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風野真知雄の「耳袋秘帖 第8巻 麻布暗闇坂殺人事件」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第八弾。再び「闇の者」が姿を現す。「闇の者」はシリーズ第四弾「深川芸者殺人事件」でも登場している。これが赤鬼こと根岸肥前守鎮衛の宿敵となるのか?

「闇の者」には元締がいるようで、今回登場するのは実行役だけである。元締は一体誰なのだろうか?今から興味が湧いてくる。

「闇の者」への依頼の仕方はこうだ。ある神社の祠に一両とともに願文をそなえる。すると、それを読んだ闇の者達がやってきて、よからぬ願いをかなえてくれるのだそうだ…。

今回は麻布が舞台となっている。

麻布の七不思議というのがあるそうだ。本書でも取り上げられている「お化け椿」、またの名を七色椿。他に善福寺の逆さ銀杏、柳の井戸、門前の鷹石、山崎家の庭にある蝦蟇池、坂の名になっている狸穴、永坂にある要石。

これらのうち、蝦蟇池は今もあるという。ただし私有地の中にではあるそうだが…。

さて、雪乃が身籠もり、今からうきうきの栗田次郎左衛門。

あることがあって、けちけち生活をすると雪乃に宣言してしまう。で、実際に実行するのだが、この様子を根岸がおたかに話すと、おたかは次のように話した。

『「おや、草鞋を拾いましたか。割り箸も。お前さま。それくらいは倹約の序の口でございますよ。わたしなどは、割り箸はおろか爪楊枝まで拾いましたから。」
おたかは恥ずかしそうに言った。
けちけちのことで、おたかに勝てる人はまずいない。
なにせ、根岸の信じられないような赤貧の日々を支えたのである。』

ちなみに、根岸肥前守鎮衛は根岸の家を金で買って養子に入っている。

そういえば、栗田は虎縞のオス猫を飼っている。ネコの名はトラ助というそうだ。

最後に。

『「めずらしいな」
「なにがだ?」
「たいがい事件があるたび、おぬしは誰かに惚れる。今度はそれがなかった。だから、めずらしいや」』

言われてみれば、坂巻弥三郎は毎回誰かに惚れている。そして、その度に失恋している。

『「ほんとになかったと思うか?」
「え。いたのか?誰だ。白状しろ」
栗田はやけに気になるらしい。』

さて、坂巻が今回惚れた相手とは…。

内容/あらすじ/ネタバレ

麻布は坂の町である。落語「黄金餅」にもでてくる大黒坂を上って、一本松のところで出会う坂に暗闇坂と狸坂がある。暗闇坂は昼でも暗いところからきている。

この暗闇坂で大八車が暴走し、死人まで出る事故が起きた。死んだのは若い娘で、近々嫁に行くことになっていた。その相手が大八車を押していた若者の一人だった。

暗闇坂界隈に不思議な噂が立ちはじめた。幽霊が出るというのだ…。

閏月があった関係上、五月といっても梅雨が終わっていた。

南町奉行の根岸肥前守鎮衛は坂巻弥三郎と小者をつれて墓参りにきていた。その帰り道、根岸は知った顔と思った男とすれ違うが、ひどく元気がなかったので、人違いかと思った。

根岸は永坂町にある瀬戸物屋の信州屋を訪ねた。あるじの吟右衛門は、そばが苦手であるという。苦手どころか、口にしたら胸が苦しくなったりする。それを知っている者がいるらしく、風上からそばの粉を撒いている者がいるらしいという。根岸は坂巻に調べさせることにした。

根岸は栗田次郎左衛門を呼んで麻布の岡っ引き坂の才蔵について話を聞いた。昨日すれ違ったのが坂の才蔵だったからだ。ちなみに栗田の妻・雪乃は身籠もっている。

坂の才蔵は娘を暗闇坂で大八車が暴走した事故で亡くしていた。以来十手を返上しているという。

坂巻は信州屋の吟右衛門を訪ねていた。吟右衛門は後添えにおひろをもらっており、年の差がずいぶんとあるようだった。

次に坂巻は坂の才蔵を訪ねた。信州屋の調べを手伝ってもらうためだ。坂巻と坂の才蔵の二人で聞き込んでいると、信州屋のおひろが夜にたまに抜け出すことがあることが分かった。そして、そば屋の布屋太兵衛では吟右衛門に関する新たな情報を得た…。

栗田が湯島天神の門前で掏摸を目撃した。若い娘を狙っていたようだ。それを追いかけると、後ろから娘が財布はあったといってくる。勘違いだったようだ。ほっとしていると、栗田の袂から巾着が無くなっていた。五両もの大金が入っていたのだ。どこで落したのだ?

栗田はけちけちの生活をすることを雪乃に宣言した。

坂の才蔵が根岸を訪ねてきた。ちょうど宮益町の久助も来ていた。その久助が麻布の坂道を転がる大きな石のお化けの話をした。

この話を聞いたあと、根岸は坂巻にもう少し丹念に麻布の坂のことを調べさせることにした。

坂巻はお化けの石のことを調べはじめた。石は仙台坂を転がっていたらしい。石の転がる音を聞いた者も現れた。だが、ここは寺町でもある。墓も多い。近くの墓地に入ってみると、丸い石の墓石もあった。

旧暦五月二十八日は両国の川開きである。花火が盛大に打ち上げられていた。油問屋の魏山堂の主・孝右衛門も花火を打ち上げているうちの一人だった。

坂の才蔵を長八と勘七が訪ねてきた。二人は才蔵に、また、やると告げた。長八は長七屋のせがれ、勘七は長八のいとこである。長七屋はつぶれ、乗っ取るようなかたちで魏山堂が買い取った。孝右衛門は二人を放り出さず、手代として働かせていた。

暗闇坂を大八車がゆっくりと上っていく。引いているのは長八で、後ろに二人つき、ひとりが勘七だった。そして大八車が再び暴走した。その拍子に永坂の要石の子どもの石が剥がれた。

要石の子どもが剥がれたというので、近所の人間が騒ぎ出し、何かのお告げかもしれないから掘った方がいいということになった。
そして、出てきたのが猫の骨だった…。

魏山堂孝右衛門は石がめくれた話を聞いて顔をこわばらせた。だが、出てきたのが猫の骨と聞いて、一体何がどうなっているのか訳が分からなかった。

孝右衛門は闇の者と連絡をつけなければならないと思った…。

坂の才蔵が殺された。殺され方はひどいものだった。殺しを専門に請負う闇の者のしわざかもしれない。

神田明神に栗田と岡っ引きの辰五郎がやってきた。獅子頭の一つが盗まれたのだという。本来なら寺社奉行の管轄なので、二人は内密でやってきている。その頃、坂巻は長八と勘七を探していた。

後日根岸が神田明神にやってきて例の獅子頭を見た。そしてこれとそっくりの獅子頭が上野の東照宮にあることを思い出し、さっそく訪ねた。すると、意外なことが…。

本書について

風野真知雄
耳袋秘帖8 麻布暗闇坂殺人事件
だいわ文庫 約二七五頁
江戸時代

目次

序 坂の幽霊
第一話 そばが怖い
第二話 けちけち
第三話 お化け椿
第四話 子どもの石
第五話 鼻金剛

登場人物

根岸肥前守鎮衛…南町奉行
坂巻弥三郎…根岸家の家来
栗田次郎左衛門…根岸直属の同心
雪乃…栗田の妻
たか…根岸の亡き妻、幽霊
お鈴…根岸の愛猫、黒猫
力丸(新郷みか)…根岸の恋人
馬蔵(珍野ちくりん)…船宿「ちくりん」主
お紋…「ちくりん」女将
五郎蔵…海運業者の顔役
久助…幇間あがりの岡っ引き
辰五郎…栗田が手札を与えている岡っ引き
松平定信…元老中
吟右衛門…信州屋の主
おひろ
布屋太兵衛…そば屋
又蔵…樽屋
勘右衛門…左官の棟梁
坂の才蔵…岡っ引き
おうめ…才蔵の娘
長八
勘七
(勘助…勘七の父親)
孝右衛門…油問屋魏山堂の主
野末又四郎…旗本
松平周防守康定…寺社奉行