覚書/感想/コメント
シリーズ第七弾。
今回スポットが当たるのは、最も遅く仲間となった三太郎である。
三太郎の父親は凧の絵師だった。方形の凧、奴凧、鳶凧などに絵を描くのだ。三太郎には年の離れた兄がおり、二つ違いのお初という妹がいた。
浮世絵師に弟子入りする前にお初が死んだ。風邪をこじらせて高熱が下がらず、一ヶ月ほどで息を引き取った。
父親の生業の影響もあり、三太郎は子供の頃から絵に興味を持ち、浮世絵師に弟子入りして修行をした。だが、師匠の娘に手を出して破門され、砂絵描きに身を落とした。
そして、はぐれ長屋の住人となる。
気がつくと、三太郎は華町源九郎、菅井紋太夫、茂次、孫六の四人に加わって、第五番目の仲間となっている。
この五人はこれまでにも、やくざに脅された商家の用心棒に雇われたり、旗本の内紛に巻き込まれてやむなく無頼牢人を斬ったり、勾引かされた娘を助け出したりしていた。そのこともあり、ちかごろは「はぐれ長屋の用心棒」などと呼ぶ者もいる。
まぁ、今までのお吟の活躍を考えると、お吟を含めて六人が「はぐれ長屋の用心棒」と言ってもいいのかもしれない。
さて、源九郎らが住んでいる長屋は、伝兵衛店というもっともらしい名があるが、近所のものははぐれ長屋と呼んでいる。
牢人者、いかがわしい大道芸人、日傭取り、無宿人など、世間の者に冷たい目をむけられるはぐれ者が多く住んでいたからである。
そこでいつものように繰り広げられるのが、将棋を指す華町源九郎と菅井紋太夫の姿。その二人を暇そうに見ているのが茂次だ。将棋は菅井紋太夫が好きでいつも源九郎に勝負を挑むのだが、下手の横好きというやつで、あまり勝てない。
この菅井は肩まで伸びた総髪、えぐり取ったようにこけている頬、切れ長の細い目、貧乏神のような陰気な顔をしているので、はたで二人の勝負を見ていると気が滅入りそうだなと、いつも思ってしまうのである。
内容/あらすじ/ネタバレ
一昨日の晩、春雷が鳴った。その夜に、日本橋富沢町の薬種問屋・大倉屋に夜盗が押し入り、奉公人を二人殺して大金を奪って逃げた。
そのうわさ話を聞いた後、華町源九郎は浜乃屋に向かった。お吟が楽しげに男と話している姿を見て源九郎は心穏やかでない。聞いてみると、滝島屋という古手屋の旦那で菊蔵というらしい。最近よく来るらしい。
翌朝、長屋の房吉が殺された。房吉は妹のおせつとの二人で住んでいる。
そのおせつの後ろ姿を三太郎が泣き出しそうな顔で見つめていた。三太郎は以前からおせつを気にしていた。というのも、おせつが三太郎の亡き妹に似ていたからである。
殺される二日前の晩。雷の鳴った晩に、房吉は帰りが遅くなり、その時に黒い猿のような男を見たらしい。目の下には黒子か疣があったようだとも言っていた。
孫六は岡っ引きの栄造を訪ねた。房吉殺しにつながる話はなかったが、大倉屋に押し入った一味を木菟一味ではないかという。袋状の黒布の両端が尖り、みみずくの耳に似ているからそう呼ばれるようになった。頭目の名は玄造であることは知れているが、おそらくは偽名だろう。
源九郎はこの話を聞き、房吉は木菟一味を見たのではないかと思ったが、房吉は黒い猿と言っていたので、違うのかも知れないと考えた。
町方は木菟一味の方で忙しいらしく、房吉の件に関して町方は頼りにならなかった。
菊蔵がお吟に別の店を持たないかと言ってきている。菊蔵には魂胆があるのだ。
源九郎は気になって、その店というのを覗きに行った。だが、その店は古手屋の旦那が買えるほどのものなのか。ひとつ菊蔵を探ってみようかと思い始めた。そして、菊蔵の店を見てみて、とてもお吟に言っていた店を買えるほどの蓄えがあるとは思えなかった。
さらに聞き込んでみると、菊蔵は妾を他に二人囲っており、さらにお吟まで手を出そうというのだ。古手屋というのは表向きの商いで、本業は金貸しだということも判明した。それで金があるのだ。
源九郎を男が襲ってきた。右眼の下に黒い黒子のようなものがある。房吉が見た男に違いない。だが、なぜ狙われなければならない?
その頃、孫六の聞き込みによって木菟一味に一歩近づいていた。
お吟に調べたことを全て話すと、最初から菊蔵の話に乗るつもりはなかったという。源九郎に駄目だときつく言ってもらいたかったから、思わせぶりなことを口にしたのだった。
今度は黒衣の武士が源九郎を襲ってきた。かなりの遣い手である。居合を遣う。どうやら得体の知れない集団を相手にしているらしい。なぜ源九郎が狙われるのかもわからない。房吉殺しの探索を止めさせるために狙っているわけでもないようだ。
お吟の浜乃屋が無茶苦茶にされた。その中に右眼の下に黒い黒子の男がいた。どうやら、最初から店を壊すのが目的のようだった。狙いは何だ?
右眼の下に黒い黒子の男はどうやら木菟一味に関わっているらしい。そして、木菟一味は六人であり、そのうち三人ほどが分かってきた。
だが、依然として分からないことが多い。源九郎を襲った黒衣の武士も一味なのか?それに頭目は誰なのか?
本書について
鳥羽亮
はぐれ長屋の用心棒7
黒衣の刺客
双葉文庫 約二九五頁
江戸時代
目次
第一章 房吉の死
第二章 三太郎の恋
第三章 好色
第四章 黒猿
第五章 化けの皮
第六章 黒衣の武士
登場人物
華町源九郎
菅井紋太夫
茂次…研師
孫六…元岡っ引き
三太郎…砂絵描き
お吟…浜乃屋女あるじ
お熊…長屋の住人、助造の女房
元造…飲み屋「亀楽」の主
おみよ…孫六の娘
お梅…茂次の女房
吾助…浜乃屋の板前
栄造…岡っ引き
お勝…栄造の女房
村上彦四郎…南町奉行所定廻り同心
おせつ
房吉…おせつの兄
菊蔵…古手屋滝島屋の旦那
助次
達五郎
菅野彦三…牢人
玄造…木菟一味の頭目
安次郎
伊勢次
万次