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宇江佐真理の「髪結い伊三次捕物余話 第4巻 さんだらぼっち」を読んだ感想とあらすじ(面白い!)

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覚書/感想/コメント

シリーズ四作目。

「さんだらぼっち」とは米俵の両端に当てる藁の蓋のこと。桟俵法師が訛ったもの。

この表題の「さんだらぼっち」は、不幸な話の多いこの作品の中で一番やりきれない作品である。

伊三次の女房になったお文だが、まだ子供の出来る兆しはない。しかし、弥八の女房・おみつが身ごもり、不破友之進の妻・いなみも身ごもると、お文はどうしても羨ましくなってしまう。

そうした気持ちの中で、隣家の娘が乱暴されているのを見たり、知り合いとなった武家親娘に不幸が降りかかったのをしると、お文を打ちのめされる。

二人の娘の身に起きた不幸は、現在の暗い世相を反映しているようで、とてもやりきれない気持ちになるのだ。

だが、こうした不幸な話の中でも、一筋の希望は、お文が身ごもることであろう。

おもつは残念ながら流産してしまったが、お文が無事に子供を産むのを願わずにいられない。

また、伊三次に成り行きで弟子が出来てしまったのも、一つの希望であろう。まだ廻り髪結いの伊三次だが、弟子を取ることによってどのように展開しているのかが楽しみである。

次作は忙しくなりそうな予感がする。そして、本書に不幸が多かった分だけ、次作では幸せが多いことを期待したい。

最期に。「時雨てよ」の扉に書かれている句。句を詠んだのが海童という人のようだが、海童とは女優の故夏目雅子の俳号だそうだ。

内容/あらすじ/ネタバレ

鬼の通る道

不破友之進の十二歳になる息子・龍之介は勉学よりも剣術の方が好きである。だが、いなみが湯島の昌平坂学問所での素読吟味を受けさせたいと考えており、小泉翠湖の所に通わせることにした。初めはいやがっていた龍之介だが、通い始めるとなれてくるようだ。龍之介が塾通いをいやがらなくなったのは小泉翠湖の娘・あぐりのせいのようだ。

家を火事で焼け出されたお文と伊三次が、長屋で暮らし始めて一月になる。お文もだいぶ長屋暮らしになれてきたようだ。

八丁堀で真っ昼間に殺しが起きた。殺されたのは葛野勾当という官位の高い盲人である。町奉行所の同心達が多く住む足下での犯行である。だが、下手人を見たという目撃者がいない。

爪紅

大川端に女の土左衛門が浮いていた。娘だった。その娘の爪には爪紅がつけられていた。

伊三次がお佐和に偶然出会った。お佐和は播磨屋という廻船問屋の娘だったが、今は店がなくなって小間物屋をしているという母親のお喜和と一緒のようだ。このお喜和と伊三次は、伊三次が忍び髪結いをしていたころの知り合いである。

今度は首つりだという。その娘も爪紅をしていた。

伊三次がお喜和の店を訪ねたとき。爪紅にはドウサが必要だと言うことを教えてもらった。そして、そのドウサを求めにきた客がいたという。

さんだらぼっち

子供の泣き声が聞こえてきた。お須賀の娘・お千代だ。癇の強い子供で夜泣きが多い。そのたびにお須賀がぶつのだ。これをお文はたまらなく思う。

廻り髪結いの女房となったお文の楽しみの一つは木戸番の女房・おつると世間話をすることである。おつるはお文に、早く子供を拵えることがいいという。それで合点したことがある。おみつが妊娠したことに悋気したのも、つまりは伊三次の子供が欲しかったからなのだ。

このおつるの木戸番を武家の親娘連れが買い物にやってきた。娘の名は早苗という。その後、花火でもこの親娘とあい、おつるの木戸番での再会を約束した。だが、それきり見かけることがなかった。

ほがらほがらと照る陽射し

お須賀に火傷を負わせてしまったお文は長屋を出て、芸奴屋に身を寄せて借り物の衣装でお座敷に出ていた。伊三次はどうしてお文があのようなことをしたのか分からないでいたが、不破友之進の妻・いなみに教えてもらって、納得できた。しばらくはお文の好きなようにさせ、近いうちに迎えに行くことにした。

お喜和の店によってみると、掏摸の直次郎がいた。ここは直次郎の縄張りじゃないはずだ。どうやら直次郎はお佐和に恋をしているらしい。そしてお佐和もまんざらではなく、お喜和も直次郎を気に入っているふしがある。

直次郎は足を洗おうかなと伊三次に言う。お佐和と結ばれるにはそうするしかないのだ。そうした中、一つの事件が起きた。

時雨てよ

伊三次とお文は佐内町へ引っ越した。伊三次が床を構えても不足のない家であったが、ぼろである。そのかわり家賃が安かった。

お文が呼ばれた座敷は、佐内町の箸屋・翁屋の大旦那の米寿の祝いである。大旦那の九兵衛は日本橋界隈では有名な人物であった。

この九兵衛と同じ名を持つ小僧が伊三次に髪を結ってもらいたいと言ってきた。だが、廻り髪結いである伊三次は駄賃をもらって髪を結うわけにはいかない。聞くと、奉公が決まったために髪を結うという。そこでご祝儀代わりに結ってあげることにした。

弥八とおみつの様子がおかしいという。どうやらおみつのおなかの子が流れてしまったようだ。そうした不幸の中、伊三次の周囲はいそがしい。小僧の九兵衛がある事情があって伊三次の弟子になりたいといいだし、お文の身体にもある変化が起きていた。

本書について

宇江佐真理
さんだらぼっち
髪結い伊三次捕物余話4
文春文庫 約二七五頁
江戸時代

目次

鬼の通る道
爪紅
さんだらぼっち
ほがらほがらと照る陽射し
時雨てよ

登場人物

伊三次
お文(文吉)…深川芸者
不破友之進…北町奉行定廻り同心
いなみ…不破の妻
不破龍之介…息子

鬼の通る道
 小泉翠湖
 あぐり…小泉翠湖の娘
 葛野勾当

爪紅
 お喜和
 お佐和…お喜和の娘
 お玉
 おふで
 花屋寅五郎

さんだらぼっち
 おつる…木戸番の女房
 お須賀
 お千代…お須賀の娘
 早苗

ほがらほがらと照る陽射し
 お喜和
 お佐和…お喜和の娘
 直次郎…掏摸

時雨てよ
 翁屋九兵衛…箸屋の大旦那
 九兵衛…小僧