。久栄が襲われたとの偽情報がもたらされ、屋敷中が慌てふためいていたのだ。そこに久栄は戻ってきたのだが、この混乱のなか、養女のお順がさらわれていた。
本書について
目次
麻布ねずみ坂
盗法秘伝
艶婦の毒
兇剣
駿州・宇津谷峠
むかしの男
登場人物
麻布ねずみ坂
中村宗仙…医師
お八重
山田市太郎…同心
白子の菊右衛門…香具師の元締
石川精之進…剣客
(羽沢の嘉兵衛…香具師の元締)
盗法秘伝
伊砂の善八…盗賊
艶婦の毒
お豊
虫栗の権十郎…盗賊
浦部彦太郎…京都・町奉行所与力
三浦伊勢守…西町奉行
兇剣
およね
猫鳥の伝五郎…盗賊
高津の玄丹…盗賊
白狐の谷松…盗賊
牛滝の紋次…盗賊
白子の菊右衛門…香具師の元締
駿州・宇津谷峠
鎌太郎…岸井左馬之助の幼なじみ
お茂
稲荷の徳治…盗賊
藤枝の久蔵…盗賊
むかしの男
久栄…平蔵の妻
お順…養女
鶴蔵…長谷川家の中間
近藤勘四郎
霧の七郎…盗賊