覚書/感想/コメント
2009年NHK大河ドラマ「天地人」の主人公・直江兼続関連本である。
あとがきにも『ペンをとる前に、直江兼続の資料を漁った』とあり、たとえ題名が直江兼続だけを想定しているわけではない言い訳をしても、直江兼続を書きたいのは間違いない。それに、執筆時期と出版時期を考えると「天地人」絡みであるのは疑いようがない。
ちなみに、漁った資料がどのようなものかは一切わからない。参考文献のない解説書は最初から記述の信頼性を疑った方が良い。
私の結論として、よほど興味と時間と金の浪費が好きならば止めないが、他にも多くの直江兼続を扱った本があるので、そちらを全て読まれることをオススメする。
とまどうのは、上杉謙信に多くの紙面を費やし、織田信長、近衛前久といったところまで書いてしまっているがゆえに、意外にも直江兼続関連の記述が少ないことである。
挙句の果てには、『紙幅の余裕がないので紹介できないが』とあり、ガッカリしてしまう。紙幅の余裕がないのは、余計なことを書いているからであるのは言うまでもない。
この「余計なこと」というのは、織田信長、近衛前久といった人物を書いているだけでなく、ところどころに小説風の記述をしているのも含んでいる。筆者は小説も書いているようなので、それが原因かもしれないが、完全に「余計な」記述である。
こうした点を排除すれば『紙幅の余裕は』生まれたはずである。
他の本の紹介でも書いたことがあるが、新書や選書といった本に期待されるのは、入門学であると思う。だから、これに小説風などを持ち込まれると気分が悪い。
小説なら、ちゃんとした小説を読むから、新書や選書ではそんなことをしないでくれと言いたい。
筆者が小説を書いているせいなのだろうか?
「もし」といったような「仮定」の話しが多い。
それに、近衛前久という人物を持ち出して「怪人」と紹介しているあたりは、それこそ伝奇小説やIF戦記などではよく見られるが、これは小説を面白くするための演出であり、新書で書くべきことではないと思う。たとえ書くにしても、なぜ「怪人」であるのかを説明しなければ意味がない。本書ではアプリオリなものとして「怪人」説を押し出しているので見識を疑う。
とまどうことは他にもある。それは記述の前後からみて矛盾している所や、記載がないにもかかわらず、記載があったがごときで話を進めている箇所が散見されることである。
こうしたことは、本の記述の信頼性を著しく損ねるので、気をつけた方が良い。
例えば。
『本能寺の変から三年後 秀吉が関白になった天正十三(1575)年、三成は、富山城の佐々成政を軍門に下した秀吉とともに、越後の越水城へやってきて、景勝と兼続に、面会を求めた。』
ここで「会った」と書いているのに、次では「最初に会った」時期をもっとあとの時代であると書いている。
『直江兼続が三成と最初に会ったのは、三成が会津へ検地に訪れたときで、このとき、兼続は、三成の事務能力の高さに舌をまいたという。』
次に、こうした記述もある。
『大名は「築城型」と「経済型」に分けられそうである。
築城型は、加藤清正、藤堂高虎、織田信長、豊臣秀吉が代表で、経営型が、武田信玄、徳川家康、上杉謙信である。
遠征や上洛、軍兵の整備には、資金が必要なので、勢い、経済に力が注がれる。
安土城をつくった信長も、大坂城や聚楽第をつくった秀吉も、経済力のほうは、弱かった。』
と書いているにもかかわらず、
『秀吉のいくさは、すべて、経済合理主義で、終着点が、朝鮮出兵だった。
途方もない浪費だった戦国時代は、そこで、終止符が打たれる。
いくさを、経済主義から政治主義へかえたのが、家康だった。』
とあり、前段では秀吉の経済力を否定しているにもかかわらず、後段では秀吉の経済力を認める記述となっている。
また、
『世界史上、もっとも長命だった徳川政権の土台は、前久が家康に叩きこんだ、勤皇思想によってつくりあげられるのである。』
という箇所では、徳川政権が世界史上最も長命だったという誤った記述や、どこからそうした結論が導き出されたのかがわからない、徳川家康に近衛前久が勤皇思想を叩きこんだという記述が合わせて書かれる呆れた状況である。
どの政権が最も長命だったかはさておき、徳川政権が260数年であり、同じ時代の中国では明が270数年だった。これだけでも、記述の誤りがすぐにわかる。
これにいたっては論外である。
『同じ養子で、七尾城攻めの際、兼続に煮え湯をのまされた上条政繁でさえ、恭順して、景勝についている』
この「煮え湯をのまされた」という箇所は、何を言っているのかがサッパリわからない。というのは、これが分かる記述がどこにもないからである。
最後に。
目次にはさらに項目を書いた詳細なものがあるが、ここでは書かない。全くオススメできない本について、その詳しい内容を書くのは、私の時間の無駄だからである。
本書について
謙信・景勝と直江兼続 義と愛の戦国武将
新野哲也
ベスト新書 約一九〇頁
解説書
目次
序章 戦国に幕を引いた文武兼備の武将
第一章 田園の交わり
第二章 春日山城物語
第三章 越後の龍
第四章 戦雲の果て
第五章 若き獅子たち
第六章 悲しき御館
第七章 歴史の悪戯
第八章 大坂城物語
第九章 直江状
あとがき
直江兼続年譜
直江兼続相関図