逢坂剛の「重蔵始末 第2巻 じぶくり伝兵衛」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

題名のじぶくり伝兵衛。「じぶくる」とは、下世話に屁理屈をこねたり、ぐずぐず文句を言ったりすることを指すらしい。

最初の「吉岡佐市の面目」で登場する<葵小僧>は本役の長谷川平蔵組が捕えることになる。

気になるのは長谷川平蔵を主人公とした池波正太郎の「鬼平犯科帳」。同じ題材が取り上げられている。「鬼平犯科帳2」の「妖盗葵小僧」がそれである。あわせて読まれると良いと思う。

さて、本作では鬼ヶ嶽谷右衛門が度々登場する。作者の角力好きが反映されてのことだろう。そのなかで面白い蘊蓄があった。

それは横綱についてである。横綱は大関の上を行く最高位ではなく、名誉の称号である。だから、大関の中からだけでなく、関脇の座からもこの称号を得ることがあったらしい。

内容/あらすじ/ネタバレ

吉岡佐市の面目

吉岡佐市が町人にどぶ川に突き落とされた。吉岡佐市は重蔵が昔剣でかなわなかった相手である。その様子を余一郎と団平が見ていた。

その重蔵であるが、組頭の松平左金吾とともに城中に上がっていた。江戸を騒がす葵小僧一味に関して叱責が予想された。果たして予想通りであった。ついては、他の御先手組すべてを臨時の市中警備にあたらせることになった。

さて、余一郎と団平の話を聞いた重蔵は怪しんだ。そして団平に吉岡佐市の様子を見張らせることにした。

その一方で、重蔵と余一郎は葵小僧の被害にあった場所を確認していた。重蔵はそこですべて川から近いところでの犯行であると指摘した。

吹上繚乱

筆頭与力・佐田陣十郎が組頭の松平左金吾に呼ばれた。相談は上覧角力のことだった。その上覧角力に陣十郎と重蔵を連れて行くというのだ。重蔵は角力に詳しい。御下問があったときのための用意である。

そのことがあってしばらくして、重蔵は鬼ヶ嶽谷右衛門とともに「はりま」で食事をすることになった。

そこで、「はりま」に最近よく来る村尾主水という侍が鬼ヶ嶽谷右衛門に勝負を挑んできた。村尾主水という侍、柔術に惚れ込みすぎ、柔術の優位を信じて疑わなかったのである。

為吉が事を穏便に済まそうとしたが、重蔵が蒸し返し、村尾主水をやり込めてしまう。

そして将軍・家斉、老中・松平定信の前での上覧角力の日がやってきた。

じぶくり伝兵衛

侍と願人坊主が派手な喧嘩をしている。やがて願人坊主が侍を追っ払う形で決着を見せたが、その願人坊主の持っていた金棒を取り上げた。

願人坊主はそのまま姿を消してしまったが、その直後に方々から物を盗まれたとの被害が告げられてきた。皆この喧嘩を見ている内にやられたらしい。

余一郎は残された金棒を作った職人を捜し回っていた。やがて、作ったのが藤吉であることが判明した。その藤吉を訪ねた帰りに、南町奉行所同心・青柳隼人の手下・くちなわの弥七を見かける。まさか、弥七も藤吉を訪ねるのか。

別の日、余一郎は方々で喧嘩やらの騒ぎが同時に起きているのを耳にした。まさか、この前と同じ様なことが起こっているのか。

火札小僧

寛政四年(1792年)の元旦、余一郎と団平は市中見回りに出ていた。大晦日にかけての三日ほどの間に「火札小僧」を名乗る何者かが、あちこちの門戸に火札を貼り歩いたためである。

火札とは放火を予告する脅し文である。貼付けられた場所はいずれも評判が悪いところだった。

団平が不審者を発見した。追いかけたが、相手は驚くほど足が速く逃げられた。だが、この不審者は火札を残していた。

この火札を役宅に持ち帰り、中身を改めると、これまでとは内容が少し異なっていた。重蔵はこれを興味深く読んだ。

火付けについてのみならず、別のことが書かれていた。それは、海防強化についてであった。内容は林子平の「海国兵談」からの引用である。

星買い六助

勧進角力が神田明神で開かれた。重蔵、余一郎、団平は懇意にしている鬼ヶ嶽谷右衛門が出ることもあり、見に行った。

鬼ヶ嶽谷右衛門の取り組みは誰もが鬼ヶ嶽谷右衛門の勝ちを信じていたが、番狂わせで鬼ヶ嶽谷右衛門が負けた。この取り組みが終わるとすぐに重蔵は席を離れ、団平に鬼ヶ嶽谷右衛門を「はりま」に呼ぶように告げた。

「はりま」にやって来た鬼ヶ嶽谷右衛門に、重蔵はなぜわざと負けたのかと聞く。余一郎と団平は驚くが、鬼ヶ嶽谷右衛門は素直にそれを認めた。

鬼ヶ嶽谷右衛門には妹がおり、この妹が先日襲われた。襲われたときに女郎屋から逃げ出そうとしていた、おりよという女郎が妹を救ってくれたというのだ。

そのおりよに礼をするために、おりよの足抜けの金をつくるためにわざと負けたという。

本書について

逢坂剛
じぶくり伝兵衛-重蔵始末二
講談社 約三七〇頁
連作短編集
江戸時代 火盗改もの

目次

吉岡佐市の面目
吹上繚乱
じぶくり伝兵衛
火札小僧
星買い六助

登場人物

近藤重蔵…火盗改与力
根岸団平…重蔵の若党
橋場余一郎…火盗改同心
為吉…「はりま」主、元力士「播磨灘沖右衛門」
えん…為吉の女房
鬼ヶ嶽谷右衛門…力士
松平左金吾定寅…火付盗賊改方加役
佐田陣十郎…筆頭与力
青柳隼人…南町奉行所同心
くちなわの弥七
音若…常磐津の師匠
りよ…女盗賊

吉岡佐市の面目
 吉岡佐市
 おきぬ
 仙太郎
 おまき
 亀吉

吹上繚乱
 鬼ヶ嶽谷右衛門…力士
 村尾主水

じぶくり伝兵衛
 くちなわの弥七…岡っ引
 藤吉…職人
 じぶくり伝兵衛
 仁科伊之助

火札小僧
 野呂田孫右衛門…同心
 扇造…野呂田の下男
 林子平

星買い六助
 鬼ヶ嶽谷右衛門…力士
 おりよ…女郎
 六助…渡り中間

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