覚書/感想/コメント
シリーズ第十六弾。
前作から始まった、主要な人物たちの身辺の変化。
これはまだ数作続く感じではあるが、本作では、シリーズの第一巻に始まる、豊後関前藩の騒動に絡んで、その身を苦界に沈めることになった磐音の許嫁・小林奈緒こと白鶴の身辺の変化がメインのテーマである。
本書で、第一巻から続く豊後関前藩を柱とした人物たちとの関係も大きく変化しそうな感じである。
大ざっぱな言い方をすれば、本書で”居眠り磐音 江戸双紙”の第一部の終わりの始まりといったところか。
第一部の終わりの始まりとは変な言い方だが、主要人物たちの身辺が変化している最中なので、この身辺の変化が終了した時点で本当の終わりを迎えるのだろう。
第二部のスタートは、もちろん磐音とおこんが結ばれてからである。
さて、最初に登場する”おいてけ堀”。江戸で普通、”おいてけ堀”と呼ぶときは浅草須賀町の須賀橋から隅田川に至る堀を指すらしい。本書で登場するのは、堅川と南十間川が交差する北東の亀戸村にある池だそうな。
内容/あらすじ/ネタバレ
お艶の三回忌の法要を前に今津屋吉右衛門は坂崎磐音とともに水垢離に行った。この法要が終わると、お佐紀との婚礼が控えている。
そのお佐紀を迎えに行ったときのこと。お佐紀は磐音に姉のお香奈から文がきて、なにやら面倒に巻き込まれている様子だという。文では五十両を願ってきている。
磐音は地蔵の竹蔵に相談をし、お佐紀の心配を取り除くために動き始める。
絵師の北尾重政が顔を出した。北尾は白鶴が落籍されるという噂が流れていると知らせてきた。相手は奥州山形藩の紅花商人で前田屋内蔵助という。
だが、ここに、前田屋内蔵助に落籍されて山形に連れて行かれるのなら、白鶴を殺してでも阻止をするという者がいると噂が流れているそうだ。
その話を聞いたあと、今津屋に向かうと、由蔵と吉右衛門がお佐紀との婚礼に際して仲人をたてるかどうかで意見が対立しているという。磐音は意見を求められて、仲人をたてた方がいいという。
だが、仲人を選ぶのが難しい。磐音は将軍・家治御側御用取次の速見左近が頭に浮かんだ。
白鶴の件に関して、磐音は四郎兵衛会所を訪ねた。白鶴落籍と脅迫に関しては四郎兵衛はそれなりの情報を持っているが、磐音を丁子屋宇右衛門にあわせることにした。
今回の一件は、妓楼内部の者が一枚かんでいるようだ。そうこうしているうちに、白鶴の禿・お小夜が殺された。
犯人は一体誰だ。白鶴を妬む者の犯行であるのなら、なにも男だけとは限らない。夜番の万次の意見は遊女の妬みが絡んでいるとのことである。そして、太夫の高尾は白鶴が来る前の丁子屋を調べよという。そして、再び殺しが起きた。
白鶴が落籍されるまで、日にちはそれほどない。磐音は白鶴を無事吉原から出すことができるのか。
本書について
佐伯泰英
螢火ノ宿
居眠り磐音 江戸双紙16
双葉文庫 約三四〇頁
江戸時代
目次
第一章 おいてけ堀勝負
第二章 白鶴の身請け
第三章 禿殺し
第四章 四人の容疑者
第五章 千住大橋道行
登場人物
お香奈
大塚左門
吉村作太郎
小久保五郎次
小右衛門
前田屋内蔵助…奥州山形藩の紅花商人
北条左玄坊…修験者
丁子屋宇右衛門
お久美
お楊…浅草奥山の見世物小屋の手妻遣い
速見左近
和子…速見の奥方
お小夜…白鶴の禿
繁三郎
万次…夜番
三浦屋高尾…太夫
雛菊
お柊…雛菊の姉
園部祐吉
上総屋徳蔵…蝋燭問屋
光次郎…出刃打ち
野狐の彪次