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乙川優三郎「生きる」の感想とあらすじは?

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第127回直木三十五賞受賞作品。直木三十五賞受賞作を含む短編三作品。

全てがテーマとしている事が暗いです。

最初は追腹、つまり藩主がなくなった後、切腹して藩主の元にゆくという行為の話。

次に、遊郭に売り飛ばされた侍の娘の話。最後は、出世に気を取られ身近な所にも目が届かなかった男の話。

それぞれのテーマが暗いのですが、それぞれの最後に一筋の光が見えるのが救いです。

また、それぞれの短編の主人公/準主人公の生きる姿勢が大地に根を下ろした木のように不動である点も共通しています。

この生きる姿勢には非常に感銘を受けます。作者から強く生きる事の大切さを諭されているようでもあるからです。

内容/あらすじ/ネタバレ

生きる

藩主・飛騨守の容態が思わしくない。余命幾ばくもないとの話しである。その折りに、筆頭家老の梶谷半左衛門が石田又右衛門と小野寺郡蔵を呼び出した。

用件は、追腹を止めさせるにはどうするかというものだった。梶谷はもっとも追腹をしそうな二人を呼び出して、止めるように説得したのだった。二人は梶谷に誓紙をしたため、追腹をしない事を誓った。

やがて藩主が亡くなると、禁令が出ていたにもかかわらず追腹する者が絶えなかった。石田又右衛門は誓紙を書いた手前、追腹をすることが出来ずにいた。

そして、追腹をするものは、身内にも出た。娘の夫・真鍋恵之助が追腹をしたのだった。事前に娘から夫の追腹を思いとどまるよう説得してくれと頼まれた又右衛門にとっては悔やみきれない結果となった。

日が経つにつれ、周囲の又右衛門に対する視線が冷たくなってきた。最も追腹を切りそうな男が何故生きているのかという蔑みの視線なのだ。それに耐えつつも、生きる事を覚悟した又右衛門だが…

安穏河原

双枝の父・羽生素平は、藩に意見書を提出したが採用されないのを知ると、藩に暇を請い野に下ってしまった。始のうち、浪人として生活していく事に対して高をくくっていた節があったが、やがて世間の厳しさを思い知るのに時間はかからなかった。

家族の生活がどうにも立ちゆかなくなると、娘の双枝を遊郭に売り飛ばす事になってしまった。しかし、この事を後悔している羽生素平は伊沢織之助という浪人に頼み込んで、娘の様子を見てもらっていた。

双枝は厳しく育てられたせいか、遊女になってもその気概は微塵も揺るぐ事がなかった。そのことを羽生素平に知らせると、厳しく育てすぎたと後悔をすることしきりである。

早梅記

高村喜蔵は若い時から出世する事に意欲を燃やしており、事実軽輩の身からは考えがたいほどの出世をした。

しかし、隠居してみて残っていたのは心の通わない息子夫婦だけであった。妻は既になくしており、鬱々とした日々を過ごしていた。

その時の思い出されるのが、かつて下女として奉公していた”しょうぶ”のことである。妻・ともを迎えるまでは妻同然に接してきた”しょうぶ”であったが、ともを迎える前に奉公を辞めたのだった。

その後の”しょうぶ”の行方は聞かないが、幸せにしているのだろうかという事ばかりが頭をよぎる。

本書について

乙川優三郎
生きる
文春文庫 約二五〇頁
短編集
江戸時代

目次

生きる
安穏河原
早梅記

登場人物

生きる
 石田又右衛門
 佐和…妻
 五百次…息子
 けん…娘
 小四郎…孫
 真鍋恵之助…けんの夫
 津万平…若党
 飛騨守…藩主
 梶谷半左衛門…筆頭家老
 小野寺郡蔵…旗奉行

安穏河原
 双枝
 羽生素平…双枝の父
 伊沢織之助

早梅記
 高村喜蔵
 とも…妻
 伊織…息子
 しょうぶ
 玉井助八…友人