佐藤雅美の「物書同心居眠り紋蔵 隼小僧異聞」を紹介します。シリーズの第2作目です。
ようやく、紋蔵が活躍しはじめるのが、この巻からです。
紋蔵の不思議なツキにいち早く気が付いたのは、捨蔵でした。
そのツキは留まるところを知りません。
どのようにツキまくるのかは本書を読んで頂ければ分かると思います。
本作では、長女稲が嫁ぎ、長男紋太郎も養子先が決まり家を出ました。
家に残るのは次男の紋次郎と、次女麦、三女妙となります。
二人もいなくなり、嬉しいやら寂しいやらの紋蔵一家です。
前作では賑々しい感じのある一家でしたが、急に静かになってしまったかのようです。
これから、どうなるのでしょうか。
さて、本書のもう一つの魅力は、江戸時代における仕組みや社会風俗が、物語にうまく散りばめられているところでしょう。
例えば、「落ちた玉いくつウ」では”お玉落ち”の説明があります。
札差しでの、俸禄の受取に関する事ですが、この事が述べられています。
他には「沢瀉文様べっ甲蒔絵櫛」では闕所品の取扱いが書かれており、更には「積善の家」では成敗と仕置の違いが説明されています。
内容/あらすじ/ネタバレ
落ちた玉いくつウ
実家が火災で延焼してしまい、両親を亡くしたお喜代。借金のかたに実家を押さえられてしまうが、実家の地下蔵に百五十両が埋まっているはずだという。
沢瀉文様べっ甲蒔絵櫛
松原新三郎は最近上の空であることが多い。それが故に、仕事中に失態を犯し、五十日の押込となった。
上の空になっていたのは、実母にどうやら言い寄っている男がいるらしい、それが誰なのか気になってしょうがなかったのだ。
紋蔵の初手柄
入牢証文がなく、本人も記憶が定かでない男が小伝馬町の牢屋に入れられていた。その男が誰なのかを突き止めるように命ぜられ、調べる紋蔵だが、意外な結末に…
罪作り
陸奥棚橋坂倉家の藩士岡野誠一郎が述べた口からの出任せを、信じた娘加代が訪れてきた。加代は岡野誠一郎が身体一つで来いと言ったのを真に受けたのであるが…
積善の家
捨吉に頼まれてついて行った先は高級料亭。そこで待っていたのは飛騨屋和助であった。和助は、自分と大番頭の二人共が死罪を免れないという。
いきなり何を言い出すのかと思う紋蔵だが、ようは昨今”ついて”いる紋蔵のつきにあやかりたいというのだが…
隼小僧異聞
砂糖問屋の手代文吉が店の金に手をつけたとして、暇を出された。そして、同じような理由で安芸広島浅野家から暇を出された市川初江。
一方、世間を騒がした泥棒隼小僧が捕まった。隼小僧は方々の大名屋敷や大店に忍び込んでいた。
島帰り
紋蔵の父が世話をした源次という男が訪ねてきた。堅気には見えない。島送りになっていて、最近戻ってきたというのだ。
その後、紋蔵はお奉行直々に命を受ける。旗本の駒井帯刀の息子が腰に差していた大小二本を奪われたので、それを探し出せというものだ。その大小を探す内に、源次があらわれ…
女心と秋の空
畳職人の辰蔵の娘お喜代が窮して、妾奉公にでることになった。もともと妾奉公はしたくなかったのだ。そのお喜代が、旦那の奥さんが「火つけをしてまで」と言った言葉を聞いて、妾奉公を止められるのではないかと考えた。
本書について
佐藤雅美
隼小僧異聞 物書同心居眠り紋蔵2
講談社文庫 約三五十頁
江戸時代
目次
落ちた玉いくつウ
沢瀉文様べっ甲蒔絵櫛
紋蔵の初手柄
罪作り
積善の家
隼小僧異聞
島帰り
女心と秋の空
登場人物
藤木紋蔵
里
紋太郎(長男)
紋次郎(次男)
稲(長女)
麦(次女)
妙(三女)
六兵衛(義父)
お初(義母)
蜂屋鉄五郎…三番組の吟味方与力
蜂屋鉄哉…蜂屋鉄五郎の次男
大竹金吾…三番組に属する定廻り
安藤覚左衛門…年番与力で筆頭与力
沢田六平…年番与力
山崎喜平次…吟味方与力
捨吉…大座配の親分株
喜八…料理人