本書は渡世人による股旅ものです。
この渡世人が元医者であるという特殊な設定になっているのが、本書の特徴でしょう。
当時の医療の状況がよく分かるように、それぞれ病状のことなる病人が出てきます。
啓順は当時の本道といわれる内科専門医であり、薬等の調合が本書に頻繁に登場します。
いわゆる漢方になるのでしょうが、生薬を配合する姿が詳しく描かれています。
また、股旅ものらしく、方々を訪れています。
まずは甲府、次に伊豆下田、大島、そこから飛んで東北の石巻、そして江戸。
渡世人の世界を描いた小説らしく、その土地々の顔役・親分衆が登場し、啓順は喧嘩や争いに巻き込まれます。
さて…、本来凶状持ちでない啓順が、凶状持ちとして逃げなければならなくなった原因、つまり聖天松五郎の倅殺しの嫌疑は晴れるのでしょうか?
聖天松五郎の倅殺しの真犯人は誰なのか?
本書の最後にどんでん返しがあります。
内容/あらすじ/ネタバレ
啓順は凶状持ち(人殺し)ということで江戸の役人から追われ、更にはし聖天松五郎の一味からも追われていた。聖天松五郎から追われているのは、倅を殺したのが啓順だと思われていたからである。
啓順はもともとは医者であるが、弟子として付いていた先生から破門され、半分渡世人と化していたのである。その境遇の中で、凶状持ちになってしまった啓順は、どちらにも捕まらないように旅を続けて、甲府についた。
甲府の顔役三井楼の宇吉の世話になりながら、身を潜めていると、どこから嗅ぎつけたのか、宮倉新十郎が啓順の前に姿を現した。旗本・御家人にもワルがおり、そのワルが宮倉新十郎だった。いわゆる甲府流しと呼ばれる左遷状態で甲府に飛ばされてきたのである。
この宮倉新十郎にはあまり関わり合いになりたくない啓順だが、ふとした拍子に、この宮倉新十郎が持ち込んだ病人の面倒を見る羽目になってしまった。
これまで、病人を診るたびに聖天松の一味に嗅ぎつけられていた。啓順の医者としての腕は悪くないのである。そのため評判か立ち、聖天松の耳にも入ってしまうのである。
甲府では、かつて世話になった天野伊代守の子息・健太郎こと天野帯刀がいるということを、宮倉新十郎から聴いていた啓順は、健太郎を訪ねるが、江戸に発ったとかで会えなかった。
そもそも、啓順が凶状持ちとして逃げなくてはならないのは、この健太郎のせいなのである。もしかしたら、自分を避けているのかも知れないと思いつつも、啓順は、そうそうに甲府を立ち去り、南は伊豆の方へ向かう。
本書について
目次
立場茶屋の女
牢番の正体
頼朝街道
下田の旅芸人
波浮の湊
伊三郎の声
江戸の一日
消えた証拠人
登場人物
啓順(啓次郎)
聖天松五郎…町火消し
宮倉新十郎
三井楼の宇吉…甲府の顔役
大場の久八(閒宮の久八)
天野帯刀(健太郎)
お貴美…帯刀の姉
(天野伊代守…帯刀の父)