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鈴木英治の「手習重兵衛 第5巻 道中霧」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第五弾。白金村に居着く決意をした興津重兵衛。家督放棄のために故郷の諏訪へと向かう事にした。

今回の道中にはもう一つ目的がある。取り逃がして以来、なかなか姿を現さない遠藤恒之助をおびき出すことだ。だが、出立を前に気がかりな事が起きる。

そして、新たに姿を見せる謎の男。その男が諏訪忍びの乙左衛門を指図して重兵衛を始末しようとしている。そしてこの男が殺しを指図したのはもう一人。それは吉乃の兄で目付頭になった津田景十郎だ。

この謎の男の目的とは一体何なのか?

本作では顔見せ程度にしか登場せず、次の最終巻に持ち越される。

さて、諏訪に一足先に戻っている吉乃とお以知。二人のやり取りは相変わらずで、こんな感じとなる。前作よりパワーアップしているきらいもある。

『不意に吉乃がうしろを振り向き、お以知をにらみつけた。
「お以知、あなた今、ろくでもないことを考えましたね」
「あらお嬢さま、よくおわかりになりましたね。ええ、確かに」
「なんて思ったのか、正直におっしゃい」
「正直に申しあげてよろしいのですね。では申しあげます。-仮に、もし仮に重兵衛さまがそそっかしいと申しても、お嬢さまに太刀打ちはとてもできないだろうなあ、と」
「お以知、あなた、よくもいけしゃあしゃあとそんなことを」
「お嬢さまほどそそっかしいお方は諏訪にはいないですから。私が太鼓判を押します。あの広い江戸でもいい勝負だと思います。もっとも、そそっかしい、という言葉ではお嬢さまはいいあらわせないでしょうね。生まれつきの大粗忽娘、という言葉がぴったりのような気がいたしますけど」
「お以知、あなた、命が惜しくないようですわね」』

この吉乃と松山輔之進が知り合う事になる。

きっかけは吉乃の兄・津田景十郎の警護に輔之進が頼まれたからである。

この二人は似合いの二人なのだが、どうなるのだろうか。

松山輔之進は部屋住みの身で、家は次兄の彦之進が継いでいる。吉乃も家は兄が継いでおり、二人が結ばれるのは難しい感じである。

とはいえ、すでに伏線がはられており、どのような結果になるかは読める。

今回は左馬助と河上惣三郎の出番がないかと思いきや、二人が重兵衛を追いかけて諏訪へと向かってくる。

諏訪に着くと、河上惣三郎と吉乃はおそらく鉢合わせする事になるだろう。出会ったらどうなるのか?

重兵衛からの問いに、吉乃はこう答えている。
『「どうだろうかな。でも河上さんが来たら、吉乃どのはどうするつもりだ」
「そんなのは決まっています。斬り殺してやります」』

河上惣三郎の命は風前の灯火か…。

内容/あらすじ/ネタバレ

諏訪に帰りつくまであと四日。興津重兵衛は諏訪へ向かっていた。

遠藤恒之助は傷がうずいていた。一月前に重兵衛にやられた傷だ。寝首を掻いてやりたいが、乙左衛門から待てがかけられている。

どうやら乙左衛門の裏にある人物がいるらしい。遠藤恒之助は答えが出ないのがわかりつつも、それが誰なのか気になっていた。

遠藤恒之助にはお麻衣が付いている。そして他に数名が興津重兵衛を見張っている。二人も重兵衛を追って諏訪への道を歩んでいた。

松山輔之進は兄・彦之進に呼ばれた。座敷には目付頭の津田景十郎がいる。津田景十郎は剣をそれなりに遣うのだが、輔之進に警護を頼んできた。

ここ最近身辺に不審な影を感じるのだとか。家中で何かあったのだろうか?だが、津田景十郎は狙われる理由がわからないという。

興津重兵衛は道中に出る前に、江戸留守居役の塚本三右衛門に会えなかったのが気がかりであった。応対した家中のものの様子がおかしかったのも気がかりを増幅させていた。

塚本に会えないまま出立するのもどうかと思ったが、家督を放棄しに故郷へ変える者に対して本当の事を教えてくれるとは思えなかった。

道中は忍びらしいものどもの視線が煩わしく感じる程度で、平穏無事に過ぎていった。甲府に到着し、行程は半分以上終わった事になる。

松山輔之進は津田景十郎に付いて津田家を訪れた。出迎えたのは津田景十郎の妹・吉乃だった。輔之進は吉乃が重兵衛に袖にされた事も、小太刀に関しては男勝りの腕である事も知っていた。

そして、景十郎からは吉乃が料理がとんでもなく下手な事を教えられた。

河上惣三郎は与力の門田典膳に呼ばれた。諏訪家の江戸留守居役が行方しれずになっているという。七日前の事で、かどわかされたようなのだ。

諏訪家では生存を諦め、死骸で見つかった時にすぐに諏訪家で引き取れるように町奉行所へ連絡してくれるように依頼してきたのだ。もしかして遠藤恒之助の仕業か…。

男の前に乙左衛門の配下のものがやってきて、興津重兵衛が江戸を出立した事を知らせた。

男は何故興津重兵衛絵が諏訪に向かっているのかをいぶかしんだ…。

吉乃はお以知をつれて重兵衛の母・お牧を訪ねていた。お牧のほうでも吉乃の訪問を楽しみにしていた。吉乃に望まれ、お牧はいろいろと家事を仕込んでいた。

ほとんど上達はないが、吉乃は疑うことのない幼子のように素直に聞く。そしてお牧も吉乃を見捨てる事はしなかった。

遠藤恒之助に乙左衛門が肩を並ばせた。興津重兵衛を殺していいという許可が出たのだ。

塚本三右衛門の死骸が見つかった。

津田屋敷まであと半町になったところで、輔之進は何者かに囲まれている事に気が付いた。津田景十郎を守らねばならない。

襲ってきた連中をみて輔之進は驚いた。まるで軍記物に出てくる忍びそのものだ。

津田景十郎の家士が次々と倒れていったが、何とか津田景十郎を守りきった。だが、津田景十郎は太ももに手裏剣を二本うけていた。一月は安静の傷であった。

吉乃は兄・景十郎を襲った者達を調べるという。その助けを輔之進に頼みたいという。

重兵衛は忍びに囲まれていた。罠だとわかっていながら、その罠にはまり、今は窮地に立たされている。

遠藤恒之助も現われた。だが、以前ほどの強さを感じない。むしろ腑抜けになってしまったかのような印象を受けた。遠藤はあのときの負けで心が折れてしまったのかと重兵衛は思った。

そして、遠藤にとどめを刺そうとするその瞬間に矢が飛んできて遠藤を取り逃がしてしまった。

乙左衛門は遠藤恒之助が使いものにならないことを知った。遠藤の腕は落ちていない。決して落ちていない。興津重兵衛が腕を上げたのだ。

津田景十郎が誰かに見られていると感じたのは、ちょうど重兵衛が江戸を出立するのがわかった時期と一致する。すると、やはり重兵衛に絡む事なのか?

遠藤恒之助は重兵衛との力量の差に愕然としていた。だが、重兵衛を超えるべく修行をする決意を固める。

男は、津田と興津をやれなかったのは痛いが、計画を止める事は出来ないといった。手筈は整っており、一行は江戸をもうしばらくしたら発つはずだ…。

計画は滞ることなく進んでいるはずだが、小石につまずいたような感じがある。発端は前の江戸家老の石崎内膳だ。まさか、あの男が金を私していたとは…

あと一日で諏訪に着くというところまで重兵衛は来ていた。だが、ここにきて泊まっていた宿から火が出て、その後始末を手伝ったお礼にと、店が出した水に毒が仕込まれていた。

忍びどもが執拗に重兵衛を襲ってきた。

塚本三右衛門が死骸で見つかったことを知らせに河上惣三郎、善吉、それに左馬助の三人は諏訪へ急いでいた。本当なら飛脚で十分なのだが、三人ともが重兵衛に会いたくて江戸を発っていた。

重兵衛は女に助けられたようだ。女は忍びだと明かした。そして毒消しの薬を飲ませてくれた。

だが、一体何のために?それへの答えは、遠藤恒之助を立ち直らせるために、本復した重兵衛と戦わせたいからだという。お麻衣は乙左衛門ら忍びの仲間を裏切ったのだ。

そして、重兵衛ははじめて乙左衛門が以前にあった事のある手習師匠だという事を知った。

重兵衛の母・お牧が何者かに攫われた。

諏訪のすぐそばまで来ていた重兵衛は以前母にさし上げた櫛を乙左衛門が放り投げたのに気づいた。

その頃、吉乃と輔之進もお牧を探していた。

本書について

鈴木英治
道中霧
手習重兵衛5
中公文庫 約三〇〇頁
江戸時代

目次

第一章
第二章
第三章
第四章

登場人物

興津重兵衛
お牧…重兵衛の母
弁蔵…興津家の下男
吉乃
お以知
津田景十郎…吉乃の兄、目付頭
松山輔之進
松山彦之進…輔之進の兄、目付
北見五郎太…目付
塚本三右衛門…江戸留守居役
鳴瀬左馬助
河上惣三郎…北町奉行所の同心
善吉…河上の中間
竹内…北町奉行所の同心
紹徳…医者
門田典膳
遠藤恒之助
お麻衣
乙左衛門…手習師匠、諏訪忍び頭領
おとら
おその…田左衛門の娘
うさ吉…犬