世界史上最も広い版図を築き上げたモンゴル帝国。
その祖・チンギスカンを主人公とした小説です。
覚書/感想/コメント
チンギスカンに比べれば、アレキサンダーやナポレオンなどの他の英雄達も霞んでしまいます。
さて、小説の読みどころの一つは、鉄木真(テムジン)が自身の出生の秘密に悩み、それを自身が蒼き狼たることを証明することによって払拭しようとする点です。
そして同じ様な悩みを抱えているはずの長子・ジュチに対しても同様に狼たらんことを求める点であると思います。
鉄木真とジュチの親子、そして、鉄木真の母・ホエルンと鉄木真の妻でありジュチの母でもあるボルテを絡めた人間模様は興味深いです。
「歴史小説の周囲」の井上靖氏のエッセーも興味深いので併せて読むのをおススメします。また、孫のフビライを扱った「風濤」も 併せて読むのをおススメします。
内容/あらすじ/ネタバレ
西暦一一六二年、父エスガイ、母ホエルンの子として生まれたのが鉄木真(テムジン)である。
鉄木真は生まれたときに獣骨の玉の形をした血の塊を握りしめていた。
ホエルンはメルキト部族に掠奪を受け、その後にエスガイに二重の掠奪を受けてエスガイの妻となったので、生まれた子が果たしてどちらの子であるかは判然としなかった。
少年になった鉄木真が惹かれたのはモンゴルの源流に関する伝承であった。
それは、”上天より命ありて生まれたる蒼き狼ありき。その妻なる惨白き牝鹿ありき。…”というものだった。
鉄木真は自分が蒼き狼の子孫であることに満足だった。
九歳になった鉄木真はエスガイに連れられてオンギラト部落へ行った。
そこの首領が鉄木真を気に入り、娘のボルテとの婚約が成立した。
そしてそのまま鉄木真は数年間をオンギラト部落で過ごした。
その期間を引き裂いたのは父・エスガイの死だった。
エスガイの死とともにエスガイが治めていた聚落は瓦解した。
皆が母・ホエルン、鉄木真の幕舎を見捨ててよそへ移ってしまった。
鉄木真は母や兄弟達を守るために独り立ちを迫られていた。
鉄木真が幕舎を切り盛りするようになってからも苦難は続いた。
それは、他部族に襲撃されるなどの困難を伴うものだった。
これらの困難を乗り越えた鉄木真はかつての約束通りボルテを妻として迎えた。
これを前後して鉄木真のもとにボオルチュやチンベ、チラウンらがやって来て、聚落は少し大きくなった。
聚落が少し大きくなったことで鉄木真は有力者のトオリル・カンに会っておこうと思い立った。
鉄木真の聚落は日に日に大きくなっていったが、ある日聚落をメルキト部族が襲撃してきた。この時に妻・ボルテが連れ去られてしまった。
それからしばらくは鉄木真は手を出せないでいた。
そして鉄木真はトリオル・カンに助けを求めた。トリオル・カンは快諾し、もう一人の有力者ジャムカとともにメルキト部族を討つことになった。
戦いは一方的なものになり、鉄木真はボルテを取り戻すことができた。
ボルテはこの時子供を産んだ。メルキトの子供である可能性もある。
鉄木真は自分の出生の秘密同様に、生まれた子供も同じ悩みを持つことを知り狼狽した。
鉄木真はジュチと名付けた。ジュチとは客人を意味する。
この後、鉄木真の聚落は大きくなっていった。そして推されて汗(カン)たることを宣言した。
これにより、トリオル・カンとジャムカとの決戦は避けられなくなっていった。
対決の順番はジャムカとが最初であり、次ぎにトリオル・カンとなった。
鉄木真は決戦に勝ち、ここに成吉思汗(チンギスカン)が誕生した。この時、鉄木真は四十四歳だった。
本書について
井上靖
蒼き狼
新潮文庫 約三三五頁
モンゴル帝国 13世紀
目次
蒼き狼
登場人物
鉄木真(テムジン)
ボルテ…妻
忽蘭…側室
ジュチ…長子
チャプタイ…次子
エゲデイ…三子
ツルイ…四子
カサル…実弟
カチグン…実弟
テムゲ…実弟
ベルグタイ…異母兄弟
エスガイ…父
ホエルン…母
ボオルチュ…重臣
ジェルメ…重臣
スブタイ…重臣、ジェルメの弟
ジェベ…重臣
ムカリ…重臣
クビライ…重臣
チンベ…重臣
チラウン…重臣
耶律楚材…重臣
トオリル・カン…有力者
ジャムカ…有力者