覚書/感想/コメント
シリーズ四作目。
題名の「子盗ろ」とは子供の遊びのようだ。母親役の後ろに子供が一列になって袖やら帯やらにつかまっている。それを、子盗ろ、子盗ろ、と声を上げながら子供を捕まえようとする鬼役がいるという遊びだ。
この遊びと、子供が攫われるという事件をひっかけている題名である。
子供が急にいなくなると「神隠し」にあったと言われた時代のこと。本作でも、神隠しの噂が立つが、そんなことはなかった。
いなくなった長屋の房七を探す源九郎たちが襲われたからだ。神隠しではなくて、これで人さらいであることがはっきりとする。
だが、まるで神隠しのように綺麗に消えた子供たちをどこに押し込めているというのか?それに、子供たちを攫う目的は一体何なのか?
途中で登場する謎の初老の武士の言動も気になる。初老の武士は人さらいと関係があるというのか?
さて、本作で砂絵描きの三太郎が登場する。以降の作品では華町源九郎、菅井紋太夫、茂次、孫六の四人に加わるかたちで、「はぐれ長屋の用心棒」となる新たな登場人物である。
しかし、このシリーズの特徴だが、毎回誰かが傷を負う。剣を遣う華町源九郎と菅井紋太夫は傷がたえないが、茂次もかなり怪我をすることになる。
一人無事なのは、元岡っ引きの孫六だけ。それにしても、生傷が絶えない用心棒たちである。
内容/あらすじ/ネタバレ
春。華町源九郎の倅・俊之介の嫁・君枝が身籠もったようだ。
その話を聞いた帰り、源九郎は子供の行方がしれなくなり、取り乱した女の姿を見かけた。
この話を再び聞いたのは、菅井紋太夫と将棋を指している時のことだ。茂次によると勢田屋のおはなという娘が神隠しにあったのだという。
この他に二人もいなくなっている。一人は六つの娘、一人は四つになる男児だという。女児だけなら人さらいという可能性もあるが、男児もとなると神隠ししか考えられないという。
孫六のところに浅草諏訪町に住む岡っ引きの栄造が訪ねてきた。神隠しの件について六年前の話を聞きたいという。なるほど、今度の件と似ていた。当時も神隠しといわれたが、孫六は人さらいと睨んで探索をつづけた。
当時のことを思い出し、連れ去った人間の風体から三人ほど浮かび上がったが、そこからさきが足取りがつかめなくなった事件だった。
この三日後、おとよのところの房七がいなくなった。四つである。色々聞き込むと、房七がいなくなった頃にしゃぼん玉売りが歩いていたらしい。それにつられて外に出たようだ。
源九郎、菅井、茂次、孫六の四人が集まり、同じ長屋の子供を捜すことにした。そしてしゃぼん玉売りを探すことにしたが、まったく正体がつかめない。
そこで、一月ほど前に長屋に越してきた三太郎という砂絵描きに人相書を書いてもらうことにした。三太郎は若い頃絵描きのところで修行をしたことがあるようで、房七そっくりの人相書が出来上がった。その人相書を持って源九郎たちが江戸の町を回り始めた。
そして、すぐに源九郎が襲われた。同じく菅井も襲われることになる。房七を探すのを快く思っていない連中がいることが判明した。やはり人さらいだ。菅井を襲ったのは手練れで、菅井は怪我を負った。
六年前の事件で浮かび上がったのに州崎の辰五郎がいた。孫六は辰五郎を探すことにした。
その中、菅井のもつ人相書を見る初老の武士がいる。なにやら仔細がありそうだが、逃げるようにして去っていったので、わからないままとなる。
そして、人さらいの一味の名が知れた。布袋さまと呼ばれる男が頭分のようで、その下に小室兄弟、竹次郎というのがいるらしい。
このことが分かった後、菅井を初老の武士が訪ねてきた。羽生善右衛門という。羽生は房七の行方が知れたら、連れ戻す前に教えて欲しいという。不思議な頼み事であった。
州崎の辰五郎の行方が分かり、それを辿っていくと、恵比寿屋という名が出てきた。だが、この辰五郎が殺された。そうこうしているうちに、また一人子供がいなくなった。
頼みの綱は恵比寿屋という男だ。源九郎はお吟の力を借りることにした…。
本書について
鳥羽亮
はぐれ長屋の用心棒4
子盗ろ
双葉文庫 約三〇〇頁
江戸時代
目次
第一章 神隠し
第二章 人相書
第三章 闇の男たち
第四章 布袋さま
第五章 沖の船
第六章 絆
登場人物
華町源九郎
菅井紋太夫
茂次…研師
孫六…元岡っ引き
三太郎…砂絵描き
お吟…浜乃屋女あるじ
お熊…長屋の住人、助造の女房
元造…飲み屋「亀楽」の主
おみよ…孫六の娘
吾助…浜乃屋の板前
庄太…長屋の子供
栄造…岡っ引き
房七
おとよ
州崎の辰五郎
お勝
布袋さま
恵比寿屋
小室兄弟
竹次郎
羽生善右衛門
須藤市正…旗本