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池波正太郎「闇の狩人」の感想とあらすじは?

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仕掛人の世界と盗賊の世界。同じく闇に生きる二つの世界ですが、交わることのない世界を、一人の侍を媒介にして同居させ、さらに、武家社会の闇も同居させている作品です。

本書はある意味「鬼平犯科帳」の盗賊の世界と「仕掛人・藤枝梅安」の香具師の世界を同時に楽しめる、かなりおいしい作品といえます。

池波正太郎は、悪事ばかりに手を染めている悪党をえがくことはしません。

悪事をする一方、人助けをするという二面性をもつ人間としての悪党をえがくことが多いのです。

本来、悪党である盗賊と香具師の元締が、一人の記憶を失った侍を助けるという本書は、まさにこれです。

池波正太郎はどうも盗賊の世界を贔屓にしているように感じます。

特に、本格の盗賊は悪党にもかかわらず、あまり悪く書いていない感じがするのです。それは「鬼平犯科帳」においても感じることがあります。

ちなみに本格の盗賊とは盗賊三ヵ条を守る盗賊であり、盗賊三ヵ条とは以下をいいます。

一、盗まれて難儀するものへは、手を出さぬこと。
一、盗めするとき、人を殺傷せぬこと。
一、女を手ごめにせぬこと。

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内容/あらすじ/ネタバレ

上州と越後の境の温泉に湯治に来ていた雲津の弥平次は、思わぬ拾いものをする。ある一行に追われ、崖から落ちたために、記憶を失った侍を拾ったのである。

自分の名前を思い出せない侍に、弥平次は谷川弥太郎という名前を与えた。そして、弥平次と弥太郎は別れ、弥平次は江戸に戻った。

江戸に戻った弥平次は、盗賊・釜塚の金右衛門の跡目争いに巻き込まれていた。五郎山の伴助と土原の新兵衛が互いの陣営に人を引っこ抜いたり、もしくは敵の人間を殺し始めたのだ。

弥平次はこの争いを収めるために動き始める。
その頃、依然として記憶が戻っていない弥太郎は、弥太郎は五名の清右衛門という香具師の元締に拾われて、仕掛人として生きていた。五名の清右衛門は、同じ香具師の元締である白金の徳蔵からの圧力に危機感を覚えていた。

ある日、弥太郎は仕掛の為に斬った侍の口から笹尾平三郎という名を聞く。それが、自分の名前なのか?判然としない弥太郎であったが、嘗ての自分を取り戻す手がかりを得た。その手かがりは、やがて土岐丹波守につながっていく。

弥平次は、跡目争いを納めるために動いている中、偶然弥太郎を見かける。弥太郎が仕掛人として生きているのを知ると、仕掛人の世界から抜け出させるために、弥太郎を連れ出した。そして、弥太郎の過去を取り戻すために、一肌脱ぐ。

弥太郎は失った過去を取り戻せるのか?そして、土岐家との関わりはいったい何なのか?一方、弥平次は跡目争いをどう決着させるのか?また、五名の清右衛門と白金の徳蔵の勢力争いの結末は?

本書について

池波正太郎
闇の狩人
新潮文庫 上下計約九九〇頁
江戸時代

目次

ひろいもの
二年後
秋の声
水の底
鏡餅
隠れ家
煮こごり
飛ぶ雪
土岐家・下屋敷
春雷
白金の徳蔵
黄表紙の絵の男
木挽町・美濃半
船宿・ひたちや
陽炎
秘密
谷川弥太郎
三年後

登場人物

谷川弥太郎
おみち
お吉…ひたちやの女あるじ
〔盗賊〕
雲津の弥平次
おしま
徳治郎…船宿よしのや亭主
倉沢の与平
政七
亀次郎…政七の従弟
五郎山の伴助
土原の新兵衛
(釜塚の金右衛門)
(簑火の喜之助)
〔香具師〕
五名の清右衛門…香具師の元締
お浜…清右衛門の女房
金杉橋の長助…清右衛門の実弟
半場の助五郎
伊太郎
芝の治助…香具師の元締
白金の徳蔵…香具師の元締
(羽沢の嘉兵衛)

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池波正太郎の仕掛人・江戸の暗黒街

映画の原作になった小説

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