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佐伯泰英の「長崎絵師通吏辰次郎 第1巻 悲愁の剣」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

佐伯泰英最初の時代小説が本書。最初の題名は「瑠璃の寺」。文庫化に際して題名を「悲愁の剣」とした。ほぼ同じ時期に密命シリーズ最初の「密命 見参!寒月霞斬り」を上梓している。

主人公の通吏辰次郎(とおりしんじろう)は六尺二寸(約一八七センチ)、刃渡り一尺九寸(約六十センチ)の脇差藤原貞広を差した直心影流の遣い手。年齢二十七歳。

辰次郎は剣客であると同時に、絵師でもある。

父親は長崎で唐絵目利をやっていた南蛮絵師。辰次郎自身も澳門(マカオ)で食うに困っていた頃にジュゼッペ・カスティリオーネから油絵の知識や技術を学んだ。ちなみに、ジュゼッペ・カスティリオーネは実在の人物である。

なぜ辰次郎が澳門にいたことがあるのかは、本書で確認頂きたい。

さて、作者もだいぶ欲張っているので、話がずいぶんと忙しい。

軸となる話は、長崎で起きた事件に関連して辰次郎が長崎からわざわざ江戸までやって来てその真相を確かめるというものであるが、それとは別に辰次郎が世話になる車善七を巡る事件も大きな要素を占めている。

軸となる長崎で起きた事件に関しては、物語の終盤になると思いもよらぬドンデン返しが連発する。

えぇ!あの人が黒幕なの?

えぇぇ!!あの人が生きていたの?

さらには、辰次郎の正体もぉ!?

…相当えらいことになっています。

内容/あらすじ/ネタバレ

享保四年(一七一九)の八朔。通吏辰次郎は四歳の幼子の季次茂嘉を連れて江戸にたどり着いた。茂嘉はある体験がもとで口を開かない子になっていた。

辰次郎の前で小柄な老人が襲われたので助けた。老人は浅草溜めの頭、車善七だった。助けた礼にと善七は食事をろくに取っていない辰次郎らを招いた。

善七の支配する場所は吉原の北側に隣接していた。間に板塀とお歯黒どぶが境になっているだけである。そして、善七の娘・あしたがもてなしてくれた。

善七は季次茂嘉の動静にも詳しかった。茂嘉の実家季次が没落したのは仕組まれた罠である。辰次郎はその吟味再調べ申し立てのために長崎から江戸にやってきたのだ。

季次家は長崎の有力な地役人の家柄である。茂嘉の父・茂之は辰次郎の親友であり、母・瑠璃は幼馴染である。

季次家破綻の裁定をした長崎奉行は現在の大目付・大村備前守清治である。善七は辰次郎の手助けをするつもりになっていた。

その一方で、善七が襲われたのには新町の弾左衛門の支配から抜け出そうとしていたからであった。

辰次郎と茂嘉は善七が用意してくれた長屋で生活をすることになった。二人の家を掃除してくれていたのは両目に宿る光が弱い少女・おしのだった。

辰次郎は絵師の看板を上げてみることにした。父は長崎で唐絵目利をやっていた南蛮絵師である。辰次郎自身も澳門(マカオ)で食うに困っていた頃にジュゼッペ・カスティリオーネから油絵の知識や技術を学んでいた。

辰次郎は長崎目付をやっていた河原武左ゑ門を尾行した。その後襲われた。襲ったのは自分と同じ直心影流の遣い手であった。しかも、その太刀筋には覚えがあった。

辰次郎に絵を頼んできた人物がいた。三浦屋四郎左衛門抱え太夫高尾、つまり五代目の三浦屋高尾であった。三浦屋高尾の花魁道中の絵は大評判となった。

同じ頃、善七も絵を頼んできた。それは供養塔の天井に描くものであった。この絵はフレスコにしようと考えていた。

その一方で大目付の大村備前守清治はしっぽを出さないでおり、進展はほとんどなかった。

その内、もう一件絵の依頼が来た。相手は大物のようである。しかも描かせる絵は危な絵である。これを断って帰ってくると、茂嘉が連れ去られたという。最前の相手が仕掛けたようだ。

この相手、老中の久世大和守唯周であることがわかった。そして、この久世大和守唯周が姿を現わしたことで、季次家の没落の様子が判明していき、その裏でなされた出来事の一切が判明していく。

さらには、意外な人物が生きていることが分かった…。

本書について

佐伯泰英
悲愁の剣 長崎絵師通吏辰次郎1
ハルキ文庫 約二五〇頁
江戸時代

目次

第一章 浅草溜め
第二章 南蛮絵師
第三章 暗闘
第四章 黒い絵
第五章 思慕の人
第六章 浅草瑠璃堂
終章 炎上

登場人物

通吏辰次郎
季次茂嘉
車善七
あした
おしの
富造…おしのの父親
與吉
ひょっとこの徳三
高尾…太夫
季次茂之…茂嘉の父
瑠璃…茂嘉の母
平塚四郎平…瑠璃の父親
はばかりの権六
矢野弾左衛門
大村備前守清治…大目付、元長崎奉行
河原武左ゑ門…元長崎目付
久世大和守唯周…老中
穂坂廖馬
大岡越前守忠相