覚書/感想/コメント
シリーズ第二弾。
相変わらずの貧乏浪人生活。度々食う事にも事を欠き、その都度何とか糊口をしのぐという生活を繰り返している。だが、全体的に切迫感がないのは、坂崎磐音がのんびりとした性格だからであろう。
この巻から坂崎磐音と豊後関前藩宍戸派との戦いが始まる。この巻では、なぜ宍戸派が坂崎磐音を敵視するのか、その概略が記されている。
さて、本書に登場する内藤新宿とは現在の新宿である。朱引きの中に入り、江戸とされる。だが、四谷大木戸の外でもある事から、感覚的には江戸の外といっても良いかもしれない。
大木戸が江戸城下へ入るために設けられたものなのである。つまり大木戸から内側は江戸城下だが、その外は江戸城下ではない。つまり、江戸の外といっても良いのである。
もうひとつ、神田明神が登場するところで記載されているが、豆知識として、神田明神の秋祭、山王祭、根津権現の祭礼を合わせて江戸の三大祭りという。
内容/あらすじ/ネタバレ
明和九年(一七七二)、この年の末に安永元年に改元された。
坂崎磐音は一月前の両国橋での闘争で受けた刀傷はほとんど癒えていた。だが、鰻割の仕事に戻るにはまだ微妙な感覚が戻っていなかった。したがって、空腹である。その磐音を品川柳次郎が訪ねてきた。職を探しに内藤新宿へ行こうというのだ。
四月に内藤新宿が再興され、その門前の縄張りを巡って黒木屋左兵衛と新場の卓造が角をつき合わせている。双方とも助っ人を集めているのだ。
先に、安藤新八が行っているはずだが、この新八は雇ってもらえなかったようだ。磐音と柳次郎はあてが外れたかと思っていたが、機転を利かし、なんとか黒木屋で助っ人の口を拾う事を得た。
磐音たちが助っ人の口にありついた代わりに、膳所三五郎ら根来百人組の連中が追い払われた。その意趣返しとばかりに、膳所たちが磐音らに襲いかかる。その頃、黒木屋が襲われていた。
都合よすぎる成り行きに磐音は黒木屋が会っていたという南町年番方与力の笹塚孫一に会うことにする。そして事情が判明する。
磐音が幸吉の世話で楊弓場の用心棒の仕事を得た。秋口から浅草あたりの矢場に出没し始めた、女を含む五人組。賭矢を挑み、大金をかっさらっていく。この連中を上手くあしらうのがこの仕事である。だが、この仕事、一見上手くいったかのように思えたのだが…
こうした中、磐音の家に泥棒が入った。しかも、入ったのはどうやら武家のようだ。豊後関前藩のものなのか。
磐音が久々に師匠の佐々木玲圓に会った。この席で、師範代の浅村新右衛門の口から豊後関前藩の人間に磐音の事を喋った事が分かった。すると、やはり磐音の家に入り込んだのは豊後関前藩のものか。しかし何故?
磐音がその疑問を持ちながら、柳次郎の世話で次の仕事にありついた。今度は明石屋参左衛門の妾が浮気をしているようだから、相手を見つけて別れさせて欲しいといったものだった。
この仕事の中で、磐音は豊後関前藩江戸屋敷の勘定方・上野伊織に再会する。この再会の中で、上野伊織は磐音が親友の河出慎之助と小林琴平を斬らねばならなかった事件には裏があるのではないかという。まさかと思うが、やがて事がはっきりとしてくる。
本書について
佐伯泰英
寒雷ノ坂
居眠り磐音 江戸双紙2
双葉文庫 約三六五頁 江戸時代
目次
第一章 寒風新宿追分
第二章 東広小路賭屋
第三章 柳橋出会茶屋
第四章 広尾原枯尾花
第五章 蒼月富士見坂
登場人物
黒木屋左兵衛…金貸し
種蔵…番頭
大村陵角…根来百人組組頭
膳所三五郎
新場の卓造…渡世人
三浦夕雲…神道無念流
安藤新八
朝次…金的銀的の親方
およし
おうめ
おたつ
おきね
風流亭円也
かおる
有馬数馬
一ノ瀬彦之丞
鉄蔵
浅村新右衛門…師範代
今戸永助…磐音の弟弟子
明石屋参左衛門…蝋燭屋
おきく
広橋忠也
岡倉美作守恒彰…旗本
細井且村…旗本
泥亀の米次
川合越前守久敬…勘定奉行
日村綱道…金座方
立川勇士郎…南町同心
千三…御用聞き
<豊後関前藩>
中居半蔵…御直目付
上野伊織…勘定方
入来為八郎
三田村平
黒河内乾山
野衣…藩士の娘
深川元町の佐吉…御用聞き