覚書/感想/コメント
シリーズ第十五巻。
前作で結衣を尾張の魔の手から救い出した惣三郎・清之助父子。そのまま、帰るのかと思いきや、柳生の里へ。
当代の剣客が二人も柳生に逗留することになり、門弟達も気合いが入る。そして、近隣の各藩からは指導の誘いがひっきりなし。このままでは、いつになっても江戸に戻れそうにない。
江戸では、鉄砲玉のように飛び出した惣三郎の帰りを待っている人々がいる。
その一人、鍾馗の昇平が今回の江戸での主人公。ある出来事があって、命をかけた勝負をしなければならなくなったり、師匠の惣三郎に負けず劣らずの大変さである。そして、さらに大変なできごとが待ち受けている…。といっても、これは、次作以降の話になりそうか…
ところで、いつになったら江戸に戻ってくるのだろう?
さて、大和柳生に滞在中の金杉親子。
尾張柳生と大和柳生のことについて簡単に触れられている。
柳生石舟斎は長子・新次郎厳勝の次男・利巌を評価し寵愛した。そして没する二月前に利巌に刀術書、印可状を与えた。尾張柳生初代の叔父でもある宗矩を差し置いてのことである。
ここに、尾張柳生と大和柳生の二派に分かれることになる。
内容/あらすじ/ネタバレ
八百久で働いているみわを昇平が訪ねてきて、みわに相談があるという。
昇平が纏持ちの役の指名があったというのだ。町火消しは、職階が年季で厳然と分かれた階級社会である。昇平の上には兄さんが三十数人いる。それを飛び越しての抜擢である。
金杉清之助の父・惣三郎が結衣とともに柳生を訪れ、しばしの逗留をすることになった。そして、当代一の剣客と目される親子が柳生道場で指導に当たることになった。
柳生は夏を迎えていた。里は四方を山に囲まれている。様々な人間が行き来し、中には山の民も現れる。これらの山の民の長を大膳塵外という。
惣三郎が柳生に逗留中という噂がすぐに近隣に広まった。そして、稽古を願う書状が柳生に何通も届いていた。各藩を回って歩くとなると、すぐには江戸に戻れない。陣屋家老の小山田が、柳生の地に各藩の者達を集めて、大稽古をできないかと案を出してきた。
こうした中、惣三郎に一手指南をと願う武芸者が現れた。その者は、八付草露と名乗った。
江戸の柳生俊方からの返書が届き、諸藩の有志を呼び、合同の大稽古が行われることが決まった。
懸念点は、ただ一つ。この噂は必ず、尾張に届く。さすれば、尾張柳生が黙って見過ごすかどうか。合同稽古が終わるまで息が抜けないことを、惣三郎と清之助は肝に銘じた。
江戸のしのとみわにも、江戸の柳生藩邸から、しばらく惣三郎と結衣が戻ってこられないとの知らせがなされた。
昇平は高吉に呼び出され、昇平が纏持ちになるという噂の真偽を確かめられた。高吉は自分が次の纏持ちになると信じて疑っていないのだ。だから、昇平が纏持ちになるとの噂を聞いて心中穏やかでなかった。
一触即発の雰囲気になったが、お杏が仲裁して事なきを得た。だが、高吉はしつこいから気をつけろと、お杏は昇平に注意した。
その矢先、昇平は薙刀を使う武芸者に襲われる…
立て続けに、火付けと見られる火事が江戸で発生した。大火事にならなかったのは幸いだったが、南町奉行大岡越前の必死の探索にもかかわらず、犯人は捕まえられなかった。
だが、ある火事の現場で…
柳生では大稽古が始まろうとしていた。折しも、奈良から大和屋一行がやってきた。結衣は桜と梅の姉妹とすぐにうち解けた。そして、大稽古が行われている間は、不測の事態が起きるかもしれないからとの配慮で、結衣は奈良の大和屋に世話になることになった。
やはり、尾張柳生は動いてきた。山澄能登守唯兼一族が潜入しているとの情報を得た小山田だったが、その山澄能登守が誰なのかは分からないでいた。そして、ついに大稽古が始まった…
本書について
目次
序章
第一章 柳生の夏
第二章 江戸の華
第三章 朱房の鳶口
第四章 黄泉の裏里
第五章 秘剣熊狩り
登場人物
高吉…め組
小泉増六芳克
日夏玄五平
<柳生の庄>
小山田春右衛門重忠…柳生家陣屋家老
笠間伝七郎…師範
百武善五郎
兵頭佐助…高取藩家臣
兵頭宇助…高取藩家臣
角田幹次…津藩藤堂家武具奉行
八付草露
大膳塵外
山澄能登守唯兼…尾張柳生
大和屋吉兵衛
桜
梅