記事内に広告が含まれています。

鈴木英治の「手習重兵衛 第6巻 天狗変」を読んだ感想とあらすじ

この記事は約6分で読めます。

覚書/感想/コメント

シリーズ最終巻。第一巻から始まったこのシリーズも本巻で完結する。そして、第一巻から始まった信州高島諏訪家三万石で起きている事件の全貌がわかる。

このシリーズのおさらいをしてみよう。

そもそも、重兵衛が国から追われるようにして逃げなければならなかった事件は、信州高島諏訪家三万石の目付である重兵衛が、国家老、国家老の屋敷に出入りしていた商家、富くじを主催した商家の関係を調べているところから始まる。

不正があったのではないかという疑いだが、重兵衛は調べているうちに国家老の関与に疑問を抱くようになる。

そうしているうちに、今度は重兵衛の方が思い当たることのない罪を着せられてしまう。そして江戸へ逃げてくることになるのだ。

この時の黒幕は江戸家老の石崎内膳だった。この石崎のもと、遠藤恒之助と、諏訪忍びの乙左衛門らが重兵衛を消すために暗躍する。

しかし、重兵衛らの反撃に遭い、江戸家老の石崎内膳は失脚する。残された遠藤恒之助と乙左衛門らは重兵衛の復讐を誓う。

ところがところが、諏訪忍びの乙左衛門は誰かの指図を受けて行動している節がある。そもそもが、石崎内膳よりも以前から指図を下している者がいるらしく、それに従って動いていたのだ。石崎内膳に使われているという事自体が目くらましに過ぎなかったということだ。

そして、前作から本作への流れとなる。

本作の終わり方については少々期待していたのと違っていた。なので、個人的には今一つ「本作でシリーズの大円団!」という気が起きない。

また、ストーリーがシュリンクして終わっていく印象を受けたのと、最後の方は何ともバタバタで終わっていく印象を強く受けてしまった。

本書の一部を持ち越して、もう一冊書いて完結した方がよかったのではないかという気がしている。

何とも残念である。

私の期待と違っていたのは三点ある。

一つは、重兵衛と遠藤恒之助の対決。

二つは、諏訪から江戸に戻ったあとの重兵衛のこと。

三つは、手習の子どもたちとの再会、もしくは子どもたちの様子について。

後ろの二つについては、描かれておらず、そのこと自体に期待はずれの感が否めなかった。

後ろの二つについては、もう一冊を費やしてでも描いて欲しかったところである。

剣豪ものであるシリーズだが、題名に「手習」を使っているのだから、最後はちゃんと「手習」で終わって欲しかった。それでこそ「まさに大円団!」という気がするのだが。

そうそう、松山輔之進と吉乃については、予想通りのかたちになりそうだ。これは、期待通りというよりは、予想通りというだけの話である。

内容/あらすじ/ネタバレ

興津重兵衛は城にあがり重臣たちの前で隠居する旨を伝えた。家中にはすでに身の置き場が無くなっていたのだ。隠居して家督を誰かに譲るつもりである。養子を迎えるしかない。

遠藤恒之助は堂々巡りをしていた。俺には飛柳しかない。あれに工夫を加えるしかないが、なにも思い浮かばない。はたと思い当たったのが、飛柳に興津の地蔵割りを加えられたらどうかというものだった。

吉乃にはなぜ兄・津田景十郎が襲われたのかがわからない。やはり興津重兵衛がらみなのだろうか。

重兵衛が津田景十郎を訪ねた。そこで、景十郎は自分が襲われたことについての推測を述べた。それは、重兵衛が帰国する事がわかったあとに襲われている事から、景十郎が重兵衛を呼び寄せたと勘違いしているのではないか。そして、景十郎が何かをつかんだと思っているのではないかというものだった。

重兵衛は母・お牧とともに興津家の本家筋にいった。本家筋にたいしても重兵衛は隠居する事を伝えた。養子を迎えるという事を告げると、一族の者のすべての顔が輝いたが、重兵衛は一族から養子を迎えるつもりはなかった。ある人物の事が頭にあった。

玄関には河上惣三郎と善吉がおり、さらに左馬助も来ていた。これには重兵衛も驚いた。

河上惣三郎と善吉は用事を済ませるとすぐさま江戸へとんぼ返りをしたが、左馬助はしばらく諏訪にいる事になった。

旗本の一行が諏訪を目指していた。駕籠には一通の書状が納まっている。このため、将軍の行列に準じるだけの権威を持っていた。

重兵衛は津田景十郎が襲われたのかが、前の目付頭・斎藤源右衛門に絡んでの事かもしれないという可能性を考えた。そして、殺される前の斎藤の様子を様々な人間に聞いた。その一人に北見五郎太がいた。

やつは気が付きつつあるのか。北見はそう思っていた。

津田景十郎は自分が目付頭になって、何かかわった事がないかを考えた。一つは将軍が没した事だが、それは関係ないだろう。

それに関連して将軍家の使いとして旗本が諏訪にやってくるのは知っていた。松平忠輝が葬られている貞松院は、公儀から三十石の禄が与えられているが、将軍の代替りのたびに朱印状が書き改められるのが通例となっている。

重兵衛は遠藤恒之助に呼ばれた。そこで、重兵衛は松山市之進を狙った時の話を聞いた。そして、諏訪忍びの乙左衛門の後ろに別の人物がいるらしい事を聞いた。

乙左衛門らが旗本の一行を襲った。朱印状を奪い、死んだ旗本の懐から白金を奪った…。

津田景十郎にはこのことの意味がわからなかった。だが、と思った。二人の旗本は幕府の使いであり、朱印状は将軍が出したものだ。つまりは二人の旗本が殺される事で、将軍が殺されたも同じ意味を持つのではないか。

そして思い当たったのは、賊たちは御家の取り潰しを狙っているのではないか。

しかも聞くと、旗本衆は皆殺しにもかかわらず、家中からは死者が一人も出ていない。これでは諏訪家と賊が関係していると勘ぐられても仕方がない。

筆頭家老の安藤大炊頭を前に、景十郎は諏訪忍びの話をした。三十年以前も前に、諏訪大助の一族である十郎左衛門が千野家の追い落としにかかったことがあり、それに絡んで忍びが放逐されたという噂がある。

景十郎が気にしているのが、この諏訪大助の末裔が絡んでいるのではないかという事である。

河上惣三郎は善吉とともに、塚本三右衛門が死の直前似合っていた人物を捜していた。すこしでも重兵衛の役に立ちたいのだ。

そうして探していると、一軒の金貸し屋にたどり着いた。湖内屋である。すぐに調べるのは嫌な予感がしたので、まわりから聞き込む事にした。すると想像通りに、あるじと奉公人は諏訪の出身だった。

大目付が江戸からやってくるまであと一日。その間、重兵衛は諏訪忍びの事を聞き回り、乙左衛門らの姿を追っていた。だが、その影すら見えない状態であった。

二人の大目付が着いた。着いたそうそうに目付の北見五郎太が呼ばれ、すぐさま筆頭家老安藤大炊頭宅へ移動した。そして安藤宅から白銀が見つかった。それは殺された旗本が所持していたものだ。

罠である事はまちがいないが、それよりもなぜそのことを北見が知っているのかが津田景十郎には疑問だった。

安藤大炊頭が殺された。大目付の二人は口封じのために殺されたと考えている。さらには大量の鉄砲が見つかった。これも北見五郎太からの情報で見つけたようだ。藩は窮地に立たされていた。

見つかった鉄砲に関連して、乙左衛門らだけで運ぶのは無理なのがわかった。その線からたどっていく事にした。折良く、江戸の河上惣三郎からの情報も手に入った。

本書について

鈴木英治
天狗変
手習重兵衛6
中公文庫 約頁
江戸時代

目次

第一章
第二章
第三章
第四章

登場人物

興津重兵衛
お牧…重兵衛の母
弁蔵…興津家の下男
吉乃
お以知
津田景十郎…吉乃の兄、目付頭
松山輔之進
松山彦之進…輔之進の兄、目付
長田民延
伊田盛恒
安藤大炊頭…筆頭家老
北見五郎太…目付
牛山頼母…中老
白石佐太郎…道場主
堂山幸兵衛…津田一族
高梨林左衛門…興津一族
鳴瀬左馬助
河上惣三郎…北町奉行所の同心
善吉…河上の中間
竹内…北町奉行所の同心
遠藤恒之助
お麻衣
乙左衛門…諏訪忍び頭領
お布玖…乙左衛門の女房
諏訪顕実
佐野兵部…大目付
川俣加賀守…大目付
おとら
竜造
おその…田左衛門の娘
うさ吉…犬