今作ではいたずらっ子の文吉が登場しません。また、他の家族もほとんど登場しません。
ですが、紋蔵の例繰方としての能力の高さが遺憾なく発揮されている作品です。
いつも面倒を持ち込む沢田六平も実は紋蔵の能力を高く買っている節があるのを作品の端々で感じることができます。
表題の「四両二分の女」や最後の「名誉回復の恩賞」などは紋蔵の例繰方としての能力を十分見せつけています。
今作で沢田六平に対する評価が変わりました。
面倒なことを押しつける上役というだけでなく、毅然とした態度をみせる男気のある上役でもあるし、部下の手柄を横取りするような邪な人間でないことが分かりました。
意外にいい男なのです。でも裏を返せば融通の利かない男でもあるようですが…。
さて、今作品では、紋蔵の待ちこがれていた褒美があります。それは一体何なのでしょうか?
内容/あらすじ/ネタバレ
男運
雛太夫(『お尋者』に収録の「まあ聞け、雛太夫」に登場)が男と一緒にいるらしいのを長屋の女どもに見つかってしまう。そのことが噂になり、師匠の豊勝が心配して紋蔵に相談に来る。
また、小笹の七蔵が雛太夫の所に現れたのではないかと心配したのだ。だが、雛太夫の所にいたのは別の男だった。
制外の役
留守居たちの所行には目に余るものがある。その留守居たちが芸者たちを嵌めて着物や帯等を持って行ってしまった。その悪ふざけをした留守居たちが誰なのかを紋蔵が調べることになった。
留守居の一人は大名の留守居で篠原右京といった。調べている内に、この大名家ではもっと大きな話しがあるらしく…
四両二分の女
隠売女を取り締まることになった。取締りに引っかかった女たちの処遇をどうするかについて与力の沢田六平から紋蔵に相談があった。その折りに、入札でもするしかないと言ってしまい、沢田がこれに乗っかってしまった。
しかし、今回の取締りは本来先に手を付けるべき深川七場所であるが、なぜか江戸市中の料理茶屋が対象となっていた。なぜなのだろう。
銀一枚
吉蔵の一人の身内、甥の為五郎が吉蔵を訪ねてきた。為五郎を家に上げて、吉蔵が買い物に出かけて帰ってきたら、為五郎が殺されていた。為五郎は死の間際抵抗したのか、犯人と見られる男の指を食いちぎっていた。
猫ばば男の報復
両替屋が間違って、三十両も余計に両替屋に来た人間に渡してしまっていた。その日両替屋を訪ねていたのは限られている。一人一人当ればやがては分かるだろうと考えていた。しかし、見つからない。
腐儒者大東桃昏
何の縁でか、大東桃昏は子供を三人も引き受けることとなってしまった。元々がしがない儒者。金があるはずもなく、そこに子供を育てなくてはならないのだからたまったものではない。その最中、大東桃昏はある事がきっかけで人を斬って死なせてしまう。
湯島天神一の富
市兵衛店に住む十一才のおちえという少女が富くじを当てた。少女の亡き母親に貸した金があるから、その当てたくじの金で帰してもらいたいというものがいるかと思えば、その富くじは本当は私のものだという男が現れて騒動はふくれていくばかり。
名誉回復の恩賞
闕所により取り上げられた土地がある。その土地について入札を奉行所で行うのだが、入札は一部の人間が独占しており、他者はなかなか入り込めない。そこに大和屋吉右衛門が入り込んで、落札してしまった。その後すぐに寺社の方から文句が付いた。この騒動どう決着が着くのか。
本書について
佐藤雅美
四両二分の女 物書同心居眠り紋蔵6
講談社文庫 約四〇〇頁
江戸時代
目次
男運
制外の役
四両二分の女
銀一枚
猫ばば男の報復
腐儒者大東桃昏
湯島天神一の富
名誉回復の恩賞
登場人物
藤木紋蔵
里
紋次郎(次男)
麦(次女)
妙(三女)
文吉(養子)
六兵衛(義父)
お初(義母)
蜂屋鉄五郎…三番組の吟味方与力
剣持鉄三郎(蜂屋鉄哉)…蜂屋鉄五郎の次男
大竹金吾…三番組に属する定廻り
安藤覚左衛門…年番与力で筆頭与力
沢田六平…年番与力
山崎喜平次…吟味方与力
捨吉…大座配の親分株
喜八…料理人