覚書/感想/コメント
第二弾。
長崎に戻った通吏辰次郎。幕府は長崎の締め付けを強くしようとしていた。阿蘭陀船の来航数を減らし、貿易の枠を減らすという方針に打って出そうである。
長崎会所は生き残りを賭けて陳情に上がると供に、裏では阿蘭陀と組んで密貿易をする覚悟を決めていた。
辰次郎はこの密貿易の長崎側の頭分になることになった。それは、かつて秘密の使命を帯びて国外にいたときに使用した沈季龍のようになることを意味していた。
阿蘭陀と組むということは唐人貿易が減るということを意味する。唐人貿易が減ることに対抗するために長崎会所に挑んでくる勢力がいる。黄巾党という秘密結社である。
ちなみに、三国志に登場する歴史上の黄巾党とは関係ない。
この黄巾党の首領・林小平は一体誰なのか? その意外な正体に驚く。
長崎の自治というのは分かりづらい。というのは、この町自体がかなり特殊な性格を有していることから来ているのだろう。
長崎の自治を実質的に支配していたのは地役人といわれる長崎もので、地役人を統率するのは六人の町年寄。その下に各町に乙名と呼ばれる差配がいた。出島には出島乙名がいる。
出島和蘭商館に勤めていたのは、およそ次のようであった。
阿蘭陀側はカピタン(商館長)、ヘトル(商館長次席)、貨物管理の責任者の荷倉役、会計総括の計算役、筆者頭(上筆者)、書記(筆者・下筆者)、医師など。日本側は出島乙名、阿蘭陀通詞、探番(門番)、料理人などであった。
さて、本書は明らかに続きがあるような終わり方をしている。
だが、2003年以来刊行されていない。他のシリーズの刊行ペースを考えると、このシリーズはここで終わってしまうのかという危惧を覚えざるを得ない。
恐らく、このシリーズは主人公が海外に飛び出して活躍するのだろう。となると、海洋冒険小説の面白さが加わることになるのだろう。
だが、周囲が海に囲まれている国にもかかわらず、残念ながら日本には海洋冒険小説の伝統がない。日本人作家による作品の数が少なく、また、読者層も薄い。
こうしたところにも次回作を書くことに躊躇する原因があるのかもしれない。そうは思いつつ、次回作に期待してしまう。
内容/あらすじ/ネタバレ
享保六年(一七二一)、晩秋。
通吏辰次郎は長崎へ戻っていた。そして、おしのの目を阿蘭陀人医師フォン・ヒュースケンに診てもらっていた。だが、おしのの治療法は今のところ無いという非情な宣告だった。おしのは、これでさっぱりしたという。
長崎に戻った辰次郎は長崎会所の出島御用絵師の仕事に就いた。ヒュースケンは辰次郎に安南語で沈季龍大人と語りかけた。ヒュースケンは辰次郎が長崎を離れて極秘の使命を帯びていた時に使っていた名前を知っていた。
長崎を権威で監督支配するのは老中直轄の長崎奉行である。この時期長崎在勤は石河政卿だった。
町年寄の高木孝右衛門が辰次郎に声をかけた。幕府が阿蘭陀船の制限を厳しくしようとしていることを危惧しているというのだ。出島でもそれを危惧しており、江戸参府には阿蘭陀船の増船を願うつもりだという。
その一方で長崎会所は阿蘭陀と組んで密貿易をすることを決めた。その密貿易の長崎側の頭取になれという。
注意しなければならない情報があった。それは長崎会所が阿蘭陀と組むということに対抗して唐人屋敷が目をこらしているという。黄巾党という秘密結社があり、林小平という者が頭だという。
この話の後、辰次郎はすぐに黄巾党に襲われた。あまりにも早い。筒抜けである。
長崎の新しい商館長はヒュースケンだった。江戸参府には白虎をつれていくという。珍獣好きの吉宗を考えてのことである。それとは別に辰次郎に一つの要求をしてきた。それは密貿易用の隠し港を用意して欲しいというのである。
高木孝右衛門は辰次郎を助けるために二人の若者を遣わした。岡谷健三郎と東村峰太郎である。
辰次郎に絵を描いてもらいたいという依頼が来た。丸山町の和茶という売り出し中の遊女である。和茶は辰次郎にあるがままの自分を描いてもらいたいと依頼する。
この後、辰次郎は新しい長崎目付の宇田川陣斎と対面した。
茂嘉とおしのが連れ去られた。黄巾党の仕業である。
辰次郎を高木孝右衛門の名で呼びだした者がいる。だが、それは黄巾党の手の者であった。黄巾党は長崎会所が茂嘉とおしのの行方を捜していることを知っているのだ。
やがて茂嘉とおしのは黄巾党と深く関わりのある船に乗せられていることが分かった。
密貿易用の隠し港が見つかった。だが、この正確な場所を辰次郎は高木孝右衛門にも告げなかった。とういうのは辰次郎には一つの危惧があるのだ。それは長崎会所に裏切り者がいるのではないかということだ。
でなければ、これまでの筒抜けのような状況は説明できない。
さらに驚くべきことが。長崎目付の宇田川陣斎にも密貿易の話が流れていた。それは、長崎会所の一部の者しか知らない。赤貿易という特殊な隠語を宇田川陣斎が知っていたのだ。これで裏切り者がいることが確実になった。
この裏切り者は一体誰なのか?
本書について
佐伯泰英
白虎の剣 長崎絵師通吏辰次郎2
ハルキ文庫 約二七五頁
江戸時代
目次
第一章 黄巾党暗躍
第二章 阿蘭陀船出帆
第三章 神女と和茶
第四章 対決長崎目付
第五章 商館長江戸参府
登場人物
通吏辰次郎
季次茂嘉
おしの
和茶(篠塚神女)
岡谷健三郎
東村峰太郎
石橋良庵…阿蘭陀通詞
平嶋棟碩…蘭医
高木孝右衛門…町年寄
薬師寺実由…町年寄
村崎権左衛門…出島乙名
フォン・ヒュースケン…阿蘭陀人医師、長崎商館長
マリオ
グエン
シン
フエ…白虎
董新欽…鍼灸師
譚利楊
宇田川陣斎…長崎目付
林小平…黄巾党の頭分
史耕…黄巾党副首領
田武遜…黄巾党副首領