覚書/感想/コメント
前作のまさに続き。銀の仔豚を巡り、皇帝ウェスパシアヌスへの謀反は抑えられたと思われた。だが、謀反の加担した人間たちは素早くローマを離れてしまった。
そして、ヘレナ・ユスティナの元亭主アティウス・ペルティナクスの解放奴隷・バルナバスの姿が見え隠れする。
おれはウェスパシアヌスから依頼を受けて、反乱分子たちの説得に向かった。その先々でバルナバスの影がちらつく。
そして、おれも驚いたのだが、ヘレナ・ユスティナが目の前に現れて、この一件に首を突っ込もうとする。
今回の一件は複雑だ。驚くことも多い。ヘレナ・ユスティナが目の前に現れたことなどかわいい方だ。信じられないやつが目の前に現れた時なんざ、正直ぶったまげた。
まぁ、こいつが企んでいることなど、おれにかかれば赤子の手をひねるようなものさ。最後に、大きなしっぺ返しをしてやって、おれの気分はすっきり。
ヘレナ・ユスティナは愛しいさ。だが、二人の間を隔てる身分は、山よりも高く海よりも深い。おれはヘレナ・ユスティナをあきらめようと考えた。
『軍を辞めてこの商売をはじめてから五年。ていのいいなんでも屋だ。とかくするうち皇帝が、宮廷の仕事をしてくれたら貴族にしてやらんでもないと言い出した。貴族に資格を買えるほど金を稼ぐなど夢のまた夢だが、貴族となれば一族の誉れ、友だち連中の羨望の的、そのうえ中流市民全員に後足で砂をかけることもできる。そこでみんなおれに向かって「おまえの共和主義も分かるが、ここはちょっと目をつぶって皇帝の仕事を請け負え」とけしかけた。今やおれは宮廷お抱えの密偵。ちっともおもしろくない。新入りだから、嫌な仕事はみんなおれに押しつける。たとえばこの屍だ。』
お抱え密偵となったおれを皇帝ウェスパシアヌスはおれをいたく気に入っているのだが、その好意の表し方は、酷い仕事と雀の涙程度の金で報いてくれるというものだ。
いつまでたっても、貴族になんぞなれやしない。だけど、おれはヘレナ・ユスティナをあきらめるわけにはいかない。
密偵ファルコシリーズ
- 白銀の誓い
- 青銅の翳り 本書
- 錆色の女神
- 鋼鉄の軍神
- 海神(ポセイドン)の黄金
- 砂漠の守護神
- 新たな旅立ち
- オリーブの真実
- 水路の連続殺人
- 獅子の目覚め
- 聖なる灯を守れ
- 亡者を哀れむ詩
- 疑惑の王宮建設
- 娘に語る神話
- 一人きりの法廷
- 地中海の海賊
- 最後の神託
内容/あらすじ/ネタバレ
おれは親衛隊分隊長のユリウス・フロンティヌスと倉庫をめざした。屍の処理のためだ。
ここで深くかぶった緑のフードをかぶった男を見た。こいつがおれを家までつけてきた。倉庫に入り込んだのも、倉庫で何が起きたのか、倉庫にいた人間が誰なのかを知りたがっている。皇帝もおれも謀反を闇に葬ったつもりだが、まだ枕を高くして眠るわけにいかない。
おれはヘレナ・ユスティナと別れなければならない。身分が違いすぎて悲惨な状況だ。だが、どう切り出したものか…。
緑のフードを追いかけた先にあった飲み屋でおれは考えていた。この飲み屋の看板娘・ツリアが件の男がバルナバスという名であることを教えてくれた。つい最近どこかで聞いた名だ。
謀反を企てたペルティナクスの解放奴隷の名がバルナバスといった。ちなみにペルティナクスはヘレナ・ユスティナの元亭主だ。
これまでおれはバルナバスのことなどどうでもよかった。だが、今日の一件で目を覚ました。おれはクリソストに話を聞いた。
ペルティナクスの資産処分はおれを含め三人の宮廷付密偵の役割だ。おれとモームス、アナクリテスだ。モームスとは上手くいっている。アナクリテスとは微妙だ。
皇帝のウェスパシアヌスが呼んだ。ゴルディアヌスから、なぜ弟ロンギヌスが殺されるような羽目になったのかを聞いて来いという。
ペルティナクスの家財処分はゲミヌスという競売人に任せることにした。おれの親父だ。
おれは家に戻って倒れこんだ。謀反は片付いたのに、いらぬ人死がでた。バルナバスという解放奴隷が突然暗い影を落としている。
ウェスパシアヌスは通行証に著名してくれていた。おれはクロトンに向かった。イタリア半島を足にたとえれば、親指の下のたんこぶに当たる。
ラエススという男に出会った。ラエススはバルナバスを知っているといった。
もう一つの用事がある。ゴルディアヌスに会うことだ。だが、やつは何を考えたのか、賭場の用心棒のようなミロというやつを屋敷の執事に雇っている。
ようやくにしてゴルディアヌスに会えた。四十歳くらいの主神官だ。ゴルディアヌスがおれの話を聞く気になって、はじめて神殿の火事の話をした。
ゴルディアヌスは弟はローマで我々の立場を弁明することになっていたといった。
この後、おれは皇帝からの役目を無事果たし、意気揚々と皇帝のおひざ元に戻った。
皇帝はおれをネアポリスに送りこむ気でいる。バルナバスより先にクリスプスに用心するように伝えるのが使命だ。
ネアポリスにはペトロニウス・ロングス一家といっしょに向かった。皇帝の仕事を家族旅行と見せるためだ。それにおれの甥のラリウス。
カプア平原を横切る途中ですでに面倒が始まった。
おれたちはある男に会いにポンペイへ来た。そして俄か水道管屋になりすました。
ラリウスが極めて役に立つことが分かった。イシス・アフリカーナ号を見つけた。アウフィディウス・クリスプスの船で、おれが探していたヨットの名だった。
おれは元執政官のカプレニウス・マルケルスに会えた。この人物の家にあろうことかヘレナ・ユスティナが来ていた。
おれはヘレナに首を突っ込むなとくぎを刺した。バルナバスが危険だからだ。そのバルナバスはペルティナクスと異母兄弟であることをヘレナは教えてくれた。
カプレニウス・マルケルスをアウフィディウス・クリスプスが訪ねたとヘレナが教えてくれた。この時、どうやらもう一人客がいたらしい。一体だれだ?
おれは依然としてそのクリスプスに会えないでいる。そうしている内に、ヘレナの御友人と知り合う機会が巡った。アエミリウス・ルーフスという美男子と、その妹でパッとしないアエミリア・ファウスタだ。
おれはようやくクリスプスに会えた。そしてウェスパシアヌスからの恋文を渡すことができたわけだ。クリスプスは銀の仔豚の件についておれに聞いた。あれは国家機密だ。
クリスプスはウェスパシアヌスに返事を出すつもりはないようだ。翻意はできなかったということになる。
元執政官とバルナバスが公然と組んでいる。そのバルナバスにヘレナが会って話をした。おれは唖然とした。
より一層驚いたのは、おれの前にアティウス・ペルティナクスが姿を現した時だ。ローマ日録によれば、こいつは死んでいるはずだった…。
本書について
リンゼイ・デイヴィス
密偵ファルコ2
青銅の翳り
光文社文庫 約五四〇頁
目次
第一部 ごく平凡な一日 ローマ 晩春 AD71
第二部 クロトンの旅人 南イタリア(マグナ・グラエキア) 数日後
第三部 静かな家族旅行 ネアポリス湾 六月末
第四部 ヘルクラネウムの竪琴弾き ネアポリス湾 七月
第五部 存在しない男 ネアポリス湾 七月
第六部 クィリナーレ丘の屋敷 ローマ 八月
登場人物
マルクス・ディディウス・ファルコ…密偵
ヘレナ・ユスティナ…デキムスの娘
デキムス・カミルス・ウエルス…元老院議員
ペトロニウス・ロングス…第十三地区警備隊長
シルウィア…ペトロの妻
オリア…女中
ウェスパシアヌス・アウグストゥス…皇帝
ティトゥス・カエサル…第一皇子
ドミティアヌス・カエサル…第二皇子
モームス…密偵
アナクリテス…密偵
レニア…洗濯屋
スマラクトゥス…ファルコの家主
ラリウス…甥
おふくろ
ウィクトリナ…一番上の姉
マルキア…姪っ子、亡き兄・フェストゥスの娘
ゲミヌス
ミコ…義兄
ユリウス・フォロンティヌス…親衛隊隊長
ツリア
バルナバス
(ペルティナクス)
クリソスト
ゴルディアヌス
ミロ
クリスプス
カプレニウス・マルケルス
ラエスス
アエミリウス・ルーフス
アエミリア・ファウスタ
ビュリオン