塩野七生の政治的又は思想的な面が垣間見えるエッセーです。
また、様々な著作からの抜粋文がかなり面白いのです。
皮肉の度合いを強く感じる人もいるであろう内容ですが、思わずニヤリとしてしまう内容が多数含まれています。
このエッセーはこの部分を読むだけでも価値があると思います。
【ピックアップ】
「ある脱獄記」
映画「大脱走」や「ショーシャンクの空に」を思わせるような内容。17世紀にあった話。
「凡なる二将」
「陽の下に新しきものなし」は旧約聖書に既に書かれている言葉だった。いろんな作家が口にする言葉だが、原典は聖書だったとは。
「歴史そのままと歴史ばなれ」
「コンスタンティノープルの陥落」での一場面。スルタン・マホメッド二世が言う「あの街をください」について、学者と意見が異なっている事を書いている。
「ルネサンス時代の45+」
一六世紀前半のフィレンツェにフランチェスコ・グィッチャルディという男がいた。この男の書いたものからの抜粋文がかなり面白い。(以下は大意)
・人は恩を受けた人に対するよりも、敵にしては損だと思う人間の方に忠誠を守るものである。
・思慮深い人ならば、人の一生について運が絶大な力を持つものだという事は否定しないだろう。
・きみ自身の能力を正当に認められる時代にたまたま生を受けたという事実。これこそ幸運と呼ぶにふさわしい。
他にもっと面白いものが含まれているエッセー。
「自由な精神」
イタリアにレオ・ロンガネージというジャーナリストがいた。この男の書いたものからの抜粋文がこれまた面白い。このエッセー集の中で、傑作のエッセーがこの「自由な精神」だと思う。
・一人の馬鹿は、一人の馬鹿である。二人の馬鹿は、二人の馬鹿である。一万人の馬鹿は、”歴史的な力”である。
・アメリカ製の缶詰の肉は、喜んでいただく。しかし、それについてくる彼らのイデオロギーは、皿に残すことにした。
「私の衰亡論」
塩野七生が考える、国家や民族の盛衰が書かれている。国家であろうが民族であろうが、固有の魂のようなものがある。これがネガティブに働くのかポジティブに働くのかが重要であると考えている。個人的には、同感だと思っている。
「偽物づくりの告白」
「神の代理人」では、イタズラで偽史料をでっち上げたことを告白している。そして、別の作品には二重のトリックを仕掛けたことも告白している。
偽史料をでっち上げたことを告白しつつ、別に偽史料を紛れ込ませていたのだ。当然、告白した偽史料に関する批評話されたが、”真”の偽史料に関して言及されたことはなかったらしい。
塩野七生にしてみたら、”してやったり!!!”の心境だったのだろう。ちなみに、この作品がどれだかは書かれていない。
本書について
塩野七生
サイレント・マイノリティ
書かれた時期:1982年~?
刊行: 1985年3月
新潮文庫 約二八〇頁
目次
マイノリティ”宣言”
ある脱獄記
幸福な例
知られざる英雄
イェルサレム問題
第二の人生
生きのびる男
アテナイの少数派
故郷のない男の話
間奏曲
凡なる二将
歴史そのままと歴史ばなれ
ある余生
地の塩
ルネサンス時代の45+
その人の名は言えない
真の保守とは
自由な精神
キプロスの無人街
西洋の知恵
オリエンタル・レストラン
四十にして惑わず
私の衰亡論
偽物づくりの告白
城下町と城中町
「今日的意議」について
外国ボケの弁明
ラヴ・ストーリー
ラディカル・シック
権力について
全体主義について