覚書/感想/コメント
シリーズ第三弾。
食事中の磐音は何を話しかけられても上の空。まるで子供のように無邪気に食事に没頭する。こうしたところにも磐音のキャラクターが出ている。
さて、本作は一作目から続く豊後関前藩でのもめごとが、どのような結末を迎えるのかが一つの見どころである。だが、これ以外にも磐音の廻りでは様々な出来事が起きる。なかなかに平穏な日々というのは訪れないのだ。
そして、本作のもう一つの大きな出来事は、磐音の許嫁・奈緒の身の上に起きたことである。一作目で兄・小林琴平が奈緒の姉・舞に絡む陰謀で河出慎之助を斬るはめになり、ついには磐音とも刃を交え、斃れる。そして、小林家は断絶となる。
すると、病身の母を抱えた小林家の生活は苦しくなり、奈緒は止むにやまれず一つの決心をする。苦界への身売りである。
こうした出来事や不幸の中、磐音の備前包平が冴える一作である。
内容/あらすじ/ネタバレ
旧暦四月、初夏。親友を二人失った夏から一年が経とうとしていた。
一月前、幸吉が攫われたときに権造親分の手を借りた。その返礼に磐音は一度だけ権の腕を貸す約束をしていた。さっそく五郎造がやってきて、親分が呼んでいるという。
深川不動の夏祭りは権造と顎の勝八が交互に仕切る慣わしになっていた。今年は権造の番である。だが、顎の勝八が仕切るといいだしている。
顎の勝八には北の臨時廻り同心月形彦九郎がついており、他にも浪人者が何人もいる。磐音は品川柳次郎と竹村武左衛門を誘った。彼らには手当が付くが、磐音はただ働きである。
磐音には一つの考えがあった。だが、それを隠し、権造に顎の勝八と直に掛け合うしかないという。そしてその場でいったんの決着を付けた。
帰ってくると、野衣からの手紙が届けられていた。藩主・福坂実高が参勤交代で江戸に来ると書かれていた。野衣に会いに行くと、野衣は早足の仁助を連れてきた。
仁助は国許の総目付・白石孝盛から江戸の御直目付・中居半蔵に宛てられた書状をもってきていた。国許では国家老の宍戸文六が藩主の出府に伴い人事の刷新を図っているらしい。こうした話を聞いて、磐音はどうしても御直目付・中居半蔵に会わねばならないと感じ始めた。
深川不動の夏祭り当日、顎の勝八は不動堂に乗り込み、賭場を開く準備をしていた。磐音はそこで南町の笹塚孫一に会い、相談をする。
磐音は中居半蔵と会うことになった。磐音には江戸宍戸派の集まりに出た中居半蔵を信用していいのかが分からない。だが、中居半蔵と話す内に信用してもよいと考える。そして、多額の借財を申し込んだ人間が誰なのかと、掴んだ証拠を調べることになった。
借財を申し込んだ人間は今津屋の老分・由蔵の助けもあり御留守居役・原伊右衛門であることがわかった。
かわりにといっては何だが、磐音は由蔵に伴って、梅村後流のところに赴いた。この梅村後流は御家人崩れの金貸しである。商売が阿漕になってきており、今津屋が貸した元利を取り立てにいくのである。だが、その梅村後流のところで由蔵が囚われてしまった。
幸吉が磐音に頼みをしにきた。幸吉の幼馴染のおそめが世話をしている豆造という子供の母親に会ってもらいたいというのだ。
おしずという母親は弓七という亭主がこさえた借金がもとで吉原に身を沈めることになってしまった。豆造がぐずるので、おしずの匂いのついたものをもらってきてもらいたいというのだ。さすがの幸吉でも吉原には入り込めない。そこで磐音に頼みに来たのだ。
早足の仁助がやってきて、東源之丞が会いたいと言う。東源之丞は三通の書状をもってきていた。一通は父・正睦、もう一通は中居半蔵、そして最後は奈緒からのものであった。そして、これらの書状を読み、磐音は国許に行かざるを得ないと決心する。
さて、磐音はこうした状況にありながら、幸吉の頼みを果たすべく吉原に行く。が…
そして、磐音は江戸で世話になった者に一時の別れを告げ、豊後関前に行く。国家老の宍戸文六との対決が始まる。国許の情勢は緊迫していた。宍戸文六は全ての罪を父・正睦にかぶせようとしていた。
そして、一つの悲劇。それは、生活が苦しくなった小林家の奈緒が自ら望んで身売りをしたという。
本書について
佐伯泰英
花芒ノ海
居眠り磐音 江戸双紙3
双葉文庫 約三五五頁
江戸時代
目次
第一章 夏祭深川不動
第二章 幽暗大井ヶ原
第三章 宵待北州吉原
第四章 潜入豊後関前
第五章 恩讎御番ノ辻
登場人物
顎の勝八
月形彦九郎…北の臨時廻り同心
飯岡一郎助…浪人
橡陣十郎
讃岐屋半左衛門…隠居
梅村後流…金貸し
およう
一徳寺大願…剣客
おそめ…幸吉の幼馴染
豆造
おしず
弓七
火焔の寅三
野分の勝五郎
四郎兵衛…吉原会所の頭分
<豊後関前藩>
野衣…豊後関前藩士の娘
中居半蔵…御直目付
早足の仁助
白石孝盛…総目付
宍戸文六…国家老
宍戸秀晃…息子
原伊右衛門…御留守居役
美濃部大監物…タイ捨流剣客
西国屋次太夫…廻船問屋
清蔵…番頭
願龍…泰然寺和尚