覚書/感想/コメント
シリーズ第十二弾
舞台は伊豆のお遍路。立ちはだかるのは妖怪の鵺(ぬえ)。ちなみに題名は「ぬえめがり」である。
鵺というのは、顔は猿、胴体は狸、手足は虎、尻尾は蛇でトラツグミのような声で鳴くという伝説の妖怪である。鳴き声は聞く者の心を蝕み、取り殺し、その魂を喰らうと言われているそうだ。
ちなみに、本書で書かれているような「必殺技」があるのかはよく分からない。この鵺を仕切っているのが刑部鵺女という妖怪である。
さて、影二郎と刑部鵺女との対決、一体どうなる?
お遍路は霊場八十八箇所を巡るものであるが、この「八十八」という数字のいわれには諸説あるようだ。本書で書かれているのは三つ。
・天竺にある釈尊の遺跡八塔を巡礼するならわしがあるそうで、その数の十倍にもとの八を足して八十八にしたという説。
・八十八の煩悩があり、それを八十八の霊場を歩くことで一つずつ落としていくという説
・男の大厄四十二、女の大厄三十三、この厄年十三を足した数という説。
きっと、他にも説はあるのだろう。
さて、本書の最後の最後で鳥居忠耀が放った乾坤一擲の反撃。いよいよ「妖怪」との直接対決が近づいている感じだ。
本書に鵺という妖怪が登場し、影二郎と対決するのは、まさしく、これから真に始まろうとする「妖怪」との戦いを暗示しているものなのだろう。
鳥居忠耀が事実上失脚するのが本書の舞台となった天保十三年の二年後の弘化元年(一八四四年)である。この間の老中・水野忠邦の地位は目まぐるしく変わることになる。おそらく常盤秀信もこうした騒ぎに巻き込まれていくのだろう。
夏目影二郎の「狩り」シリーズは終盤を迎え、いよいよクライマックスに突入しようとしている。
内容/あらすじ/ネタバレ
天保十三年(一八四二)。江戸では老中水野忠邦の天保の改革に対する怨嗟の声が溢れていた。
夏目影二郎の父・常盤秀信は大目付に加えて道中奉行を兼帯することになった。筆頭大目付になったのだ。出世である。その秀信が伊豆八十八箇所のお遍路に出るという。影二郎に同行を求めた。影二郎は父に何の目的があるのかをいぶかしがった。
結局旅には影二郎の他、夏ばてから回復したあかが同行することになった。
最初に八十八番札所の修禅寺に向かうことにした。この時点で、すでに監視の目がついていることを影二郎は気づいていた。道の途中で怪しい修験者の一行に出会い、山猿の襲撃にも遭遇した。こうした危難を乗り越えたあと、杢助と名乗る煙草売りと知り合いになった。
修禅寺に着いた。すでに待ち人がいたらしい。秀信はその人物と会って、次に一番札所の嶺松院に向かうことになった。どうやら、この旅は霊場を回るごとに新たな行き先が示されるようになっているらしい。
この次は三十四番札所、三養院に向かう。天城峠を越した向こうである。
煙草売りの杢助と再び合流することになった。杢助は影二郎と父・秀信の身分を承知していた。この杢助は一体何者か。だが、天城峠越えは杢助の先導に任せることにした。
この途中で、奇妙な生きものに襲われた。鵺である。鵺の放つ紫色の液体を浴び、影二郎は二昼夜うなされることとなった。
来春、日光社参が予定されている。秀信の筆頭大目付就任は社参に関わることなのか。その点は不明なれど、秀信を推薦したのは、水野忠邦と老中・海防掛真田信濃守幸貫だったそうだ。その真田信濃守幸貫に呼ばれて、こういわれたそうだ。
社参は積極的に賛成を示すものではないが、もはやここまで来た以上無事に済ませたい。その上で、秀信の倅・影二郎が国定忠治と懇意であることを聞き、影二郎から国定忠治に騒ぎを起こしてくれるなと釘を刺された。
秀信はこうしたことを語ったあと、今回の旅の真の目的を影二郎に告げた。列強各国から国を守るために初めての海防会議を持つことにしたのだ。鳥居忠耀が目を光らせているがゆえに、このような遍路姿をしたというわけだ。
秀信の仲間が襲われたことが判明した。どうやら鵺に襲われたらしい。鵺の一統を率いるのは刑部鵺女という、京都御所の鬼門、猿ヶ辻という築地塀に千年を越えて棲む老女の妖怪だ。
本書について
目次
序章
第一話 東浦道の刺客
第二話 冷川峠の山猿
第三話 猿ヶ辻の鵺
第四話 玉泉寺の月見湯
第五話 妖怪とカノン砲
登場人物
阿部伊織
城ノ内玉三郎
杢助…煙草売り
杉田兵衛…勘定奉行家臣
鳩尾帯水龍熾
真田信濃守幸貫…老中、海防掛
内膳蔵人…真田家江戸家老
佐久間象山
小野寺甚内
稲垣甚左衛門…下田奉行
翠岩眉毛和尚
国定忠治
蝮の幸助
遠山左衛門尉景元…北町奉行