イスタンブールのボスポラス海峡を渡れば古の東ローマ帝国の都であったコンスタンティノープルに着きます。
つまりヨーロッパです。
沢木耕太郎の心に「あれがヨーロッパなのか…」という思いがよぎります。
イスタンブールでは香港の時と同じような状況にありながら、湧き立つような興奮がありません。旅をしている内に何かを失ったようです。
旅は人生に似ています。どちらも何かを失うことなしには前へは進めません。
思い起こされるのは、カブールですれ違った日本人が言った言葉です。
ヨーロッパの冬は寒い。しかし、その寒さは宿に帰っても誰もいないという寒さであるといいます。
ヨーロッパに着く前に沢木耕太郎はこの寒さに掴まってしまったようです。
これはある意味、ギリシャへ入った沢木耕太郎が感じた、旅の質の変化というものが起因しているのでしょう。
旅が青年期を終えつつあり、壮年期、老年期へと移行しつつあるのです。
若しくは、沢木耕太郎の旅が長すぎたのかもしれません。
そろそろ、沢木耕太郎の旅の終りが本格的に見えてきました…。
内容/あらすじ/ネタバレ
第十三章 使者として
イスファハンからテヘランへ、そしてトルコへ。この旅の中で唯一目的らしいものがあるとすれば、それはアンカラへ行って、一人の女性に会うという使者としての役割を果たすことである。
アンカラでの使者としての役割は沢木耕太郎が茫然とするほどあっけないものであった。もうアンカラは十分である。イスタンブールへ出発しよう。
イスタンブールは居心地のよい街だった。食事に不自由もせず、泊まっている宿からはブルー・モスクが目の前に見える。
沢木耕太郎が立ち寄った店に貼ってある張り紙を見てショックを受けた。そこに書かれていたのは、アムステルダムへの同乗者の募集である。到着は五日後。旅の終りが不意に現実的なものになったことに対して心の用意が全く出来ていなかったのだ。
第十四章 客人志願
イスタンブールを出発してギリシャへ入った。向かう先はアテネ。ヨーロッパを実感するようになったのは、その物価の高さであった。今までのようにはいかない。
アテネは沢木耕太郎にとっていつまでものっぺらぼうの街であった。気に入った場所や拠り所になるような場所がないのだ。
アテネからペロポネソス半島へ向かう。まずはミケーネ。そしてスパルタ、ミストラ…。沢木耕太郎は、ここペロポネソス半島だけは訪れてみたかった場所であった。それは少年時代の一冊の旅行記の思い出からである。
第十五章 絹と酒
ギリシャからイタリアへ渡る船上でのこと。酒を飲む沢木耕太郎の前に亜麻色の髪の女性が座っている。酔っている頭で、その彼女に今まで歩いてきた道筋を懸命に説明していた。
⇒深夜特急 第6巻(イタリア、フランス、スペイン、ポルトガル、イギリス)に続きます。
本書について
沢木耕太郎
深夜特急
トルコ・ギリシャ・地中海
新潮文庫 約二三〇頁(+対談一〇頁)
旅の時期:1974~1975年
旅している地域 : トルコ、ギリシャ、地中海
目次
第十三章 使者として
第十四章 客人志願
第十五章 絹と酒
深夜特急