覚書/感想/コメント
「大槻伝蔵」の絡んだ加賀騒動が全くのデタラメなものであるというのは衝撃的である。権力のある人間が自己弁護のために事実を歪曲して、嘘に嘘を塗り固める様は、げに恐ろしいものがある。
「田沼意次」の評判が悪かったのは、収賄、政治の失敗もあるが、執政中の天変地異がしきりに至ったからでもある。天変地異はやむを得ないことにしても、むやみに賄賂をむさぼり、世の中を混濁させたことをみて、少才子の雄なるものと手厳しく海音寺潮五郎は評している。
「井上馨」は明治時代の維新政府の藩閥を土台とする貪官汚吏の代表者として取り上げている。その上で、海音寺潮五郎は井上馨の人生は、文久二年から元治元年までの三年間が最も美しいという。この頃の彼は、天才児であり、英雄であるといってよいとすらいっている。
海音寺潮五郎の史伝
- 武将列伝 源平編
- 武将列伝 戦国揺籃編
- 武将列伝 戦国爛熟編
- 武将列伝 戦国終末編
- 武将列伝 江戸編
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中国の史伝
内容/あらすじ/ネタバレ
大槻伝蔵
加賀騒動といわれる事件は、実在せず、大次伝蔵を葬り去るためのでっち上げである。
長兵衛という百姓が鉄砲足軽に召し出されて、前田家に仕えた。長兵衛の子をお居間坊主に召し出し、大槻長玄と名乗らせる。十七の時に大志を抱き、やがて還俗して大槻伝蔵と名乗る。藩主の信任は高く、やがて藩主お気に入りのお貞という側室と組み、お貞の産んだ子を次の藩主にと画策し始める。
…というのが加賀騒動だが、これは大槻伝蔵を葬り去るための前田土佐直躬を中心とする反対党のでっち上げであった。三田村鳶魚氏もこれを支持している。
天一坊
自分は徳川吉宗の胤であるという人物がいる。源氏坊天一と名乗る人物で、通称天一坊である。これがややこしくなったのは、吉宗が「覚えがある」と言ったらしいからなのだ。
だが、半年以上かかって調査すると、大体ニセ者であると見極めがついた。
田沼意次
田沼意次の家系はよくわからないが、吉宗がまだ頼方という名で、越前に三万石をもらって紀州家の分家となった時、意次の父もついていった。その後、紀州の本家を吉宗が継いだので、家来である意次の父も出世したようだ。理財の才幹のある人物だったようだ。
意次は将軍世子家重のお小姓となった。その後、家重のお気に入りもあり、吉宗の死後、家重の側衆になる。この後順調に出世を重ね、やがて幕閣一の権力者となる。
鳥居耀蔵
江戸後期・末期に幕府の官海を活躍した人物を見る上で、賄賂行使とスパイ利用は外せない。この二つは出世街道を走る車の両輪であったと考えられるからだ。
耀蔵の生年ははっきりしない。幕府の儒官林述斎の二男として生まれた。そして、鳥居家の旗本の養子となった。後年、陰険狡猾、まむしのような性格だが、若いころは磊落、豪放で、よく花柳界に流連したという。
耀蔵が当時の老中水野越前守忠邦に知られるようになったのは大塩平八郎の乱に関して、耀蔵が罪状書をでっち上げてからである。やがて、洋学を嫌う耀蔵は蛮社の獄をおこす。これを期に、耀蔵は町奉行となる。そして、秘密警察長官のような仕事に手を染め始める。
高橋お伝
明治九年、宿に二人づれの男女があった。宿帳には茶業内山仙之助、妻まつと書いてあった。このまつが仙之助を殺して逃げた。書置きがあり、仇討だとしれた。仇討禁止令が出たのは明治六年だが、まだこの頃は仇討に同情的である。
古着屋後藤吉蔵という者の家族から訴えがあった。その訴えから殺された仙之助は後藤吉蔵であることが分かり、さらには吉蔵が持っていたはずの二十五円の金がない。こうなると敵討ちではない。色仕掛けで宿屋に連れ込んで殺した上での犯行となる。
警察がしらみつぶしに捜すと、女が見つかった。これが高橋お伝である。取り調べが始まっても、なかなか白状はしなかった。そして、白状しても供述はくるくると変わった。そして、最終的な供述も肝心なところは皆ウソであった。
井上馨
井上馨の家はなかなかの名家である。毛利元就を主として迎えた時の本家家臣十五家の一家である。
馨は文武ともにいずれにも卓抜だったわけではない。だが、後には高杉晋作や久坂玄瑞と親交を結び、政治運動に熱中することになる。
馨がはじめて江戸に出たのは安政二年であった。天性そう慧敏とはいえないが、蘭学を学び始めた。その後、ヨーロッパを見聞する機会を得る。
幕府が滅び、維新政府が出来ると、大蔵大輔に任ぜられた。大蔵卿は大久保利通だったが、洋行して不在のため、実質的には馨が大臣となった。そして、尾去沢銅山事件、藤田組の贋札事件などに名を連ねることになる。
本書について
海音寺潮五郎
悪人列伝(四)
文春文庫 約二七五頁
江戸時代~明治時代
目次
大槻伝蔵
天一坊
田沼意次
鳥居耀蔵
高橋お伝
井上馨
登場人物
大槻伝蔵
大槻伝蔵
天一坊
天一坊
田沼意次
田沼意次
鳥居耀蔵
鳥居耀蔵
高橋お伝
高橋お伝
井上馨
井上馨