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宮城谷昌光「介子推」の感想とあらすじは?

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介推。後に介子推とよばれ、中国全土の人々から敬われ、慕われ、漢の歴史家である司馬遷をも感動させ、後漢の時代には神となった男です。

春秋時代に覇者となった重耳(晋の文公)の臣下だった人物。

「世間のほめそやすおこないは、一格下の美事といってよい。」と本書で述べているように、介推には際だった功績が表に出ていません。

本人がそれを誇ることをしなかったからです。

それは徹底しており、介推が山に隠れることによって、初めて重耳が介推の様々な功績を知るほどでした。

介推の「世間のほめそやすおこないは、一格下の美事といってよい。」という姿勢は本書の最初から最後まで貫かれて書かれています。

控えめで、おとなしい人物というわけでもありません。生真面目で堅物、正論ばかりを言い、杓子定規で融通の利かない男というわけでもありません。そういう書かれ方はされていません。

あえていうなら、清廉な男ということになるのでしょうが、そういう単純なものでもない気がします。

つまりは、こういう事なのでしょう。

「栄達に目がくらむと、足下も昏くなり、人の道をふみはずします。…(中略)…。人からなにかを得ようとするのであれば、その人にまず与えなければなりません。救ってもらいたいなら、まず救ってあげることです。人がみていようとみていまいと、そなたの行為は、天が覧、山霊が瞰ておられる。…(後略)…」

介推自身、無欲というわけでもありません。それなりの欲はあり、満たされた時に素直に喜べる人間です。ですが、己の欲は人には見せず、己の行いを他人に誇ることはしません。

そこにあるのは、みるべき人はみているはずだ、人がみていないのなら、天がみており、精霊がみているはずだ。だから、己の行いが報われないことは一切ないのだと。

ですから、介推は重耳に従ってきた、それだけで生涯の誇りにするつもりでした。

それは、重耳が優れた人物であり、それに仕えるだけでも誇りに思えるからです。

また、こうした人物であれば、己の行いを誇らない人間のこともみているにちがいありません。

ですが、咎犯という、ひとりの男の欲望により、重耳を穢土に立たせようとしています。介推の無想は打ち砕かれたのです。

この欲望は虎です。

本書の最初に、虎が登場します。その虎は、病に効くといわれる水を求める里人を次々と食らいました。虎は人々の欲の化身です。邪神です。ですから、欲にまみれた里人は、さらに巨大な欲に食い殺されました。

天が重耳のためにひらいた道とはちがう道を重耳は歩き始めています。

その重耳の前に、人の目に見えぬ巨大な虎がいる。この虎は人を食べるごとに大きくなっていき、重耳や家臣ばかりでなく、晋国の民全てを食べ尽くすでしょう。誰かが虎を殺さなければなりません。

虎は介推がかつて退治した虎のようにはいきません。ですから、介推は本書の最後のような行動をとらざるを得なかったのでしょう。

本書と合わせて「重耳」を読むことをオススメします。

内容/あらすじ/ネタバレ

友人の石承ばかりか、その父・石遠も消えた。山に行ってくると言い残して二日経っても帰ってこなかった。介推は以前に石遠に連れて行ってもらった場所へ里人を連れて探しに出た。

その場所は、病に効く水のわき出る場所であった。途中、虎の足跡をみつけ、怖じけて逃げる里人もいたが、病に効く水のことを聞き、石氏親子探し以上に情熱を燃やす輩も少なからずいた。

介推が虎に襲われた。瀕死の重傷を負って里に戻ると、介推の母は命を賭して病に効く水を汲みに行った。

石氏親子が戻ってきた。虎に襲われた傷が癒えつつある介推は石承から何やら話を聞かされたらしく、重公子こと重耳のことを母にたずねた。

その頃、里人が度々虎に襲われ命を失っていた。皆、病に効く水をとりにいって命を失っているのだ。介推は不思議な老人と出会っていた。この老人は介推が虎を殺すことになるという。

石承が里から出た。介推にも仕官の望みはあったが、里にとどまったままだった。二十になったある日、石承が里に帰ってきた。公子夷吾に仕え、士になったのだ。石承によると、晋の公子の一人重耳は主君毒殺の疑いを受け、逃げているのだという。

一方、夷吾は上手く立ち回っているらしい。

二年後。介推は先軫という人物と出会った。どうやら重耳の臣下のようだ。あまり高位のものではないらしい。高位でない者の中に、こうした人物が仕えているということはよほど重耳という公子は優れているにちがいない。介推はそう考えた。

介推は茲英を連れて重耳のもとへと向かった。すぐに臣下になれるわけではないことは承知だ。先軫が言っていた咎犯の下につくことになった。介推と同じような身分のものに、籍沙、特象、泊盈というのがいた。

重耳は閹楚という晋の暗殺者に狙われていた。やはりそれだけの人物だからなのだ。やがて、介推は重耳直属の臣となった。

介推の体が、閹楚の存在をとらえていた。重耳を殺しに来たのだ。幸い、事なきを得たが、閹楚は閹楚で介推というただならぬものが重耳の側にいることを知った。二人の長い因縁が始まった。

重耳が斉へゆくという。これは晋への帰国を諦めたと宣言するのに等しい。この斉への旅の中で、不審なことが起きる。どうも、何者かが敵方に通じているようである。重耳の身に危険が及んでいる。

だが、一体誰が敵と通じているのかが分からない。また、介推はその通じている人物が自分の親しい人間であって欲しくないと願っていた。その敵とは石承であるようだった。

衛を通る時、衛の君主は重耳主従に冷たい仕打ちをした。重耳は怒りをあらわして衛を去った。だが、この主従の一団は食べ物に飢え、水に飢えるありさまであった。介推は自らの重たい体に鞭を打って、重耳のために食べ物と水を確保に努めた。そして、目的の斉へついた。

斉で重耳は厚遇された。だが、斉についても重耳は狙われた。どうやら臣下に反間がいるらしい。

斉の桓公が死病にいた。桓公の願いは次の君主の補佐を重耳にしてもらうことであった。重耳はこれを承諾し、斉への永住を決意した。だが、臣下が騙すようにして斉の国から重耳を連れ出してしまう。

主従は再び放浪の旅へと出ることになった。東で立ち、南で羽ばたき、西へ飛ぶ。重耳の偉業が始まろうとしていた。

本書について

宮城谷昌光
介子推
講談社文庫 約四七〇頁
春秋時代 紀元前7世紀

目次

早春の怪
石氏の秘密
謎の老人
霊木の棒
離散
先軫
緜上の風
狐氏の邑
公子の臣
閹楚
火の謎
樹陰の白刃
苦難の旅
希望の国
反間
月下の影
ひらく道
西方の天
友の死
介山

登場人物

介推
茲英
涓玄
喜杳
籍沙
特象
泊盈
蒲吉
栄比
沈沢
先軫
咎犯
重耳(文公)
閹楚
石承
石遠…石承の父