覚書/感想/コメント
ポエニ戦役終了後からユリウス・カエサルが登場するまでの、共和制ローマが揺れ動いた時代を扱っている。
この時期の重要な人物は、目次にあるように、グラックス兄弟、マリウス、スッラ、ポンペイウスである。最後のポンペイウスあたりになると、ユリウス・カエサルも絡んでくるのだが、この人物は次作以降で大幅に紙面を割いて書かれているので、そちらに譲ることになる。
カルタゴ滅亡時に、スキピオ・エミリアヌスは「いつかわがローマも、これと同じときを迎えるであろう…」といった。この時ティベリウス・グラックスは十六才だった。祖父はスキピオ・アフリカヌスである。
ティベリウスには弟のガイウスがいる。母のコルネリアはユリウス・カエサルの母アウレリアと並んで、ローマの女の鑑と讃えられる女性だった。
ティベリウスが帰国した年の紀元前一三五年、ローマ史上初の奴隷の蜂起が起きた。正規軍は苦戦を続けた。何かが狂い始めていた。
ローマでは経済構造の変化が中産階級を直撃していた。属州となったシチリアからの大量の小麦が、小規模農家に打撃を与えていたのだ。
やがて、土地を手放さざるを得ない状況に追い込まれて、失業するものが増えた。結果として、兵役該当者の数が減少の一途を辿っていくことになる。
ティベリウス・グラックスは護民官に立候補し当選した。そして農地改革を期した法律を提出する。農民から無産者に落ちた人々を、自作農に復帰させ、ローマの市民層の基盤を健全化し、失業者救済とともに社会不安の解消を狙っていた。これがなれば、ローマ軍の質量も回復できるのである。
だが、元老院はティベリウス・グラックスによって体制が揺さぶりをかけられたことを知る。そして、ティベリウスは殺されてしまう。
この悲劇はこの後百年続く「ローマの内乱」の端緒となる。
ガイウス・グラックスが護民官に立候補して当選した。兄・ティベリウスの農地法の再承認などから手を着け始めた。
ガイウスも元老院が一丸となって自分の失脚を狙っていることを知っていた。が、やがてガイウスも死刑の宣告を受ける。
ガイウス・マリウス。平民階級の出身である。護民官を勤め、四十を過ぎたところでユリウス一門に属するカエサル家の女と結婚した。ユリウス・カエサルには伯母にあたる。「ユグルタ戦役」が始まり、マリウスの活躍の場が与えられた。五十才で執政官に就任した。
マリウスはグラックス兄弟が直面したように、ローマ軍団の質量の低下という問題と直面せざるを得なかった。このマリウスの配下にルキウス・コルネリウス・スッラが配属される。
マリウスが行ったのは、正規軍団の編成を、徴兵制から志願兵システムに変えたことである。職業軍人の集団を作り上げたのだ。
やがて、このことがローマ軍団の「私兵化」につながり、スッラ、ポンペイウス、カエサル登場の土壌を準備したことになる。
マリウスは待機中の兵士が無為に時を過ごさないように公共土木工事に従事させた。これが駐留中のローマ軍の習慣となる。
紀元前九十年を待たず、「同盟者戦役」が勃発する。ローマ連合の中でも比較的貧しい地方の住民が蜂起した。
が、ローマ連合が解体することによって、ローマは都市国家という国家形態を超越することになる。
旧ローマ連合に加盟していた都市国家や部族はローマを構成する地方自治体に変わった。
ポントスの王位にミトリダテス六世が就いていた。血も涙もない男だったが、英明な君主だった。ローマの混迷期に乗じて、自らの帝国創立を決意した。
こうした中で、スッラがクーデターによってローマを制圧してしまう。が、今度はマリウスとキンナがローマを手中にする。
双方がローマを制圧しているなかで、多大な犠牲者が生まれることになる。
スッラはローマ史上初の任期無期限の独裁官となる。ここまでしてスッラが国勢改革をしようとしたのは、「元老院体制」の復活であった。あちこちにほころびが出ている体制であったが、まだ充分に使用可能な体制と信じていたのだ。
そのため、道筋が立つと、任期無期限の独裁官の地位を捨てた。
だが、スッラが死ぬと、すぐに「スッラ体制の崩壊」が始まる。反スッラ派によって起きたものではなく、身内のスッラ派によって起きたものであった。
ちょうどこの時期にスパルタクスの乱が起きる。
こうした中で二人の人物が登場する。マルクス・リキニウス・クラッススとグネウス・ポンペイウス・ストラボンである。
スパルタクスの乱を扱った書籍。
佐藤賢一の「剣闘士スパルタクス」
スパルタクスの乱を扱った映画。
映画「スパルタカス」
本書について
塩野七生
ローマ人の物語3
勝者の混迷
新潮文庫 計約三九〇頁
目次
第一章 グラックス兄弟の時代(紀元前一三三年~前一二〇年)
第二章 マリウスとスッラの時代(紀元前一二〇年~前七八年)
第三章 ポンペイウスの時代(紀元前七八年~前六三年)