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風野真知雄「耳袋秘帖 第2巻 八丁堀同心殺人事件」の感想とあらすじは?

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シリーズ第二弾。今回は同心が殺されるところから始まります。

一体何の目的があるのか。次の事件が起き、殺されたのはまたしても同心。が、いずれの同心も町での評判が悪い。一体誰が?

根岸肥前守鎮衛は浪人の子です。幼名は河野銕蔵といいました。母が安生定洪という御家人の後添いとなり、安生姓になります。

年頃になると安生家に寄りつかなくなり、無頼の生活を送ります。二十二の頃に御家人の根岸家の株を金で買いました。これは、蔵前の米相場で、自らの手で稼いだのです。

この頃の南町奉行所は外堀の数寄屋橋御門内(今の有楽町マリオン裏手あたり)にあり、北町奉行所は外堀の呉服橋御門内(今の東京駅日本橋口周辺)にありましたた。

前作で、蔵前の米相場を張るのに、もう一人の仲間と一心同体の気持ちで刺青を入れたというのは分かっています。

根岸の大耳の赤鬼に対して、もう一人は目の大きな青鬼を入れています。

この人物が今回明かされます。

過去が明かされるというと、力丸姐さん。浪人者の娘で本名は新郷みか。

この力丸が根岸に「おたんちん」といいます。好かぬ客のことで吉原の花魁や、芸者衆の間で流行始めた言葉です。

この「おたんちん」にからめてというわけではないでしょうが、新しい人物が登場します。

重田貞一、のちの十返舎一九です。北町奉行・小田切土佐守直年の家来で、立場的には坂巻弥三郎と同じようなものでした。

さて、珍談・奇談が語られるのも本書の楽しみの一つですが、根岸の亡き妻たかが登場するのはお約束となっています。

そのたかがこう言う。

『「へっついに幽霊が出たんだとさ」
「幽霊が…まぁ、怖い」
たかが身をすくませて言った。』

…おいおい、たかさん、あんたが幽霊ですから。

本書の最後の場面がいいです。

下手人が飯も食わずに叫び続けます。喉は破れ、血も吹き出しているにちがいありません。

根岸も食事を取らずに聞きます。叫びは奉行所と役人たちの腐敗を訴えます。根岸は黙ってこれを聞き続けました。

「ひとぉつ。本当に、民のことを思いやっているのか!」
「ひとぉつ。保身ばかりに身をやつしておらぬか!」
「ひとぉつ。一日を商家の小僧のように必死に働いているか!」
「ひとぉつ。奉行所の家に生まれただけのことで、偉そうな顔で町を歩くのか!」
「ひとぉつ。年貢米で食いながら、その重きを考えたことはあるか!」
「ひとぉつ。百姓が凶作で餓死した年も、そなたたちが飢えぬのがなにゆえか、考えたことはあるか!」
「ひとぉつ。人よりも多く休み、人よりも楽な仕事を欲してはおらぬか!」

この叫びは、そのまま現在の政治家や官僚に当てはまる叫びです。

だが、この叫びに対して、

「うむ。わしのほうもな、そなたの話はこの大きな耳の袋に、ちゃあんと入れたからな」

と応えました。

現在、こうして答えてくれる政治家や官僚はいません。

内容/あらすじ/ネタバレ

昨夜、八丁堀の自宅にいた同心と、遊びに来ていた同心の二人が何者かに斬り殺された。月番の根岸肥前守鎮衛が担当することになるのだが、厄介になるのは目に見えている。北町奉行の小田切に代わってもらいたいくらいだ。殺された武井万之丞と江藤勘平は二人とも旧田沼派の同心で、町人のあいだでは評判が悪かった。

犯人捜しとは別に、根岸は坂巻に武井と江藤の仕事ぶりについて探ってもらうことにした。案の定、二人の評判は悪い。

「ちくりん」で瓦版をめくっていた根岸は好きな怪奇現象の話が載っているのを見た。狐が出たというのだ。出たのは三箇所で、深川佐賀町河岸の船宿、本所相生町の漬物屋、浅草花川戸町の運送屋だった。以前に似た話を聞いたことがあった。この一件に関しては、栗田に聞き込みをさせた。

栗田が聞き込みをしていると、狐の面が緑だったというのが判明した。この緑の面を根岸はどこかで見た記憶がある。それが、どこだったか…。

高積見回り同心の畑中長一郎が殺された。武井・江藤の下手人の手がかりが見つからない中での犯行だ。坂巻と栗田は行動を共にして探索に当たることになった。

畑中が殺される時に、でぶでぶと肥りやがって、このおたんちん…といったそうだ。さっぱり分からないでいる時に、北町奉行所の小田切家の家来・重田貞一にあった。私的な家来であるところは坂巻と同じだ。この重田は意味が分かったようで、洒落本くらい目を通した方がいいずら、と言い残して去る。

「ちくりん」の馬蔵に意味を聞き、重田貞一の屋号を聞いた。十返舎一九というそうだ。

料亭「うさぎ亭」のあるじ智助が殺された。

幹の瘤に人面が現われたというのでうわさになった。根岸は栗田、坂巻に「ちくりん」の馬蔵、岡っ引きの神田の辰五郎を連れて見に行った。

その翌日、坂巻と栗田は智助の殺しの聞き込みに向かった。智助は小梅屋という評判の良かった店を買い取って、店を広げていた。だが、この小梅屋が傾いた時になにか仕掛けがあったようだ。

小梅屋に勤めていた腕の良い料理人の房二に会うため、根岸と坂巻、栗田の三人が千住に向かった。房二と話している時に、意外な与力の名が登場した。田中慶四郎、古銅吹所見回りの与力だ。これが不正をしているのが判明し、未だに捕まらない下手人に狙われる可能性があった。

果たして、田中慶四郎が襲われ殺された。しかも、家来二人に中間二人を連れ、真っ昼間のことだ。五人が路上において一人残らず斬り殺された。凄腕としか言いようがない。

そば屋の麻吉がやってきて、へっついにお化けがでるのだという。しかも南蛮人の幽霊だ。

一方で、田中殺しの目撃者が出た。八丁堀の同心を見たという。まさか、仲間に…。そう思って憂鬱になっている栗田を北町奉行所の重田貞一がつけている。どうやら、重田は栗田を下手人だと思いこんでいるようだ。

麻吉の長屋に根岸らが出向き、南蛮人がいたというへっついの上を探すと、天井裏から書状が出てきた。だが、この書状に書かれていることがさっぱりわからない。

栗田、坂巻の二人をしても、厄介な相手だった。取り逃がしたが、今度は根岸が狙われ始めたようだ。

寛源という前世を見たり悪霊を祓う僧侶が評判になっている。それが奉行所でお祓いをすることになった。

一方、下手人が三人に絞られた。元定町回りの高岡留十郎、例繰方同心の三浦季之助、町火消し人足改めの同心、長谷川九馬だ。だが、坂巻と栗田がそれぞれを調べてみたものの、引っかかるものがなかった…。

本書について

風野真知雄
耳袋秘帖2 八丁堀同心殺人事件
だいわ文庫 約二八〇頁
江戸時代

目次

第一話 緑の狐
第二話 河童殺し
第三話 人面の木
第四話 へっついの幽霊
第五話 鬼の書

登場人物

根岸肥前守鎮衛…南町奉行
坂巻弥三郎…根岸家の家来
栗田次郎左衛門…根岸直属の同心
たか…根岸の亡き妻、幽霊
お鈴…根岸の愛猫、黒猫
雪乃…奥女中
力丸(新郷みか)…根岸の恋人
馬蔵(珍野ちくりん)…船宿「ちくりん」主
お紋…「ちくりん」女将
五郎蔵…海運業者の顔役
久助…幇間あがりの岡っ引き
辰五郎…栗田が手札を与えている岡っ引き
武井万之丞…養生書詰の同心
江藤勘平…橋回り同心
池上多七郎…年番与力
川原検校
畑中長一郎…高積見回り同心
おかど
鈴木玄蕃
総一郎
小佐田和友…隠密廻り同心
安二…竹屋の倅
智助…うさぎ亭の主
房二…料理人
田中慶四郎…与力
寛源…僧侶
高岡留十郎…元定町回り
三浦季之助…例繰方同心
長谷川九馬…町火消し人足改めの同心