時代は、文豪アレクサンドル・デュマの「三銃士」と「二十年後」の間です。
稀代の快男児である「三銃士」主人公シャルル・ダルタニャンと、鼻のシラノ・ドゥ・ベルジュラック。
同じ時代に”実在”した快男児二人を、小説で対面させ、果ては二人に冒険をさせてしまっています。
ダルタニャンは慎重であり、何事も経験に基づいた判断をする行動派で、宮廷事情にめっぽう詳しい快男児。
一方、シラノは文筆家の端くれといわんばかりに、類い希な想像力と、鋭い直感を持ち合わせているが、いかんせん腰が重い男です。
この二人を補っているのが、シラノの竹馬の友であるル・ブレです。弁護士でもあるル・ブレは、二人が苦手な地道な書類探しが得意です。
この三人を中心として、新聞記者のピエール・クルパンが加わって、四人での冒険小説となっています。
本書のベースが、デュマの「三銃士」にあるため、できればデュマの「三銃士」を読んでから、本書を読んだ方が面白いと思います。
もしくは、前後するのだが本書を読んでからデュマの「三銃士」を読んでも一層面白く感じるかも知れません。
又はエドモン・ロスタンの「シラノ・ドゥ・ベルジュラック」若しくはシラノ・ドゥ・ベルジュラックの「日月両世界旅行記」を読まれても、本書を一層面白く読めるでしょう。
人によっては、過去の文豪が書いた作品の続編を、続編という形で書かれた小説が嫌いだと言うこともあるかと思います。
ですが、その本により原作がより一層面白く読めるのであれば、それはそれで一読の価値があるのではないかと思うのです。本書はまさに原作を輝かせるためにある本だと思います。
なお、シャルル・ダルタニャンの実像については佐藤賢一が岩波新書で記している『ダルタニャンの生涯-史実の「三銃士」-』に詳しいので、こちらも併せて読まれるとよいと思います。
内容/あらすじ/ネタバレ
マザラン枢機卿によって解散させられた銃士隊の元銃士で快男児ダルタニャンは、マザランにより戦線からパリへと召還されていた。
マザランより特命を受けるようである。
その特命に際し、一人の男と組むことになったが、これが稀代の問題児シラノ・ドゥ・ベルジュラックであった。マザランからの命は、マリー・ドゥ・カヴォワという女性を監視することであった。
マリー・ドゥ・カヴォワを監視し始めると意外な人物があらわれる。先王ルイ13世の実弟であり、現王ルイ14世の叔父であるオルレアン公ガストンである。
そのオルレアン公からも意外な申し出がある。引き続きマリー・ドゥ・カヴォワを監視し、情報を自分に提供して欲しいというのだ。
一方、マリー・ドゥ・カヴォワも直接ダルタニャンとシラノに会いに来て、頼み事をする。父カヴォワの死因を調べて欲しいというのだ。
また、マリーは自分が監視されているのは、父が残した「日記」にあるというのだ。この日記こそが、マザランとオルレアン公が互いに狙う代物だったのだ。
ダルタニャンとシラノの二人は、この日記に絡んで故カヴォワの死因を調べるために、分かれて調査をする。
ダルタニャンは故郷のガスコーニュへ、シラノはアヴィニョンへ。そして、そこではそれぞれ不審な集団の影を感じる。
場所は離れていつつも、同じく謎のスペイン人集団が暗躍し、アヴィニョンでは「鉄仮面」という謎の人物の噂があがっている。パリに帰京した二人は、パリでも「鉄仮面」の話を聞く。
このスペイン人と鉄仮面はカヴォワの日記と何か関係するのか?
そして、カヴォワの日記の中身は、マザランとオルレアン公という権力者にとってどのような意味を持つのか?
稀代の快男児二人が繰り広げる大冒険物語!!!
本書について
佐藤賢一
二人のガスコン
講談社文庫
上中下合計約1,150頁
17世紀フランス
目次
一 銃士の帰還
二 新宰相
三 無頼漢
四 懐具合
五 犬と猫
六 臆病者
七 乱闘沙汰
八 密命
九 朝食
十 ボン・ザンファン通り
十一 追跡
十二 ロシュフォール
十三 オルレアン公
十四 政治思想
十五 張りこみ
十六 宰相の愛人
十七 共感
十八 調査開始
十九 マリーの依頼
二十 銃士隊長カヴォワ
二十一 閲兵書類
二十二 修道院
二十三 露台
二十四 アヴィニョン
二十五 不満分子
二十六 流行怪談
二十七 フォア
二十八 銃士隊長トレヴィル
一 道草
二 焦燥
三 新聞
四 情報
五 聞きこみ
六 目撃者
七 玉石混淆
八 帰京
九 正面衝突
十 新事実
十一 政治犯
十二 不満
十三 あやまち
十四 幽霊
十五 要求
十六 バスティーユ
十七 囚人の秘密
十八 躊躇
十九 孤独
二十 前科
二十一 問題児
二十二 報告
二十三 思わぬ展開
二十四 詰問
二十五 舌戦
二十六 リシュリューの影
二十七 ルーヴル
二十八 推理
二十九 アンヌ・ドートリッシュ
三十 残された謎
一 シテ島
二 占拠
三 再度の依頼
四 チクトンヌ街
五 サロン
六 ラグノオの蔵書
七 日記
八 行き違い
九 後悔
一〇 サント・シャペル
十一 マザランの要求
十二 夜道
十三 怪文書
十四 牝鹿亭
十五 探りあい
十六 下宿
十七 備考
十八 善後策
十九 誘拐
二十 ブールゴーニュ座
二十一 苦悩
二十二 急転
二十三 宣戦布告
二十四 殴りこみ
二十五 痛み
二十六 最終報告
二十七 別れ
二十八 シラノ新聞
登場人物
シャルル・ダルタニャン…元銃士
フランソワ・ヴィヨン…ダルタニャンの従者
シラノ・ドゥ・ベルジュラック…哲学者で物理学者、駄法螺詩人、決闘剣客、音楽家
アンリ・ル・ブレ…シラノの幼なじみで弁護士
マドレーヌ・ロバン…シラノの従姉妹、愛称「ロクサーヌ」
ピエール・クルパン…新聞記者
ラグノオ…菓子屋
ジュール・マザラン枢機卿…フランス宰相
ギッシュ伯爵アントワーヌ・ドゥ・グラモン…フランス元帥
ベズモー卿ジャン・ドゥ・モンルーザン…近衛兵
ルイ14世…現フランス王
アンヌ・ドートリッシュ…先王ルイ13世の王妃、現王ルイ14世の太后
オルレアン公ガストン…先王ルイ13世の実弟
ロシュフォール伯爵…前宰相リシュリューの腹心
アンドレ・ドゥ・ロスニィヴィネン男爵
ベルトラン・ドゥ・モーニ卿
マリー・ドゥ・カヴォワ…元枢機卿付銃士隊長カヴォワの娘
ユスターシュ・ドゥ・カヴォワ…マリーの弟
アルノー・ジャン・ドゥ・トレヴィル…元銃士隊長