覚書/感想/コメント
シリーズ八弾。
シリーズの四弾で中川淳庵を狙っていた血覚上人を頭とした裏本願寺別院奇徳寺一派との対決に終止符が打たれる。奈緒の足跡をたどる旅の途中で出会ってからの因縁である。
そして、その奈緒こと白鶴はまたもや面倒に巻き込まれそうである。吉原で十数年ぶりに太夫を選ぼうという企てがあるらしい。これに先だって絵師の北尾重政が襲われた。
最近ではおこんを描かせてくれといっておこんを迷惑がらせている絵師である。もっとも、老分の由蔵に言わせると磐音に気兼ねをして断わっているのだとか。
なにせ北尾重政は白鶴を江戸中に知らしめた絵師である。この絵師に自分の店の花魁を描かせたがるのだ。だが、北尾重政は片っ端から断わってしまう。自分の興味のない花魁は書きたくないのだ。
だったら、邪魔だから絵を書かせないようにしてやろうという考えが浮かび、仕向けたらしい。
奈緒に直接的な危険は及ばないものの、この太夫選びは波乱含みである。
さて、磐音の師匠ともいうべき少年の幸吉。そろそろ奉公の年頃である。商家への奉公が来たようだが、幸吉は自分で向いていないという。職人がいいという。そして、出来れば鉄五郎親方のようになりたいという。
内容/あらすじ/ネタバレ
安永三年(一七七四)の除夜の鐘を坂崎磐音は両国橋の上で聞いた。その橋の上で、掏摸にあったと騒ぐ男がいた。男は尾張町の草履商備後屋の番頭佐平と名乗っていた。
そうした騒ぎから長屋に戻ると手紙が挟まれていた。中居半蔵からである。手紙には妹の伊予が家中の御旗奉行井筒洸之進の嫡子・源太郎と結納が整ったといってきていた。
他には、若狭屋あての物産品を送ったとのこと。そして、江戸藩邸物産所所属として別府伝之丈と結城秦之助を着任させたという。関前藩の立て直しが本格的に動き出したのだ。
明けて、安永四年(一七七五)。磐音は年始の挨拶に今津屋を訪ねた。そして、伊予への祝いの品をおこんに見繕ってもらうことになった。品物は駿河町の呉服屋越後屋、南塗師町の小間物商京優喜で見繕った。
その帰り、磐音は同心の木下一郎太にあう。そして、尾張町の草履商備後屋の一家と奉公人が毒殺されたと聞いた。下手人は住み込みの二番番頭佐平だという。橋で騒いでいた男である。
若狭屋に着いた荷は思っていた以上によかったようだ。中居半蔵の苦労が偲ばれる。
磐音は別府伝之丈と結城秦之助を呼び出した。そして、近い内に若狭屋と引き合わせるつもりであることを告げた。
二人は磐音に福坂利高を中心とした一派が江戸藩邸を牛耳っているという。小此木平助と棟内多門が腰巾着となり、新たな獅子身中の虫ともなりかねない。
それとは別に、二人は剣術の稽古をしたいから佐々木玲圓を紹介してくれという。よいことだと思い、早速紹介する。そして佐々木道場の鏡開きに参加した。
例年なら型稽古だが、今年は佐々木玲圓と速水左近との模範演技を披露することになった。その後、東西五人での勝ち抜き試合を行うことになった。
さて、中川淳庵らを付け狙う一派の後に、譜代大名の西尾家隠居の西尾幻楽がいることがわかった。鐘ヶ淵のお屋形様と呼ばれている人物である。
品川柳次郎が、父親の紹介で旗本大久保家の仕事を請け負ってきた。大久保家の知行所が不穏なのだという。そこで御用人の馬場儀一郎が見回りに行くことになった。その用心棒というわけだ。竹村武左衛門も一緒である。場所は伊豆修善寺である。
知行所が不穏なのは、博奕のせいだった。その利権を巡り吉奈の唐次郎と蓑掛の幸助が角をつき合わせ始めているという。以前に内藤新宿で賭場を巡る争いに巻き込まれた時とよく似ている。果たして今回はどうか…
中川淳庵が何者かに連れ去られたようだ。鐘ヶ淵のお屋形様の一派が動き出したのだ。磐音は南町奉行所の笹塚孫一にこのことを告げる。そして、磐音らも動き出す。
本書について
佐伯泰英
朔風ノ岸
居眠り磐音 江戸双紙8
双葉文庫 約三五五頁
江戸時代
目次
第一章 府内新春模様
第二章 三崎町初稽古
第三章 早春下田街道
第四章 寒月夜鐘ヶ淵
第五章 待乳山名残宴
登場人物
別府伝之丈…豊後関前藩士
結城秦之助…豊後関前藩士
井筒源太郎
立川勇士郎…定廻り同心
立花大二郎…見習い同心
猪子三郎右衛門…小人目付
佐平…備後屋二番番頭
陽太郎…備後屋三番番頭
近藤伴継…旗本
竹垣九郎平…近藤家用人
福坂利高…江戸家老・藩主の従兄弟
小此木平助
棟内多門
岸辺俊左衛門…信州松代藩
北尾重政…絵師
蔦谷重三郎…版元
西尾幻楽…譜代大名西尾家隠居
馬場儀一郎…旗本大久保家用人
沼田治作…大久保家若党
吉奈の唐次郎…渡世人
蓑掛の幸助…網元
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酒井修理大夫忠貫…酒井家藩主
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