覚書/感想/コメント
シリーズ第三弾。
題名の「見番(けんばん)」とは女芸者、幇間などの運営業務を請け負っている総合窓口をいうらしい。この見番が吉原を牛耳ろうとして策動するところから今回の題名となっている。裏で糸を引いているのは一橋治済。
どうやらこのシリーズでの悪役は一橋治済になりそうだ。子供は十一代将軍の徳川家斉である。
十一代将軍の後見となるのが寛政の改革を行う松平定信。吉原は生き残りのため松平定信との関係を強めようとする。
「白河の清きに魚のすみかねて もとの濁りの田沼こひしき」といわれた松平定信が吉原と組むというのはイメージとは異なる気がする。むしろ、あくの強い一橋治済が吉原と組むのなら分かるのだが。ともかく今後どのような関係が築かれていくのかが楽しみである。
吉原を舞台としているシリーズのため、吉原でのしきたりが随所に盛り込まれているのが魅力の一つ。
今回は小菊、つまり鼻紙のことで面白かったので紹介。吉原では紙花という。一枚が一分である。客は花魁の気を引こうとして紙花を撒いて遊ぶ。
時代劇などでは小判や小銭などをばらまくシーンがあり、「ほーれ、ほーれ、拾え。あっははは」などとやる場面があるが、それとは違う。考えてみれば時代劇などでの設定は料亭などだから、吉原とのしきたりが違うのは当たり前なのだが。
内容/あらすじ/ネタバレ
天明六年(一七八六)。この九月八日に将軍家治の死の触れが公表された。江戸は喪に服し、吉原は閉門停止となり、遊里もひっそりとしている。遊客がいなければ四郎兵衛会所も暇をもてあます。
将軍家治の死と供に老中田沼意次の凋落が始まっていた。反田沼派が意次解任に走っていた。結集したのは御三家に御三卿の一橋家ら、中心は一橋治済である。この度の閉門停止は吉原が田沼意次に近すぎた報いであると四郎兵衛はいう。
お針のお辰が殺された。お辰は金に困った女郎衆相手に金貸しをしていたようだ。お辰を最初に見付けたのは女郎のお兼であった。
お辰は金しか信用しない女で、親しい人間がいなかった。このお辰には飼い猫のうめと、異母弟の李一郎がいることがわかった。その中、お辰を最初に見付けた女郎のお兼が殺された。
この度の閉門停止には裏の理由があるようだ。
汀女が幹次郎に女郎衆と女芸者が角突き合わせることが起きて困っているという。吉原の序列は厳しい。表向きは太夫を頂点とした遊女大事の世界である。女芸者が楯突くとはおかしい。
四郎兵衛にこの話をすると、七年前の安永八年のことを語り出した。角町の妓楼の主・大黒屋正六が同業を募り、見番創設をした。女芸者たちをとりまとめるためだ。
そして、どうやら今回の閉門停止には見番頭取の大黒屋正六が暗躍しているのではないかという推論に達していることを告げた。大黒屋正六は一橋治済の用人につながりを持って策動しているようだ。
閉門停止が解かれた。解かれたと同時に幹次郎は襲われ、吉原の七軒茶屋も被害にあった。わずか十三人の客にしてやられたのだ。これを裏で引いているのが百面の銀造という男であることが分かった。この百面の銀造が吉原に出向き何やら仕掛けようとしている。
大黒屋正六が吉原を仕切っている名主らの呼び出しを受けた。そして、その席で正面切って吉原に宣戦布告をしてきた。
見番の番頭・定九郎が一橋家を訪れた。四郎兵衛らはこれを勾引し、定九郎が受け取ったはずの一橋家の御用人から大黒屋正六宛の返書を奪い取った。
そして、新将軍家斉の後見に松平定信が決まったことが分かった。吉原としては策がある。松平定信の父親・田安宗武とは昵懇の間柄である。
だが、定九郎を攫われたことを知った大黒屋正六の反撃が予想された。その牙が汀女に向かった…。
本書について
目次
第一章 お針殺し
第二章 冬瓜の花
第三章 百面の銀造
第四章 義太夫の小吉
第五章 汀女の覚悟
登場人物
お辰…お針
お兼…女郎
藤巻…女郎
うめ…猫
佐多李一郎…お辰の異母弟
大黒屋正六…見番頭取
定九郎…番頭
桑名勘兵衛内記
篠部美里
鰐淵左中
稲垣三郎平
亀蔵
おしん
精吉
百面の銀造
保造…会所の若い衆
小吉…元義太夫
政吉…老船頭