時代小説は「江戸」の街を舞台にしていることが多いです。
都内の各地を訪問して、時代小説で語られる情景を感じてみてはいかがでしょう。
江戸の範囲
江戸の範囲は今の23区とは一致しません。
「朱引内(しゅびきうち)」「御府内(ごふない)」と言われるエリアが「江戸」です。
では、朱引内とはどのようなエリアになるのでしょう。
大雑把には次のようになります。
- 東…中川まで
- 西…神田上水まで
- 南…南品川町を含む目黒川辺りまで
- 北…荒川・石神井川下流まで
現在の行政区画でいえば、次のようになります。
- 千代田区
- 中央区
- 港区
- 台東区
- 文京区
- 墨田区
- 江東区
- 荒川区
- 新宿区
- 渋谷区
- 豊島区
- 品川区の一部
- 目黒区の一部
- 北区の一部
- 板橋区の一部
- 練馬区の一部
当時世界有数の大都市だった江戸だけあって、意外と広いです。
時間をかけてゆっくりと回るのがオススメです。
「朱引内」は大きく3つに分かれました。
武家屋敷の並ぶ武家地、寺社の集まる寺社地、町人が住む町人地です。
武家地が約7割、寺社地が約1割5分、町人地が約1割5分でした。
江戸の人口が100万を超えていた頃に、町人は50万人いたと推計されています。
時代小説の多くの舞台となる町人地は、現在の中央区、台東区、千代田区の一部に集中していました。
北の方に寺社地が多くあり、その他が武家地になります。
江戸城
江戸は江戸城(現在の皇居)を中心に街が出来ています。
日本100名城である江戸城が江戸の中心にあり、それは現在も同じです。(新東京百景にも選ばれています。)
江戸城は現在の皇居よりも大きく、江戸城外堀跡などからその大きさが分かります。
この江戸城を中心にして城東、城西、城南、城北という言い方があります。
大雑把には、城東がいわゆる下町で町人地です。時代小説の市井ものメインの舞台です。
城西から城南は武家地が多いエリアです。各藩の藩邸だけでなく、中屋敷や下屋敷がありました。
城北は寺社地が多いエリアです。上野寛永寺や、いわゆる谷根千エリアに寺社が多く密集しています。
朱引内
城東の町人地
中央区、台東区、千代田区の一部が該当します。
江戸城に近いエリアを代表する神社が神田明神と山王日枝神社です。
江戸の寺社は風水によって配置されているというのは有名な話ですが、この二社も風水に関係しています。
神田明神の神田祭と山王日枝神社の山王祭は江戸の祭の中心でもありました。
- 二大祭礼:「山王日枝大権現」と「神田明神」の祭礼は江戸城内に山車や神輿が練りこむことが許されいましたので、二大祭礼と言われました。
- 江戸三大祭り:富岡八幡宮の深川祭を加えて江戸三大祭りと言われました。それぞれの特徴から「神輿深川、山車神田、だだっ広いが山王様。」と表しました。
- 天下祭:根津神社の例祭を加えて、江戸時代以来続いている江戸の代表的な祭礼である天下祭(てんかまつり)または御用祭(ごようまつり)と言われました。
銀座の方に向かうと有楽町駅そばで南町奉行所の穴蔵など、江戸時代の遺構を見ることができます。
銀座から東銀座にかけても見どころがあります。
銀座駅から築地方面に歩いていけば、伝統芸能の殿堂である歌舞伎座があります。
築地周辺には波除稲荷神社や、松平定信ゆかりの浴恩園跡があります。そして近代的な建築様式の築地本願寺が目を引きます。
北に向かって北町奉行所のあった東京駅北口あたりからは日本橋方面に足を延ばすのが良いです。
日本の起点となる日本橋と麒麟像と、近くには福徳神社(芽吹神社)などがあります。
城東の寺社地
町人地に近いところにある代表的な寺社のエリアが浅草と上野、谷根千(谷中・根津・千駄木周辺)です。
浅草には浅草寺があり、現在でも人気の観光地になっています。
そして日本さくら名所100選でもある上野公園になっているところは、東叡山寛永寺でした。上野東照宮や五条天神社と花園稲荷神社があり、敷地内には国立西洋美術館、西郷隆盛像、彰義隊の墓があります。周辺には寛永寺に関連する護国院などがあります。
「両山」と呼ばれるのが「東叡山寛永寺」と「三縁山増上寺」です。いずれも徳川家の菩提寺で、15代将軍のうち13将軍が葬られています。残りの二人のうち、徳川家康が久能山と日光の東照宮、徳川慶喜が谷中墓地に葬られています。
谷根千に向かうと、一乗寺、望湖山玉林寺、浄名院や、江戸三富の一つ天王寺(旧感応寺)の谷中の寺院があります。
この谷根千エリアで外せない神社が東京十社の一つである根津神社でしょう。
城南
東海道沿い
城南は港区、品川区、目黒区、大田区の4区です。多くは朱引外です。
江戸城から見て南側に当たるエリアに、上野の寛永寺と並んで江戸を護るために増上寺が置かれました。徳川将軍家の菩提寺の一つです。
増上寺の近くには「め組」で有名な芝大神宮があります。
少し南へ下ると、御田八幡神社(式内社(論社))や赤穂浪士の墓のある泉岳寺などがあります。
旧東海道のある海側には、品川第三台場と第六台場(続日本100名城)があり、高輪周辺には薩摩藩の下屋敷(近くに柘榴坂があります。)などの武家屋敷が並んでいました。
高輪には高輪大木戸跡があり、ここが江戸府内の境界でした。
この辺りから坂を上って内側に入った白金あたりには旗本・大久保忠教(彦左衛門)の屋敷があった八芳園があり、そばに古地老稲荷神社があります。
また江戸時代から続く元祖山手七福神の覚林寺、瑞聖寺、妙圓寺があります。ここから目黒不動方面に向かって元祖山手七福神があります。
赤坂・溜池方面
港区の中でも赤坂や溜池方面には、旗本や御家人などの住居がありました。
幕末に活躍した勝海舟の住まいはこのエリアに3か所あります。勝安房邸跡1、勝海舟邸跡2ですが、3つ目には目印がありません。
勝海舟に関する小説を読むと登場する赤坂氷川神社もこのエリアです。赤坂というよりは六本木に近いところです。
赤坂見附には豊川稲荷東京別院があり、この近くに武家屋敷門があります。武家屋敷がどのようなものだったかを知るのにいい場所です。
赤坂周辺には寺院が多くあります。伝説の力士・雷伝為衛門の墓のある報土寺もこのエリアです。
かつては幽霊坂と呼ばれていた乃木坂には明治時代の大将・乃木希典ゆかりの乃木神社(乃木邸)があります。
六本木には第2代将軍徳川秀忠の母・お江の墓がある深広寺があります。通常は非公開です。港七福神の天祖神社(龍土神明宮)も近いところです。
六本木から麻布十番方面に向かうと毛利庭園(毛利甲斐守邸跡)があります。十番稲荷神社(港七福神)もこのエリアです。
城北
城北は文京区、豊島区、北区、荒川区、板橋区、足立区の6区です。多くは朱引外です。
城北と捉えるかは微妙ですが、お茶の水駅のすぐそばには学問の聖地である湯島聖堂があります。
そのまま神田明神を過ぎて上野方面に向かうと、同じく学問に関係する神社として湯島天満宮があります。湯島天満宮は江戸の三富でも有名でした。
城西
城西は新宿区、世田谷区、渋谷区、中野区、杉並区、練馬区の6区です。多くは朱引外です。
朱引外
城南エリア
城南は港区、品川区、目黒区、大田区の4区を指します。
朱引内から出ると、最初の宿場町である品川に着きます。
品川区
東海道沿いに鎮座する品川神社は源頼朝ゆかりの神社です。
品川神社内に阿那稲荷神社があります。
また、神社の裏手に板垣退助の墓があります。
この周辺には多くの寺社が点在しています。
目黒区
目黒不動(瀧泉寺)のあるエリアは朱引外ですが、町奉行が支配していた墨引内でした。元祖山手七福神の終点・始点になります。
目黒不動は富籤・富くじ(とみくじ)で有名でした。富くじは、普請の為の資金収集の方法でした。宝くじの起源といわれますが、くじ引の一種であり、賭博でもありました。
1730年(享保15年)、幕府公認の下、仁和寺門跡の宅館修復の名目による富突を護国寺で3年間行いました。これ以降、富籤は主に寺社の修理費用に充てるために興行されます。
許可は寺社奉行に出願することとなり、抽籤の際には与力が立ち会いました。
富くじで有名なの寺社が3か所あり、江戸の三富と呼ばれました。目黒瀧泉寺(目黒不動)、湯島天神、谷中感応寺です。
ここから白金方面に元祖山手七福神の蟠龍寺、大円寺があります。残りは港区内にあります。途中に目黒川にかかる太鼓橋があります。桜で有名です。同じく目黒川で桜で有名なのは中目黒の目黒川です。
自由が丘方面に行くと、熊野神社や碑文谷公園と厳島神社があります。
大田区
さらに旧東海道を下っていきますと、大森海岸駅近くに鈴ヶ森の刑場跡があります。
この近くに式内社の磐井神社が鎮座しています。(東京都内の式内社)
そのままさらに下ると六郷川に着きます。今は多摩川と呼ばれています。昔は上流を多摩川、河口近くを六郷川と呼んでいました。
川の近くに六郷神社があります。式内社(論社)です。
大田区を代表する寺院は池上本門寺でしょう。幕末の江戸城無血開城の舞台になりました。
(池上三院家(大坊本行寺、照栄院、理境院)、池上七福神もオススメです。)
蒲田駅から多摩川沿いの方面には、破魔矢発祥とされる新田神社や、北条政子ゆかりの多摩川浅間神社などがあります。
多摩川浅間神社の裏には東京にある国指定史跡の亀甲山古墳があります。
そして近くには福山雅治さんの歌「桜坂」の舞台となった桜坂・六郷用水遊歩道があります。
蒲田駅周辺には蒲田八幡宮、熊野神社があります。多摩川線沿線には薭田神社(式内社(論社))、鵜ノ木八幡神社(式内社(論社))があります。
城西エリア
城西は新宿区、世田谷区、渋谷区、中野区、杉並区、練馬区の6区です。
渋谷区
渋谷区を代表するのは明治神宮です。加藤清正の屋敷跡に建つ新しい神社ですが、日本一の参拝客を誇ります。
渋谷駅近くには金王八幡宮、玉造稲荷神社、渋谷氷川神社などがあります。
世田谷区
広い世田谷区には多くの寺社があります。
その一つが等々力不動尊です。等々力渓谷も散策するのがおすすめです。
郊外
多摩市
多摩市には中世社格制度の一之宮の論社である小野神社があります。
八王子市
郊外にも歴史ある寺社が数多くあります。
その中でも海外にも人気があるのが、高尾山にある高尾山薬王院です。高尾山は日本紅葉の名所100選に選ばれています。
高尾山薬王院は真言宗智山派関東三山の一つに数えられます。
真言宗智山派は、弘法大師を宗祖とし、興教大師覚鑁を開祖とします。
その関東にある3つの大本山、高尾山薬王院、成田山新勝寺(千葉県成田市)、川崎大師平間寺(神奈川県川崎市)、を「関東三山」と呼んでいます。
真言宗智山派の総本山は京都の智積院、別院は東京の愛宕薬師真福寺、別格本山は東京の高幡山金剛寺と愛知の大須観音宝生院です。
江戸の名数
浄土真宗の両寺
- 浅草本願寺(東京本願寺)
- 築地本願寺(江戸本坊)
江戸三虚空蔵
江戸で本尊に虚空蔵菩薩を祀る三ヶ寺。
- 亀戸宝蓮寺
- 品川養願寺
- 白山西福寺
曹洞宗の江戸三ヶ寺
- 愛宕下青松寺
- 高輪泉岳寺
- 橋場総泉寺
三大閻魔
- 善養寺(西巣鴨)
- 華徳院(杉並松の木)
- 太宗寺(新宿)
三天神
江戸の三天神:湯島天神、亀戸天満宮、平河天神
東京の三天神:湯島天神、亀戸天満宮、谷保天満宮(国立市)
三弁天
五色不動(ごしきふどう)
五行思想の五色(白・黒・赤・青・黄)の色にまつわる名称や伝説を持つ不動尊を指し示す総称です。
- 目黒不動(瀧泉寺:東京都目黒区下目黒)
- 目白不動(金乗院:東京都豊島区高田)
- 目赤不動(南谷寺:東京都文京区本駒込)
- 目青不動(教学院:東京都世田谷区太子堂)
- 目黄不動(永久寺:東京都台東区三ノ輪、もしくは、最勝寺:東京都江戸川区平井)
江戸六地蔵
- 品川寺(旧東海道)東京都品川区南品川三丁目5-17
- 東禅寺(奥州街道)東京都台東区東浅草二丁目12-13
- 太宗寺(甲州街道)東京都新宿区新宿二丁目9-2
- 真性寺(旧中山道)東京都豊島区巣鴨三丁目21-21
- 霊巌寺(水戸街道)東京都江東区白河一丁目3-32
- 永代寺(千葉街道)旧:東京都江東区富岡一丁目(深川公園内)、現:東京都江東区富岡一丁目15-1
第六番の代仏が、上野の浄名院(台東区上野桜木二丁目6-4)に祀られています。
江戸六塔
- 旧寛永寺五重塔(現存)
- 池上本門寺五重塔(現存)
- 増上寺五重塔(東京大空襲で焼失)
- 浅草寺五重塔(東京大空襲で焼失、戦後コンクリート造で位置を変えて再建)
- 谷中天王寺(放火により焼失)
- 宝仙寺三重塔(東京大空襲で焼失後、飛鳥様式で再建)
江戸六阿弥陀
- 西福寺(北区豊島2-14-1)
- 恵明寺(旧延命院)(足立区江北2-4-3)
- 無量寺(北区西ケ原1-34-8)
- 与楽寺(北区田端1-25-1)
- 常楽院(調布市西つつじヶ丘4-9-1(旧下谷広小路))
- 常光寺(江東区亀戸4-48-3)
東京十社
東京十社とは、明治初年に准勅祭社(じゅんちょくさいしゃ)と定められた東京近郊の10の神社のことです。
1868年(明治元年)10月17日、明治天皇は氷川神社を勅祭社に定め、それに続いて11月8日、東京近郊の主だった神社を准勅祭社と定め、東京の鎮護と万民の安泰を祈る神社としました。
当初は12社(日枝神社・根津神社・芝神明宮・神田神社・白山神社・亀戸神社・品川貴船社・富岡八幡神社・王子神社・赤坂氷川神社・六所神社・鷲宮神社)でした。
- 根津神社(根津権現)文京区根津
- 芝大神宮(芝神明宮、飯倉神明宮)港区芝大門
- 神田神社(神田明神)千代田区外神田
- 日枝神社(山王権現)千代田区永田町
- 亀戸天神社(東宰府、亀戸天満宮)江東区亀戸
- 白山神社(―)文京区白山
- 品川神社(北の天王、北品川稲荷社)品川区北品川
- 富岡八幡宮(深川八幡)江東区富岡
- 王子神社(王子権現)北区王子本町
- 赤坂氷川神社(―)港区赤坂
霊場
観音霊場
- 坂東三十三箇所
- 江戸三十三箇所
- 多摩川三十四観音霊場
- 上野王子駒込辺三十三所観音
- 山の手三十三観音
- 武蔵野三十三観音
- 北豊島三十三ヶ所霊場
- 東京三十三観音霊場
- 関東三十三観音
- 東海三十三観音霊場
- 準西国稲毛三十三観世音霊場
- 准秩父三十四観音霊場
- 旧小机領三十三所子歳観音霊場
- 武相観音霊場四十八ヶ所
- ぼけ封じ関東三十三観音霊場
日本百観音
- 西国三十三所
- 坂東三十三箇所
- 秩父三十四箇所
弘法大師霊場
- 御府内八十八箇所
- 南葛八十八ヶ所霊場
- 豊島八十八ヶ所霊場
- 荒綾八十八ヶ所霊場
- 荒川辺八十八ヶ所霊場
- 玉川八十八ヶ所霊場
- 関東八十八ヶ所霊場
- 隅田川二十一ヶ所霊場
- 多摩八十八ヶ所霊場
- 新四国四箇領八十八ヵ所霊場
- 武蔵国八十八ヵ所霊場
不動霊場
- 関東三十六不動尊霊場
- 武相不動尊霊場
薬師霊場
- 武相四大薬師
- 関東九十一薬師霊場
- 武相寅歳薬師如来霊場
- 多摩七薬師霊場
地蔵霊場
- 江戸六地蔵
- 関東百八地蔵
名所
- 関東十八檀林
- 玉川六阿弥陀
- 江戸十祖師
- 関東三聖天
- 江戸三大鬼子母神