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佐藤雅美の「半次捕物控 第4巻 疑惑」を読んだ感想とあらすじ(面白い!)

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覚書/感想/コメント

前回登場した蟋蟀小三郎。その蟋蟀小三郎とお志摩の関係がとても怪しく思えてしまう半次。思いあたる節が沢山あるだけに、気が気でない。

そんな、蟋蟀小三郎は半次にとって疫病神のような存在。だが、その蟋蟀小三郎は本作では半次に金儲けの話を散々フイにされている。半次は気が付いていないが、むしろ半次が蟋蟀小三郎にとって疫病神なのかもしれない。知らぬは己のみという…。

その傍若無人の蟋蟀小三郎の意外な身の上話が物語の最後で語られる。これが、本当に意外な話で…

さて、本作も軽妙な場面が数多く散りばめられている。個人的に好きなのが、「迷子札を見る女」で、半次が番太郎ものを尋ねる場面。

番太郎が歯抜けであるため声が抜ける。そのやりとりが可笑しい。

「尋ねたいことがある」
「ふにゃあ(なんだべ)」

「迷子札がある」
「ふにゃあ(それがどうかしただか)」

この”ふにゃあ”会話が続くのだ。想像するだに笑える。しかし、これでよく会話が成立するなぁ。

また、本作でも、佐藤雅美の時代考証が随所に盛り込まれており、これが興味深いのは毎度のことである。例を挙げれば以下の通り。

・拝領屋敷。大名、旗本、御家人は公儀から屋敷(地所)を拝領していた。所有権は公儀が留保しており、賃貸しも売買も許されないというのが建前である。だが、土地を実質占有しているものを地守として、その役を売買するという方法が取られていた。

・芝口一丁目の自身番屋横に、釘を打ち込んだ高札のような迷子札を立てていた。

・評定書での取り調べ。浪人は町人と同じ扱いを受け、白洲での取り調べとなる。

他にも様々なことが物語にソッと盛り込まれている。佐藤雅美の小説の面白さはこういうところにある。

内容/あらすじ/ネタバレ

芭蕉庵があったといわれる旧跡が大名の下屋敷にある。そこに顕彰碑を建てようということになったが、下屋敷の一部を払い下げて貰うしかない。さて、どこにお願いしたらよいのか。荻花はそう言ったが、年番与力の佐久間惣五郎に半次が顔が利くことを見越してやって来たのだった。

その頃、別れた亭主が女房の髪を剪る事件が起き、その裁決を巡り奉行所内で一騒動が持ちあがっていた。北の奉行所としては訴えを取り下げさせたかった。だが、蒸し返す者がおり、事態が紛糾する。

これを聞きつけた蟋蟀小三郎。金の匂いがすると、一口乗せろと言う。だが、この話は金の絡むものではないと半次は断る。そして、ことは、芭蕉庵がきっかけであっけない幕切れとなる。

…半次が丸岡有馬家用人・山川頼母に呼ばれた。蟋蟀小三郎についてである。何とか蟋蟀小三郎を始末したい山川頼母は、半次の話を聞きもう一度刺客を放つしかないかと考える。

だが、まてよ、小三郎は半次の女房・お志摩にぞっこんだというではないか。二人をわりない仲にすれば、半次が放っておかないのでは…

蟋蟀小三郎が半次のところにやってきて、金になるから話に乗れという。拝領屋敷が絡んでいるらしい。だが、その金主が気にくわないので、断ってしまう。

蟋蟀小三郎がやってきて、半次は最近考えることがあった。女房のお志摩と蟋蟀小三郎の仲を怪しい気がする。そう思うと、様々なことが思い当たる。

半次を青木屋番頭・九右衛門が訪ねてきた。間違って、客を万引犯扱いしてしまった。その相手が「は組」の頭・藤兵衛だったことが分かり、青木屋としては何とか事を丸く収めたかった。仲裁は無理だと断ったものの、なぜか色んな噂が飛び交う始末。そんなある日、お志摩が朝帰りをした。

半次は迷子を預かった。子供は正太という。迷子札に札をぶら下げた。後日、親だと名乗る女性が現れて正太を連れて行ったが、その後、別の女性が親だと言って名乗り出てきた。どうやら、先に名乗り出た女性は本当の親ではなかったらしい。この正太を巡っては、色々な思惑が巡らされていたようで…

その頃、蟋蟀小三郎は江戸を離れていた。それにもかかわらずお志摩は出かけていく。一体、蟋蟀小三郎とは関係がないのか。そして、お志摩はまた昨夜戻ってこなかった。だが、この日蟋蟀小三郎が半次を訪ねてきた。どうしたことか。

そこに、両国広小路の親分・英五郎がやってきた。今朝お志摩がやってきて、半次と別れることにしたので、当分親分の所に置いて下さいという。その後、英五郎がいろいろとお志摩に働きかけたらしい。

さて、その間、蟋蟀小三郎は様々なことに関わり合い、奉行所でも手を焼き始めてきた。だが、お志摩が蟋蟀小三郎に何かを告げた後以来、しゅんとしてしまう。そのお志摩だが、一体何をしているのだか…

本書について

佐藤雅美
疑惑
半次捕物控
講談社文庫 約三八五頁
連作短編 江戸時代

目次

第一話 芭蕉が取り持つ復縁
第二話 疑惑
第三話 小三郎のいつもの手
第四話 迷子札を見る女
第五話 浜御殿沖慮外法外の報い
第六話 小三郎の放心
第七話 働き者の女なかの悩み
第八話 一難去ってまた一難

登場人物

半次…岡っ引
お志摩…半次の女房
お美代…半次の義理の娘
およね…女中
英五郎…両国広小路の親分
蟋蟀(国見)小三郎…浪人
深尾又兵衛…浪人
岡田伝兵衛…半次の上司
佐久間惣五郎…年番与力
助五郎…岡っ引
おすみ…引合い茶屋の主
山川頼母…丸岡有馬家用人
神田弥三郎…北の吟味方与力
宍戸武四郎…南の吟味方与力
茂左衛門
あき
上総屋吉兵衛
魚﨑五郎左
九右衛門…青木屋番頭
藤兵衛…は組の頭
正太(正太郎)…迷子
さわ
境屋市左衛門
おはる
甚兵衛
安房屋六左衛門…煙草問屋
おなか
庄兵衛
土屋貞治郎
朝倉虎之介