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佐伯泰英の「鎌倉河岸捕物控 第5巻 古町殺し」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第五弾

前作までで、しほ、政次、亮吉、彦四郎を主人公とする話が終わった。

で、今回は、金座裏の宗五郎が主人公。とはいっても、いつも活躍しているので、何となくぴんとこない。

それに、宗五郎が主人公というよりは宗五郎もそうである「古町町人」が主役といったほうが正しいかもしれない。

古町町人は、徳川幕府の開闢時に江戸の移住してきた者達で、芝口から筋違見附にかけて住み、いろいろと特権が与えられていた。

その一つに御能拝見がある。

今回はその御能拝見を巡って事件が起きる。

その御能拝見まで日時がない。だが、御能拝見は例年の通り行われるという。将軍徳川家斉の前で不祥事を起こすわけにはいかない。

なんとしてでも、御能拝見までに犯人を捕まえねば…。

さて、今回は江戸の町政を実際に仕切っている人物たちも登場している。

江戸の町政は三年寄が支配していたそうだ。町奉行の命を奉じて政令の進行、名主の進退、その他市町に関わる上報下令、一切のことを掌る。

町奉行所の下部機構として江戸町名主二百六十四人、新吉原名主四人を加えた者達を統べて、江戸の町を支配という形式だったようだ。

第二話での六阿弥陀とは以下の寺をいうのが一般的らしい。

一番、豊島村の禅宗西福寺、西方浄土に生まれ出る御利益を授けるという。

二番、下沼田村の真言宗延命寺、家内安全・息災延命の御利益を授けるという。

三番、西ヶ原村の真言宗無量寺、福寿無量に諸願を成就させるという。

四番、田端村の真言宗与楽寺、我ら一切の者に安楽を与えるという。

五番、下谷広小路の天台宗常楽院、常に一家和楽の福徳を授けるという。

六番、亀戸村の禅宗常光寺、未来は常に光明を放つ身を得させるという。

春と秋のお彼岸に行基作の六体の阿弥陀像を参詣することで、江戸時代の行楽の一つであったそうだ。

最後に、一つだけ疑問。

この物語、ある人物が襲われた理由というのが解決していないように思うのだが?如何だろうか。

内容/あらすじ/ネタバレ

寛政十一年(一七九九)春。将軍徳川家斉が主催する御能拝見の日が巡ってこようとしていた。御能拝見には江戸の古町町人たちも江戸城に呼ばれるのが習わしだ。

この日、珍しく豊島屋へ政次を連れて現れた金座裏の宗五郎。政次を豊島屋に残しての帰り道、羽賀井流長来源斎無門となのる刺客に襲われた。

何とか難を逃れたが、古町町人の宗五郎かと念を押されてのことに嫌な感じが残った。

その翌日、死体が見つかった。河岸に女が浮かんでいるというのだ。

女の秘部のかたわらに手斧の模様の小さな刺青が彫り込まれていた。だが、これがぐちゃぐちゃになっている。

同じ頃、桶大工頭の細井藤十郎が殺された。細井はただの職人頭ではない。古町町人の一人だった。この細井には奇妙な文が渡されていたそうだ。文面は「御能拝見後免被ります、細井藤十郎」であった。

一方、河岸に浮かんで死んでいた女の身元がわかった。伏見太夫という遊女だった。そして、その伏見太夫に手斧の模様の小さな刺青を彫ったと思われる人物が浮かんできた。

桜の季節になると、江戸では六阿弥陀めぐりの季節を迎える。

宗五郎は江戸の三年寄の一家、樽屋藤左衛門の門をくぐった。この樽屋にも文が届けられていた。

今度の文面は「古町町人細井藤十郎、思い知ったか。御能拝見後免被ります。樽屋藤左衛門」である。宗五郎は樽屋を護らせるために政次を樽屋の奉公人として送り込んだ。

そのあとのこと。八百亀が、六阿弥陀めぐりに乗じて賽銭泥棒が頻発しているということを知らせてきた。そして、今度は年寄の三人組が襲われたという。襲った犯人は四人組で、一人はちびの小太りに残りはのっぽときている。

そしてとうとう殺しが起きてしまった。

政次が樽屋藤左衛門の供として、手代の健吉、伊三郎と一緒に川越街道の野火止の平林寺へ行った。

その頃、寺坂毅一郎は古町町人に逆恨みを持ちそうな人物を洗い出していた。その矢先、古町町人の薪炭商磐城屋平兵衛が襲われた。

一方、平林寺を出発して江戸に戻る樽屋一行。その帰り道、剣術家崩れの浪人者に囲まれた。だが、これを政次が撃退し、さらにはその内の一人を生捕りにした。

そして今回の一連の古町町人殺しの背後にいる人物の顔が浮かんできた。

だが、依然としてその理由がわからない。宗五郎はもう一人の三年寄奈良屋こと舘市右衛門を訪ね、昔のあることを聞いた。

本書について

佐伯泰英
古町殺し
鎌倉河岸捕物控5
ハルキ文庫 約三三〇頁
江戸時代

目次

序章 御能拝見
第一話 刺青殺し
第二話 六阿弥陀めぐり
第三話 刺客生捕り
第四話 走水の稲兵衛
第五話 胡蝶丸爆破
終章 龍閑橋の決闘

登場人物

長来源斎無門…羽賀井流
樽屋藤左衛門…三年寄
耶之助…手代
健吉…手代
伊三郎…手代
喜多村彦右衛門…三年寄
舘市右衛門…三年寄
細井藤十郎…桶大工頭
細井久光…息子
幹吉太郎…家令
お玉…妾
市村頌蔵…細井の分家
雄太郎
彫兼
伏見太夫
徳右衛門…土佐屋の隠居
装陳…納所坊主
車坂の萬太郎…香具師の親分
秀市
万次
弁吉
玉四郎
兼次
駒込追分の円蔵親分
猫村重平…手付同心
津之国屋五平
稲平…摂津屋稲兵衛、走水の稲兵衛
龍次
伊三郎
伊勢屋高右衛門