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佐伯泰英の「吉原裏同心 第2巻 足抜」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第二弾。

表題の「足抜」だが、廓(つまり吉原)から逃亡することを意味する。小説で描かれるのは、吉原大門から通いのお針子などの姿に宿して逃げるといった様なものが多く、たいていは吉原大門からの逃亡劇ということになる。

これは、その他からは事実上逃げられないような構造に吉原がなっているためである。本書では、どうやって足抜するのか?それも一つの読みどころである。

ところで、足抜に失敗して捕まると酷い仕置きを受け、命を落とすこともあったようだ。

これに対して、同じく吉原の外に出る方法として、身請けがある。身請けは馴染み客が多額の金を払って、女郎を引き取る。太夫クラスになると、何千両もの大金を必要とすることもあったようだ。

身請けは女郎にとって最大の夢であるが、事実上女郎に選択権は無く、望まない身請け話もあった。

今回の事件の始まりとなる八朔。旧暦の八月一日をいう。

在府の大名諸侯が白帷子で登城して将軍家に祝辞を述べる習わしで、天正十八年(一五九〇)八月一日に家康が関東入した式日を重んじてのことという。

これが吉原遊郭にも取り入れられた。元禄年間のある八朔に、巴屋源右衛門の抱え太夫高橋の発案による。

さて、若衆頭の長吉。その過去が少し分かってきた。母親は切見世の女郎で、父親はわからない。物心が付いた時から吉原が在所。母親が労咳でなくなった後、会所に引き取られて育ったという。

もう一人、四郎兵衛が七軒の引手茶屋の一つ山口巴屋の主というのも今回初めて分かった。

それと、今後、幹次郎の頼もしい味方となりそうなのが、新しく腰に差すことになる和泉守藤原兼定である。

内容/あらすじ/ネタバレ

天明六年(一七八六)、旧暦八月一日の八朔。

幹次郎は四郎兵衛より道中見物にくるよう招かれていた。その行き道で幹次郎は掏摸の現場を見かけた。乱暴な手口の掏摸で、これを幹次郎は捕まえた。

この話をしているときに、仙右衛門が四郎兵衛に耳打ちした。

幹次郎は花魁道中を見ていた。当代の吉原を二分する人気花魁は薄墨と香瀬川である。薄墨の道中を見た後、香瀬川が来るはずだが、待てども暮らせども来ない。長吉が幹次郎を呼び、四郎兵衛のところにいくと、香瀬川を抱える松葉屋の主・儀右衛門も同席している。

香瀬川の姿が消えたというのだ。ほんの一刻前のことだという。客の寄合旗本の高濱朱里はカンカンだという。

長吉の記憶では太夫が足抜をしたという記憶がない。幹次郎は長吉と香瀬川がどうやって消えたのかを調べ始めた。すると、太夫の夜具の下に細工したあとがあった。天井裏から逃げたようだ。

実は、女郎が忽然と消えたのは今回が初めてではないという。三ヶ月前に市川という若い女郎が消え、二度目は新造の春駒が消えたという。

幹次郎は汀女の考えで、太夫の薄墨に会って話がしたいと思っていた。その事を四郎兵衛に相談しに行くことにした。四郎兵衛は幹次郎を誘って朝風呂に入ろうという。向かう先は会所隣にある七軒の引手茶屋の一つ山口巴屋である。四郎兵衛はこの主でもあった。

薄墨は吉原に暮らす女郎の満たされないものを幹次郎に教えた。それは、吉原という廓内で身動きが着かないことだという。自由がないというのだ。香瀬川はそれを求めて逃げ出したのだろうか。

最初に行方を絶った市川の在所を訪ねることにした。そこで長吉はやけに家族があかるいのに不審を覚えた。市川こといちには許嫁がいたことが分かった。建次郎という。

いちの家を見張っている時に、吉原から知らせがきた。鈴音という女郎の元に来ている客が金がないので金を取りに藩邸まで向かわせているから待てといっているのだ。侍は竹越繁千代という。

香瀬川が消えてから十五日。吉原にいる人間が手引きしないと外には逃げられない。見張っている市川こといちの家にも動きがない。手詰まりになったところで、春駒ことはるの在所谷保村に向かうことにした。

すると、はるの家族は皆殺しにされていた。どうやら、幹次郎たちが動いていることを知り、先回りされたようだ。だが、はるの弟の一人孝之助が国分寺村の炭窯で働き、生き残っていることが分かった。そして、どうやら孝之助ははるの居所を知っているらしい。

玉川上水の岸辺に、ちょっと変わった趣向の宿ができたという。どうもそこがくさい…。

薄墨が幹次郎に耳寄りな話をしてくれた。それは壱番楼の庄右衛門が香瀬川らを連れて花見に行った時のこと、どこぞの坊さんを連れていたという。

それに、壱番楼の内証がだいぶ苦しいという噂もある。これは会所でもつかんでいない話だ。どうやら壱番楼は畑違いの商いに手を出して大損をこいたらしい。

足抜をさせれば、身請けするよりはるかに安く済む。それで足抜させた女郎を売れば、大損の穴埋めをできると考えたようだ。

だが、依然として足抜の方法が分かっていない。そして、次に狙う花魁がだれなのか…。

本書について

佐伯泰英
足抜 吉原裏同心2
光文社文庫 約三四五頁
江戸時代

目次

第一章 八朔の怪
第二章 血染めの衣
第三章 刺客走る
第四章 深川越中島哀死
第五章 吉原俄総踊り

登場人物

お銀
熊野代五郎
参吉
四蔵
原口統五郎…御家人
香瀬川…太夫、花魁
市川(いち)…女郎
建次郎
春駒(はる)…新造
孝之助…はるの弟
儀右衛門…松葉屋主
薄墨…太夫、花魁
高濱朱里…寄合旗本
車善七
光助
鈴音…女郎
竹越繁千代
紅霧…太夫
烏森の伝兵衛…府中宿の御用聞き
弐三…めし屋の主
常太郎
引き抜きの源次
庄右衛門…壱番楼の主
雷の南五郎
豊嶋軍太夫
竹造…大工
やえ…竹造の女房
徳松
富吉