
松平左金吾定寅とは?松平定信と同族の久松松平氏出身で、鬼平・長谷川平蔵宣以の同僚
- 堀帯刀のあとを継いで火付盗賊改の本役に就いたのが、それまで助役だった長谷川平蔵宣以だった。その助役として松平左金吾定寅が就いた。本役の長谷川宣以とは確執があった。松平左金吾定寅は老中首座の松平定信と同族の久松松平氏(徳川家康の実弟の家系)であった。
鬼平シリーズの最終巻。作者逝去に伴うもので、シリーズとして完結したわけではない。前作の続きとなる作品だけに、今後の展開がどうなるのかが楽しみなだけに残念である。
本書は女を主人公とした一冊である。平蔵の隠れた妹・お園、女賊・荒神のお夏。そして密偵・おまさ。この三人が織りなす物語である。お園は亡き平蔵の父の面影を残す女である。
個人的に、鬼平シリーズの中で、本書が最も長谷川平蔵が格好良く書かれている作品だと思う。特に最後の場面は、思わず"目頭が熱く"なってしまった。
「麻布一本松」では、久々に木村忠吾が面白い。このところ細川峯太郎にその役回りを奪われたかたちになっていたのだが、やはり本家本元のおっちょこちょいはこうでなくてはならない。特に、最後の場面は久々に可笑しかった。
最後の"寺尾の治兵衛"には『剣客商売』の無外流・秋山小兵衛の名が登場する。平蔵が田沼意次の下屋敷で催された試合で審判をつとめたのが秋山小兵衛なのである。
「逃げた妻」と「雪の果て」は藤田彦七という浪人とその元妻りつが主人公となっている。りつが男と一緒に藤田彦七の元から去ったのが事の始まりである。
「俄か雨」で、平蔵がけしからぬ事をした同心の細川峯太郎をいたぶる様が面白可笑しい。妻の久栄も隠れてこれを見守って笑っている。途中、あまりの事に、うーんと気絶してしまう細川峯太郎。
事の始まりは偶然のようなものである。たまたま平蔵が立ち寄った権兵衛酒屋で曲者を見たために、この事件に平蔵ら火盗改方が関わることになるのだから。単純に見えた事件がやがて膨らんでいき、思っても見ないような事件へと発展する。
新婚の木村忠吾ののろけ振りが微笑ましい作品。例えば"白根の万左衛門"。新婚の木村忠吾はのろけ話をしたくてしょうがないのだが、のろけ話をし過ぎたために、のろけ話を聞かせる相手がいなくなった忠吾が、こともあろうに平蔵にのろけ始めた。
平蔵の妻・久栄の心配りが心に染み入る一場面がある。佐嶋忠介の心には、的が絞りきれない上に、探索も遅々としているから、焦りが生まれ、疲労がたまってきていた。そこに久栄が現れて、「お茶をひとつ...」と言って去っていく。
やはり本書では"五月闇"と"さむらい松五郎"の最後の二編であろう。特に、"五月闇"では鬼平ファンにとっては馴染みの人間が死んでしまうので、残念な思いをすることであろう。作者・池波正太郎のもとには、何で殺したのか?とか、仕方がないからお通夜をした等の手紙が来たそうである。
前巻で、辰蔵に見送られて湯治に出た平蔵一行だが、結局湯治先でも盗賊と出会ってしまうのが因業なものである。前巻で辰蔵が見送る際に涙を流していたのは、辰蔵も辰蔵なりに平蔵の心身を心配していたからなのであろうと思う。
本書で最も面白いのが、"密偵たちの宴"であろう。それぞれに元本格の盗賊でありながら、火盗改方の密偵として働いている彼らの血が騒いでしまったからしょうがない。
今作も前作同様、人気の脇役である木村忠吾が大変な目に遭い、ハラハラする。と同時に、思わずニヤリと笑ってしまう話しが二話ほどある。一つは木村忠吾が大変な目にあう"男色一本饂飩"である。
本書ではとても短い密偵生活で死んでしまう者が二名いる。一人は元盗賊の雨引の文五郎であり、もう一人は元火盗改方の同心・高松繁太郎である。今までのなじみの密偵同様に活躍するのかと思いきや、この巻だけの登場となってしまった。
本書で平蔵は二回命が危険な目に遭っている。一度は〔凄い奴〕との対決。もう一度は"白い粉"の時である。それぞれに趣向は異なるのだが、久々に緊迫する場面が続くのが本書である。