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風野真知雄の「耳袋秘帖 第5巻 谷中黒猫殺人事件」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第五弾。ことごとく性格の違う栗田と坂巻。今回は栗田が犬派で、坂巻が猫派ということが分かった。ここまで性格が違うにもかかわらず、段々と互いに親しみを感じ始めているようだ。

もてない男・栗田が雪乃と結婚して、それに触発されたか、坂巻もそうしたことを意識するようになる。だが、シリーズ第三弾で坂巻といい雰囲気になっていたおもんが、大通人と駆け落ちをしてしまう。

気落ちする坂巻を栗田は慰める。もてない栗田に対して、坂巻はもてるという設定だ。だが、なぜか自分が気に入った娘には縁がない。
挙句の果て、今回は栗田にこう慰められる。

『「二人つづけて振られたくらいでなんだよ」

と、栗田が涙声で言った。坂巻が我慢して、栗田が泣いていた。

「おぬし、傷口をえぐろうとしていないか」』

この二人、仲が良くなっているのかどうなのか…

今回は根岸肥前守鎮衛の過去が一つ判明する。本作では登場しないが五郎蔵と大道芸人をしていた時期があったのだ。

そのときに消える蝦蟇という芸をした。箱に蝦蟇をいれ、その蝦蟇を消すという手妻だ。

その手妻を、おたかがやってみたいという。蝦蟇の代わりに毬を使った。おたかは根岸がやって見せたように同じように毬を箱に入れると、毬は見事に消えた。

『おたかの手妻は凄い。なにせ、毬だけでなく、指の先っぽが五本とも消えているのだから…』

…いや…そりゃそうでしょうよ…。おたかさん、あんた幽霊ですから…。

さて、今回の舞台となるのは谷中。寺の多い場所である。現在でも、寺…というより墓地の多いところだ。そこの通称「猫屋敷」が問題の場所となる。「猫屋敷」には黒猫が多く住んでいる。

そういえば、根岸の愛猫・お鈴も黒猫だった。お鈴がおたかに甘えようとするシーンは毎回出てくるが、このシーンは毎回切なくなってしまう。いつの日か、おたかがお鈴を抱き上げて、お鈴もおたかに存分に甘えられるようになればと願うばかりだ。

内容/あらすじ/ネタバレ

この年の春。根岸の身辺には生きものにまつわる怪異が相次いだ。

岡っ引きの辰五郎が谷中で猫が絡む話を始めた。巳之吉という若い魚屋が自分の母親に猫が乗り移ったといいだして怯えているのだそうだ。谷中といえば「耳袋」に二つ続いて化け猫が出たという話を書いた記憶がある。

興味を持った根岸は栗田、坂巻、辰五郎らを従えて谷中へ向かった。

二月に入って南町奉行所が当番の月。谷中の猫屋敷について苦情が持ち込まれた。猫が増えすぎて困っているというのだ。

その苦情を受け付けたすぐ後に、殺しの知らせが入ってきた。品川の高輪で起きたという。儀右衛門という質屋の主が殺され、すぐに怪しい男が浮かんだ。

伊之助という古道具を扱っている男だ。だが、証言があって伊之助は放免となる。両隣の住人が殺しがあった自分に伊之助が家にいたというのだ。二人とも伊之助が念仏を唱えているのを聞いていた。

念仏といえば「耳袋」に突然念仏を唱え始めた阿弥陀の話があった。この一件に関して、根岸は坂巻を動かすことにした。

猫屋敷に住む姉妹の妹おひでが奉行所にやってきた。二人は四国屋という海産物問屋の娘だったが、押し込み強盗があって両親を失っている。

この事件を扱っていたのは火付盗賊改の長谷川平蔵だった。平蔵は事件の解決をみないまま亡くなっている。押込んだのは面変わりの万蔵という強盗だ。

不思議なのは逃げた強盗らがいないようなのに、店にあったはずの金が消え失せていた。

一方、坂巻は品川の一件を追っていた。

猫屋敷のおひでが殺されて見つかった。だが、このおひで殺しはなかなか犯人が見つからなかった。

坂巻が猫屋敷を見張っていた。すると中から飯炊きの婆さんが出てきた。そのあとを付けるとどうもおかしい。そのまま湯屋に入ったので、坂巻も中に入った。この時期の湯屋は混浴である。驚いたことに、婆さんと思っていたのは男だったのだ。

根岸はある噂を流させることにした。猫屋敷を売り払って、すべてを更地にしてしまうという噂だ。

松平定信が根岸を訪ねてきた。「耳袋」に書かれた「蛇を養いし人の事」と題したものについて聞きたいことがあるというのだ。これは御三卿の用人が是非書いてくれと根岸に頼んだ話だった。これに松平定信は食いついてきた。なにかこの話に政治向きのものを感じ取ったようだ。

この頃、栗田と坂巻は猫屋敷の黒猫のおくまを追いかけていた。謎を解く鍵がおくまにあるからだ。

本書について

風野真知雄
耳袋秘帖5 谷中黒猫殺人事件
だいわ文庫 約二六〇頁
江戸時代

目次

第一話 二匹の化け猫
第二話 阿弥陀の念仏
第三話 ねずみの恩返し
第四話 箱の中の蝦蟇
第五話 竜になった蛇

登場人物

根岸肥前守鎮衛…南町奉行
坂巻弥三郎…根岸家の家来
栗田次郎左衛門…根岸直属の同心
たか…根岸の亡き妻、幽霊
お鈴…根岸の愛猫、黒猫
雪乃…奥女中
力丸(新郷みか)…根岸の恋人
馬蔵(珍野ちくりん)…船宿「ちくりん」主
お紋…「ちくりん」女将
五郎蔵…海運業者の顔役
久助…幇間あがりの岡っ引き
辰五郎…栗田が手札を与えている岡っ引き
松平定信…元老中
巳之吉…魚屋
古尾猫斎…絵師
上田十郎兵衛…定町回り同心
儀右衛門…質屋主
伊之助…古道具屋
天竺天蔵…からくり小屋の主
おひで
おえん…おひでの姉
佐吉…下男
弥助…小間使い
おせつ
新左衛門…日之出屋主
西郷市左衛門…将軍世子家慶付
矢萩勘兵衛…旗本
面変わり万蔵…盗賊