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佐伯泰英の「鎌倉河岸捕物控 第6巻 引札屋おもん」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第六弾

今回は鎌倉河岸で酒問屋豊島屋を構える清蔵が老いらくの恋い落ちた。いそいそと出かけ、好きな捕り物の話もちゃんとは聞いていない。

豊島屋は何となく気が抜けたような雰囲気になり、清蔵を知る誰もが心配をしている。

豊島屋で元気なのは庄太だけだ。前掛けを何重にも腹前で織り込んだ小僧がそれでも引きずりそうな格好で声を張り上げる。今では庄太は豊島屋の欠かせぬ働き手、しほと同じくらいの人気者となっている。

清蔵がこうしたなか、政次が直心影流神谷道場の目録を授けられた。周囲の人間はこれでまた一歩政次が金座裏の背中に迫ったと感慨深げである。

さて、寛政期、火消しは四つ。定火消、大名火消、方角火消、町火消。

定火消は、慶安三年(一六五〇)、幕府は四千石以上の旗本二人を火消役に任命したところから始まる。頭の旗本の下にはそれぞれ与力・同心が付属し、臥煙と呼ばれる火消人足が働く。

二組で発足したが、明暦の大火後の万治元年(一六五八)に四組に増設された。この頃一組平均百二十八人だったようだ。江戸城周辺の麹町、御茶の水、佐内坂、飯田町に配置され、江戸城防備が任務だった。

元禄期に十組に編成替えして十人火消とも呼ばれていたが、宝暦には八組に減じられていた。幕府直轄の消防組で、四千石から五千石の旗本御先手から選ばれた。

大名火消は、大名の藩邸自衛消防隊としての面があり、藩邸付近で火災が発生した場合に出動するもので、その範囲によって三丁火消、五丁火消、八丁火消などの形があったようだ。

方角火消は、幕府について動員徴用される大名火消である。正徳二年(一七一二)に制度化されたもの。

江戸城を中心に五区に分けて担当の大名を決め、その方角に火災が発生すれば出動した。

町火消は八代将軍吉宗の時のこと。大岡越前守忠相と協議し、町火消を編成させている。亨保五年(一七二〇)に「いろは組」編成。いろは四七文字に「ん」を加えた四八組とし、語呂の良くない「へ、ら、ひ、ん」を「百、千、万、本」と入れ替えた。

内容/あらすじ/ネタバレ

寛政十一年(一七九九)夏。鎌倉河岸に酒問屋豊島屋を構える清蔵は浅草花川戸の船宿の暖簾を潜った。

清蔵は来年の雛祭りの白酒売り出しに新しい引札を出そうと考えていた。豊島屋には「山なれば富士、白酒なれば豊島屋」という江戸中が知る惹句があった。

清蔵が四谷御門近くから帰ってくる途中、新しい引札屋が麹町の角に開店していた。女将が引札屋の引札を清蔵に手渡すと、その瞬間に清蔵の体をぞくりとした火柱が走り抜けた。引札には引札屋おもんとあった。

数日後、清蔵はおもんの店に入り、引札の仕事を依頼した。

七夕の季節。

待合い橋で殺しが起きた。殺されたのは女。虫の息の時にわきちさんと呼んだという。

程なくこのわきちが建具師華平の弟子の一人和吉であることがわかった。そして、殺された女が華平の娘・おえみであることが判明した。

和吉は華平のところで幼い時から修行してきた弟子で、人柄もまっとうという。おえみとは兄妹のように育ったのだ。一方、おえみはもう一人の弟子仲蔵と来年にも所帯を持つことになっているという。

髪結新三が顔を見せ、扇子屋の但馬屋の娘・おようが奉公している旗本の火消し役五千石の下条采女の屋敷から死人で戻されたという。

おようは殿様も奥方様も大変よい方だが、菊次郎様がしつこいのが嫌だといっていた。菊次郎とは奥方糸の異母弟の平賀菊次郎ということがわかった。

だが、相手が定火消とあり、厄介だった。

豊島屋の新しい引札が完成した。この頃には、周囲の人間は清蔵の様子がおかしいのに気が付き、そして心配もしていた。

讃岐屋の火事場跡で二人の焼死体が見つかった。讃岐屋の主夫婦のようだ。しかも殺されて焼かれたようだ。殺したのは内部の人間のようだ。

主夫婦には三男三女がいる。その内、この時讃岐屋に泊まっていった者が長男の新太郎夫婦など、六人であった。

この事件があった日、法事があった。そのあと、酒の席で讃岐屋の財産の分配に関しての話が出たのだという。財産が絡んでの犯行なのか?

宗五郎は八百亀に引札屋おもんについて調べさせていた。

女が性悪であれば、打つ手がある。だが、八百亀はそうではないという。こうなっては打つ手がない。

しほと一緒に亮吉、政次、彦四郎が墓参りにいった帰り、子供が攫われたという現場に出くわす。

亮吉と政次の胸には悪い予感が走った。春先に幼い男の子ばかりが連れ去れ、真っ裸にされて殺された事件が二件続いていたからだ。その再来なのか?

有力な情報は下っ引きの旦那の源太の小僧・弥一からもたらされた。

寺坂毅一郎が金座裏に寺社方の飯干正太郎を連れてきた。まだ寺社方になって日が浅いので助けて欲しいというのだ。

千社札が東叡山寛永寺東照大権現の拝殿の扉の葵の御門の上に張られたというのだ。名は魚河岸の幕府御膳所とつながりの深い佃屋与五郎だ。だが、佃屋与五郎はそんなことは知らないという。

一体誰が、何のためにやったのか?

本書について

佐伯泰英
引札屋おもん
鎌倉河岸捕物控6
ハルキ文庫 約三一〇頁
江戸時代

目次

序章
第一話 七夕の殺人
第二話 三条長吉の小柄
第三話 水底の五千両
第四話 放生会の捕り物
第五話 千社札騒動
終章

登場人物

おもん…引札屋
華平…建具師
おえみ…娘
和吉…弟子
仲蔵…弟子
幾松
およう…扇子屋但馬屋の娘
但馬屋万右衛門
おなつ…おようの姉
千左衛門
慶太郎…料理茶屋寸屋の倅
下条采女…旗本の火消し役
糸…妻
平賀菊次郎
鈴木小太郎
植木屋の代五郎
代貸の一松
おせん
新太郎…讃岐屋の長男
お初…新太郎の女房
田之助…次男
加三郎…三男
鈴子…長女
種造…鈴子の亭主
梅次郎…叔父
おしま…三女
吉五郎…おしまの亭主、鳶職の頭
時太郎
弥一…旦那の源太の小僧
今朝吉
喜多三郎
飯干正太郎…寺社方
佃屋与五郎
北村季唯…旗本