覚書/感想/コメント
何で監獄にぶち込まれなきゃならないんだ?監獄から出たと思ったら不動産業界の大物から変な依頼がくるし…。
おれは何の因果か知らんが、皇帝ウェスパシアヌスに謀反を起こそうとした連中の説得に駆けずりまわったりと大忙しだった。ブリタニアに行ってひと段落したはずが、まだイタリアの中に反乱分子たちが逃げ回っており、それに会って説得してこいというのだから…。
で、やりすぎたおれは、宮廷の密偵頭のアナクリテスの大きな恨みを買ってしまったようだ。おれってドジ。
宮廷の密偵なんかやめてやると思っていたら、大金持ちの身内から、ある女を排除してほしいという依頼が来た。この女は結婚するごとに莫大な遺産を相続してきた。とても危険な女だ。ごく普通の男であるおれは、いちころだろう。
危険な女は遠慮したいおれだが、気の強い女神は大歓迎。もっか、おれの女神はヘレナ・ユスティナ。
身分の差がありすぎて、おいそれとは結婚できない。
『ヘレナと結婚するには四十万セステルティウス貯めて、皇帝に中流階級に格上げしてもらうしかない。』
絶望的な金額だが、まぁ、なんとかするさ。それに、ヘレナとの関係にも変化があらわれて、なんとなく、幸せっていうやつさ。
密偵ファルコシリーズ
- 白銀の誓い
- 青銅の翳り
- 錆色の女神 本書
- 鋼鉄の軍神
- 海神(ポセイドン)の黄金
- 砂漠の守護神
- 新たな旅立ち
- オリーブの真実
- 水路の連続殺人
- 獅子の目覚め
- 聖なる灯を守れ
- 亡者を哀れむ詩
- 疑惑の王宮建設
- 娘に語る神話
- 一人きりの法廷
- 地中海の海賊
- 最後の神託
内容/あらすじ/ネタバレ
ラウトゥミアエ監獄。おれは皇帝の密偵頭を出し抜くという初歩的なミスを犯して、けちな横領罪でぶち込まれた。相手が悪かった。アナクリテスは執念深い、奸智にたけた男だ。
おれをここから出してくれたのは、おふくろだった。ヘレナはアパートの家賃を払ってくれていた。
おれは皇帝の密偵を辞めるつもりだ。
ホルテンシウス・ノヴスの屋敷から使いがやってきた。使いはヒュアキントスと名乗った。ホルテンシウス本人からの使いではなかった。身内からの使いだという。
財産がらみだ。金が絡んでいるとなると、がぜん張り切る癖がる。
ホルテンシウス・ノヴスは解放奴隷だった。その身内であるサビナ・ポリアかホルテンシア・アティリアに会いに来てほしいという。
ポリアは問題の種を身内から取り除いてほしいと言った。同じ屋敷に住んでいても血のつながりはない。昔、ホルテンシウス・パウルスという主人の下で働いていた解放奴隷たちだった。
ポリアはホルテンシウス・ノヴスの婚約者がノヴスの命を狙っているという。
名はセヴェリナ。三回の結婚歴があって、結婚相手はそろいもそろって早死にだ。しかも相手が死ぬたびに遺産がごっそりと入る。
三人目の夫が死んだとき、法務官の取り調べがあったが、証拠はでてこなかった。
危険な女だ。おれはごく普通の男だ。ということは、危険な女には弱い。
セヴェリナ・ゾティカを取り調べたのはコルヴィヌスといった。その書記・ルシウスに話を聞いた。
最初の夫、セヴェルス・モスクスはロザリオ職人だったが、剣闘見物の最中に心臓発作で倒れた。二番目はエプリウスという薬種屋だ。売り物の咳止めドロップをのどに詰まらせて窒息死だ。三番目はグリティウス・フロント。猛獣の輸入をしていたが、ヒョウに襲われた。
ルシウスはセヴェリナが抜け目のない女だと言った。選ぶのは金はあるが、係累も地位もない男だった。
おれは三番目の夫・フロントを調べた。タレイアという女と話ができたのは収穫だった。
鍵を握っているのはガイウスという男だ。たいした手がかりだ。ローマの男の半分は、ガイウスと呼ばれたら返事をするだろう。残りの半分は、マルクスかルシウスだ。
密偵が聞いてあきれる。おれは白昼堂々、セヴェリナ・ゾティカにかどわかされた。セヴェリナは赤毛だ。この女の場合、縮れた錆色だ。
初対面以降、何度か俺はセヴェリナと顔を突き合わせた。で、依頼人の女性たちが、いくらでノヴスを解放してくれるのかを知りたがっていると言った。
セヴェリナは婚約を破棄する気はないと怒った。
そこに当の本人、ホルテンシウス・ノヴスが現れた。
アナクリテスはよほど執念深いらしい。おれは再び監獄にぶち込まれた。
そこにティトゥスがやってきた。ティトゥスはおれに鉛の延べ棒を使って密偵活動をした事実は不利だと言った。だが、おれは晴れて自由の身となった。
ノヴスを訪ねたが、屋敷のどこかに隠れてしまったようだ。そして、ドアと便座のあいだに横たわって死んでいた。
毒殺かもしれない。シェフのヴィリドヴィクスが進んでおれに話を始めた。
今夜は新しい事業のパートナーを探すための商売上の集まりがあった。その集まりにはセヴェリナはいなかったという。
ノヴスの死は早すぎた。結婚しないかぎり、セヴェリナは遺産を相続できない。あの女の狙いは何なのか…。
おれはセヴェリナを訪ねた。あの日、宴会の客はアッピウス・プリシルスだったという。不動産業界の大物だ。ホルテンシウス一族とは同業で、ライバル関係にある。
本書について
リンゼイ・デイヴィス
密偵ファルコ3
錆色の女神
光文社文庫 約四一〇頁
目次
ローマ 八月から九月 AD71
登場人物
マルクス・ディディウス・ファルコ…密偵
ヘレナ・ユスティナ…デキムスの娘
デキムス・カミルス・ウエルス…元老院議員
ペトロニウス・ロングス…第十三地区警備隊長
シルウィア…ペトロの妻
ウェスパシアヌス・アウグストゥス…皇帝
ティトゥス・カエサル…第一皇子
ドミティアヌス・カエサル…第二皇子
モームス…密偵
アナクリテス…密偵
レニア…洗濯屋
スマラクトゥス…ファルコの家主
おふくろ
マルキア…姪っ子、亡き兄・フェストゥスの娘
ホルテンシウス・ノヴス
サビナ・ポリア
ホルテンシア・アティリア
ヒュアキントス
セヴェリナ・ゾティカ
ヴィリドヴィクス
コルヴィヌス
ルシウス
セヴェルス・モスクス
エスプリウス
グリティウス・フロント
タレイア
ガイウス
アッピウス・プリシルス