覚書/感想/コメント
シリーズ第四弾。本作で一松は徳川光圀から追認状をもらう。
「愛甲派示現流生涯修行者大安寺一松弾正
流儀剣名此れ確と追認致候
梅里宰相光圀」
天下の徳川光圀直々の追認状だ。これで大手を振ることができるが、逆に一層水戸との繋がりが深まったというべきだろう。
前作に引き続き、徳川光圀vs徳川綱吉。そもそもこの二人に確執が生まれたのは綱吉の後継問題である。綱吉には直系の子がいない。当然後継問題が浮上する。ここで意見の対立があるのだ。
皮肉なことに、綱吉が将軍になれたのも、後継問題があったからである。四代将軍家綱が亡くなった時、直系の子がいなかった。
この時、大老・酒井忠清は京から宮様を迎えて五代将軍に据えようとしていたといわれる。
そして、これに反対して、実弟の綱吉の擁立を主張したのが徳川光圀である。
つまり、綱吉にとっては徳川光圀は自分を将軍にしてくれた人物であったのだ。だが、今度は自分の後継問題に絡むと、対立する人物として立ちはだかることになる。皮肉なものである。
さて、「水戸黄門」では助さん、格さんというと、助さんの方にスポットが当たっている感じである。本シリーズでいうと、佐々木介三郎だ。
だが、本シリーズでは安積覚兵衛の方にスポットが当たっている。佐々木介三郎と安積覚兵衛の年齢差はおよそ十五。覚兵衛の方が若い。年齢的に安積覚兵衛の方が一松に近いという点も考慮されているのだろうか。
ちなみに、二人とも「大日本史」の編纂をしている彰考館の総裁となっている。学者として一流だったのだ。
彰考館の総裁は大体二名(三名の時もあったようだ)が置かれていたようである。このシリーズの時分、佐々木介三郎と安積覚兵衛の二人は総裁であった。
今回も新たな秘剣が生み出される。船中での闘いから得た「船中不動斬り」。これを改めたのが「秘剣孤座」である。
今までのように、跳躍して打ちかかるものではなく、文字通り、座して敵を倒す剣である。狭い空間などで有効な秘剣である。
内容/あらすじ/ネタバレ
元禄五年(一六九二)の陰暦十一月。一松は大川を渡る船に乗っていた。鷲神社の一の酉を見に来ていた。
土地やくざが仕切る賭場で稼いだところで賭場を出ると、後ろから用心棒らが一松を追いかけてきていた。負けた金惜しさに差し向けてきたのだ。
一悶着あった後、一松は通称「鉄砲河岸」と呼ばれる吉原の河岸にいた。そこで目の不自由な女郎・おうめと一晩を過ごした。
この日、一松は安積覚兵衛とともに徳川光圀が千趣会と名付けた集まりの影警護をした。その後も、光圀は屋形船を出して度々外出していた。
その度に一松は影警護をする。光圀は真の敵を探るためにそうしているのは明白だった。自らの前に敵をおびき出そうとしているのだ。
老公が鷲神社の酉の祭礼を見物したいといいだした。昨日一松が騒ぎを起こした場所へ行くのだ。
江戸での用事が済んだと満足げな光圀が屋形船に乗っている時のこと。光圀を狙う刺客が現われた。一松は屋形船に乗る前から気配を察知して、光圀と安積覚兵衛と別れて行動していた。
船にいる刺客を次々と葬り去る一松。船中故に激しい動きは制限される。その中、一松は「船中不動斬り」と名付ける秘剣を編み出した。
光圀は水戸へ戻る船に乗っていた。船には明からの渡来人である朱舜水が乗っていた。安房の館山に寄港し、銚子に寄港した。船中で一松は「船中不動斬り」の稽古に余念がない。銚子で再び光圀を狙う刺客が現われた。
一松は光圀一行と別れて、やえの待つ白子の里に戻っていった。
一松はやえを連れて成田山に初詣に行くことにした。成田に着いた一松をやえ。その姿を薩摩藩の探索方・萬次郎が見かけた。
白子に戻ると安積覚兵衛が二人の帰りを待っていた。一松と別れたあと、光圀は領内で野犬狩りを派手に行い、その皮をはいで早飛脚で江戸城へ送りつけたという。一松ですら仰天することを光圀はやってのけていた。
一松と安積覚兵衛は江戸に戻った。犬のなめし皮の波紋は大きく、柳沢保明が藩主・綱条を呼び出して叱責していた。それを受け、家老の藤井紋太夫は光圀派の粛清に入ろうとしている。
光圀派の会議が行われ、そこで覚兵衛は光圀からの書簡を披露することになっていた。一松はこの会議が滞りなく行われるための影警護をすることになったのだ。
本書について
佐伯泰英 秘剣・悪松4
秘剣孤座
祥伝社文庫 約三一〇頁
江戸時代
目次
第一章 酉の祭舞
第二章 お忍び老公
第三章 犬のなめし皮
第四章 成田山初詣で
第五章 激闘梅林庵
登場人物
花房長太郎…旗本倅
おうめ…女郎
矢の字…切見世の差配
藤次郎…代貸し
新免半兵衛
九重平…網主
道造…賄
安房屋徳三…商人
新三郎
寺台の貫助
埜末段五郎…武芸者
徳川光圀…前水戸藩主
安積覚兵衛
佐々木介三郎
服部久米蔵…用人
(薩摩藩)
萬次郎…薩摩藩探索方