覚書/感想/コメント
シリーズ第二十四弾
桂川甫周国瑞と織田桜子の祝言から始まり、磐音とおこんの祝言に終わる。十九巻、二十巻くらいから、ここに来るまでが長かった。
ともあれ、これで晴れて夫婦となる磐音とおこん。新たな人生の出発であるが、同時に新たな試練の始まりでもある。
試練というのは夫婦としての試練ではない。佐々木家の跡継ぎとしての試練である。田沼意次とその側近がいよいよ表立って動き出し、伝説的な古強者五人が磐音の前に現われる。この戦いは次作以降にも引き継がれることになる。
この田沼意次との本格的な戦いは将軍家治の後継を想定に入れてのことである。田沼意次としては英明な家基に次期将軍になってもらっては困る。この家基を支える磐音を排除したいのだ。
本書は安永七年(一七七八)。家基が鷹狩りの帰りに突然苦しみ急死するのは一年後の安永八年(一七七九)である。
これからシリーズ始まって以来の大きなクライマックスを迎えることになる。
その前に、磐音は玲圓から佐々木家の秘事を告げられるが、それが何の事やらさっぱりという口伝なのだ。この口伝に一体何が隠されているのか?
磐音の祝言と言うこともあるのだろうが、懐かしい面々がそろって出てくる。浮世絵師の北尾重政、吉原会所の頭・四郎兵衛、おそめ、三味芳の次男・鶴吉などである。
再び登場することで、今後のシリーズの中でも活躍の場が与えられるのだろうか?それとも、同窓会的な意味合いがあったのか?
どちらにしても懐かしい面々であり、再び昔の磐音を読んでみたい気持ちになった。
さて、正月十五日、十六日はお店の奉公人の待ちに待った藪入りである。この十五日には小豆粥を食べ、粥杖という柳の枝で女の腰を叩くと男の子を孕むという習わしもあったそうだ。
最後に、おこんが速水家の養女となる日、おこんと由蔵が初めての出会いを語る場面がある。二人はおこんが今津屋に奉公する前から知っていたのだ。
詳しくは本書と同時に発行された「居眠り磐音 江戸双紙」読本に収録されている中編「跡継ぎ」を読んで頂きたい。
内容/あらすじ/ネタバレ
小正月も過ぎ、麻布広尾村の白梅屋敷では桂川甫周国瑞と織田桜子の祝言を迎えようとしていた。佐々木磐音も家紋入りの継裃を着ていた。
おこんがやってきて、この界隈では野犬組と称する浪人が徒党を組んで因縁をつけて金をせびっていると耳打ちした。念のためと磐音とおこんは桜子を迎えに出た。すると果たして野犬組が現われた。
祝言は無事に進み、磐音は桂川甫周国瑞の父と祖父からも磐音とおこんの祝言には呼んでくれと頼まれた。
祝言がお開きとなったのは六つ半(約午前七時)だった。別れる時に磐音は中川淳庵から仙台藩医で経世家の工藤平助を紹介された。
おこんは速水家には金兵衛の家から行くことになった。そのためいったん金兵衛のもとへ戻った。最後の親孝行である。
磐音がおこんを送った後、浮世絵師の北尾重政と久しぶりに出会った。北尾の口から、近頃吉原で白鶴太夫(奈緒)や磐音をあれこれ訊き歩いている者がいるという。
少なくとも三人はいるようだ。念のために吉原会所の頭・四郎兵衛を訪ねた。
磐音とおこんの仲人は江戸武術界の最長老で神道無念流の野中権之兵衛・賢古夫妻にお願いすることになった。
尚武館に戻ると道場の飼い犬となった白山が毛を逆立てていた。長い大薙刀の四人組の道場破りのようだ。その様子を読売屋の楽助が見ていた。
相手はタイ捨流の相良肥後守定兼と名乗った。新年になってから道場破りが増えている。少々懲らしめるために磐音は手荒く扱い、その様子を読売屋の楽助に書かせることにした。
これよりも頭を悩ませるのが、祝言の招く客のことである。門弟だけで二百人は下らない。他にもと考えると、これを遙かに凌駕する客数となる。
橘右馬介忠世と名乗る老武者が磐音の前に現われた。尚武館潰しを頼まれたという。あとで義父の玲圓に聞くと、二天一流の剣客で名を知られた人物だという。
楽助に頼んだ読売は御城の筋からの横槍で止まったままだという。タの字が関わっているという。
その事を聞いた後、磐音は今津屋に向かった。すると由蔵が薬種問屋の番頭・蓑蔵と名乗る男とやり取りをしていた。
蓑蔵は捨てぜりふを吐いて今津屋を去ったが、東海道筋では偽丁銀を金に換える手口の詐欺が横行していると聞いており、由蔵は先ほどの蓑蔵がそうではないかと睨んでいた。
磐音は祝言の料理について由蔵の知恵を借りに来たのだった。そして、料理の相談を終えた帰り、磐音はおそめの顔を覗きに行った。
おこんが速水家の養女となる日がやってきた。
この日、磐音は四年ぶりに三味芳四代目の芳造の次男・鶴吉に再会した。鶴吉は旅に出て、その途中遠州相良に寄っていたのだという。相良は老中田沼意次の領地だ。そこで磐音の名が出たのを聞いたという。
そこで磐音を狙う刺客の名が出た。琉球古武術の松村安神、タイ捨流の河西勝助義房、平内流の久米仁王蓬莱、独創二天一流の橘右馬介忠世、薩摩示現流の愛甲次太夫新輔だ。橘右馬介忠世はすでに磐音の前に現われていた。いずれもが伝説的な古強者だという。
磐音は佐々木家についての秘事を伝えられた。
それは「天上に彩雲あり、地に蓮の台あり。東西南北広大無辺にしてその果てを人は知らず。笹の葉は千代田の嵐に耐え抜き常しえの松の朝を待って散るべし」というものであった。
その後、平内流の久米仁王蓬莱が現われた。新たな五番勝負の始まりであった。
豊後関前藩から井筒遼次郎が江戸に出てきた。江戸屋敷での勤番奉公と尚武館での剣術修行が許可されてのことである。ゆくゆくは坂崎家に養子に入り、坂崎家を継ぐ身であり、磐音の義弟となる。
一方で、磐音は鶴吉のために四郎兵衛を介して空き店を押さえてもらった。
翌朝、遼次郎は尚武館に入門した。同じ日、速水家の右近と杢之助も入門していた。
読売屋は一連の騒ぎを虚構の物語として書いた。相手は老中の田沼意次である。必死の覚悟の仕事だった。
琉球古武術の松村安神との対決で、磐音は蹴りの間合いと距離を外したつもりだったのが掠め蹴られ、脛裏は赤紫色に腫れた。
この怪我が治って、晴れて磐音とおこんの祝言の日となった…。
本書について
佐伯泰英
朧夜ノ桜
居眠り磐音 江戸双紙24
双葉文庫 約三四〇頁
江戸時代
目次
第一章 白梅屋敷の花嫁
第二章 偽銀遣い
第三章 小さ刀吉包
第四章 三味芳六代目
第五章 尚武館の嫁
登場人物
桂川甫周国瑞
桂川甫三国訓…桂川甫周国瑞の父
桂川甫筑国華…桂川甫周国瑞の祖父
織田桜子
中川淳庵
井出兵庫介実篤…陣中無念流
工藤平助
北尾重政…浮世絵師
四郎兵衛…吉原会所の頭
野中権之兵衛
賢古…妻
楽助…読売屋
朝右衛門…読売屋
相良肥後守定兼…タイ捨流
蓑蔵…薬種問屋の番頭
お恭…百川の女将
義三郎…若狭屋番頭
おそめ
江三郎…縫箔の名人
およう…恵比須床
鶴吉
おこね
竜間直澄…相良藩田沼家用人
伊坂秀誠…相良藩田沼家剣術指南
庄村七郎兵衛…用人
橘右馬介忠世…独創二天一流
松村安神…琉球古武術
河西勝助義房…タイ捨流
久米仁王蓬莱…平内流
愛甲次太夫新輔…薩摩示現流
井筒遼次郎
速水右近
速水杢之助