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佐伯泰英の「密命 第19巻 意地 密命・具足武者の怪」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ十九弾。前作ではほとんど滞在することなく金沢を離れることになった金杉清之助は佐渡へ渡った。

享保十年も残りわずか、年が明けた享保十一年の十一月には徳川吉宗の声掛かりで上覧剣術大試合が行われる。

この上覧剣術大試合には金杉清之助が出ることが吉宗によって決まっている。

いよいよ清之助が江戸に戻ってくる時も近い。だが、そのことを知らないで清之助は修行に明け暮れている。

清之助が江戸を離れて四年の月日が流れている。江戸でひたすら清之助の帰りを待つ葉月との恋にも進展が見られるのだろうか。少し先の話であるが、いまから楽しみである。

この清之助が佐渡で出会ったのが古武術山本勘助道鬼流である。

山本勘助は武田信玄の軍師として名高い。天文十五年(一五四六)に武田信玄に命じられて「軍法兵法記」全四巻を記し、その第三巻が「剣道之巻」だという。これが正保四年(一六四七)に世に出たそうだ。

京八流の古型という流儀だそうだ。京八流は半ば伝説となっている流派である。

江戸では父・惣三郎が鎧武者に襲われるという出来事が起きた。なぜ狙われなければならないのか?尾張の兄弟が動き出したというのか?この裏にあるのは一体何なのか?

最近は少々息を潜めている感じの尾張の徳川継友、宗春の兄弟。再び蠢動しはじめようとしているのだろうか?

折しも享保十一年の上覧剣術大試合が決まり、尾張の兄弟にとって宿敵となっている金杉親子を一挙に葬れる機会が訪れようとしている。動かないはずがない。

徳川吉宗にとって政権の外の敵は尾張の兄弟であるが、実は政権内部でも問題を抱えている。

金杉惣三郎が剣術指南をしている老中水野忠之をして頭の痛い問題である。それは御用取次の権力が強くなりすぎているというものだった。
有馬氏倫は獅子身中の虫となるのかどうか…。

内容/あらすじ/ネタバレ

江戸は中秋から晩秋へと移ろうとしていた。

め組の鍾馗の昇平の纏持ちのかたちが仕上がったら披露することになっていた。その日が来たのだ。

翌朝、金杉惣三郎は老中水野忠之屋敷へ剣術指南に行く日だった。惣三郎の足は芝神明社に向けられた。参拝してきびすを返した時、待ち受ける景があった。久しぶりに感じる刺客の匂いだ。刺客は当世具足を着用していた。

刺客は「大御番頭石河讃岐守常康」の名を出した。

水野家に着き、惣三郎は江戸家老の佐古神次郎左衛門に起きた出来事を話した。

佐古神は石河讃岐守常康が既に亡くなっているという。将軍・吉宗の勘気を蒙り、家門断絶、切腹を命ぜられたという。事の発端は、今年の三月に行われた鹿狩であった。惣三郎が柳生の庄の滞在を終えて江戸に戻った直後のことだ。

聞けば、石河讃岐守常康は気骨のある武士である。だが、何らかの駆け引きが行われ、切腹が申し渡されている。

荒神屋では喜八がうんざりとした顔をしている。長い値引き交渉に疲れ果てた表情だ。料理屋風の蕎麦処を普請しようとする旦那が粘っているらしい。

惣三郎は再び水野家へ向かった。屋敷の中で今度は胴丸武者が現われた。

老中首座の水野忠之はまだ執務を続けていた。正徳の改革の残党ともいえる老中を追い払ったものの、まだ吉宗のまわりには御用取次の加納久通、有馬氏倫らがいた。

一連の騒動を水野忠之に話すと、忠之は石河讃岐守常康は誰かの奸計に嵌められて潰されたのだと言い切った。

だが、当世具足の武芸者と胴丸具足との関係が判然としない。忠之は調べよと秘命を命じた。

これとは別に、吉宗の声掛かりで享保剣術大試合を昌平坂学問所で行うことになったという。その試合には金杉清之助の出場は欠かせないと念押しをしたという。

大岡越前守忠相の密偵、時蔵と多津が惣三郎をまっていた。大岡はこの度の騒ぎが尾張の兄弟の蠢動なのかと気にしているようだ。

三人の前に胴丸具足が現われた。首を持っている。

惣三郎は時蔵に御用取次有馬氏倫の家臣にいなくなった者がいないか調べさせた。

金杉清之助は佐渡へ渡っていた。清之助が旅に出て四年の歳月が過ぎようとしていた。この冬を清之助は佐渡で過ごすことになりそうだった。

金杉惣三郎は仙台堀の質屋伊勢屋の焼け跡にいた。

この伊勢屋の蔵の中から多くの人が死んで見つかった。主の耕左衛門はすぐにいなくなってしまった。手代に話を聞くと、蔵の中で賭場を開いていたらしい。死んだのは客のようである。

大岡忠相の内与力織田朝七から呼ばれた。石河讃岐守常康には実弟・朽木左馬之助があり、中渋谷に抱え屋敷を持っていることがわかった。惣三郎は時蔵、多津らとともに向かった。

道々話を聞いた。有馬氏倫は石河讃岐守常康が所有していたという硯石に執心していたという。それに石河讃岐守常康の正室・佐和子を側室に望んでいたこともあったらしい。

だが、惣三郎は中渋谷に赴いてみて、石河家が今回の件に関係ないことを確信した。

佐渡。至近十郎兵衛というものが佐渡奉行の目を盗み金銀の発掘をしているという評判が立っている。私兵もおり、役人が消されてきている。

江戸では水野忠之屋敷に四年前顔を揃えた武術家のほとんどが姿を見せていた。これに新たに加わったものがおり、総勢九名。いずれも享保の剣術界に名だたるものばかりである。惣三郎は水野家剣術指南として補佐役として控えていた。

水野忠之は享保十一年十一月に催す吉宗声掛かりの上覧大試合の話を一同にした。

有馬氏倫が旗本を改易に追いこんだ例は他にもあった。その一つに交代寄合美濃衆・高木北家の春信がいた。この家を惣三郎らは見に行ってみた。

その朝、車坂の石見道場に旅の武芸者が現われた。鳥居桂次郎という。惣三郎は立ち合い、破れた。

惣三郎は吉宗にあっていた。そして吉宗から秘命を申しつけられた。

清之助は手代二人をともに山道を歩いていた。至近十郎兵衛の金山を自分の目で確かめるためだ。

本書について

佐伯泰英
意地 密命・具足武者の怪 (密命19)
祥伝社文庫 約三二〇頁
江戸時代

目次

序章
第一章 具足武者の刺客
第二章 佐渡からの文
第三章 御用取次の野心
第四章 北天の星
第五章 金山砦の戦い

登場人物

金杉惣三郎
金杉清之助…長男
しの…妻
みわ…長女
結衣…次女
葉月…伊吹屋の娘
荒神屋喜八…火事始末御用
松造…荒神屋の小頭
辰吉…「め組」(鳶の総頭取)
お杏…「め組」冠阿弥膳兵衛の娘、登五郎の女房
昇平…「め組」通称・鍾馗の昇平
石見銕太郎…石見道場主
大岡越前守忠相…南町奉行
織田朝七…内与力
牧野勝五郎…与力
西村桐十郎…定廻り同心
花火の房之助…岡っ引き
時蔵…大岡忠相の密偵
多津…大岡忠相の密偵
徳川吉宗…八代将軍
有馬氏倫…御用取次
水野忠之…老中
佐古神次郎左衛門…水野家江戸家老
佐々木治一郎…水野家家臣
佐々木三郎助…水野家家臣
徳川継友…六代目尾張藩主
石河讃岐守常康…もと大御番頭
佐和子…正室
朽木左馬之助…石河讃岐守常康の実弟
高木春信…交代寄合美濃衆高木北家
鳥居桂次郎
伊勢屋耕左衛門
参次郎…手代
仁左衛門…佐渡の大商人
敷島兵衛…佐渡奉行
尾島貢…佐渡奉行所同心
千代島実之輔…佐渡奉行所同心
春日籐之丞…島役人
至近十郎兵衛
至近精十郎
鷹子海蔵