覚書/感想/コメント
前作「退屈姫君伝」からすぐあと。
退屈をもてあましていためだか姫の所にお仙が「めだか、大変だ。天下の一大事だぜ!」と飛び込んできた。めだか姫は「天下の一大事ですって。すてきすてき!」と目を輝かせる。
何が天下の一大事なのか?
それは藩主・時羽直重の行方が知れなくなったことだった。風見藩存亡の危機である!めだか姫は危難を救うため、船に乗って風見藩に乗り込む。
本書は直接的には「退屈姫君伝」の続編なのだが、その前の「風流冷飯伝」の登場人物達が御目見得することで、「風流冷飯伝」→「退屈姫君伝」→本書とつながることになる。
さらに本書には続編があり、ざっくりといえば、この退屈姫君シリーズは「退屈姫君伝」と「面影小町伝」との間の約一年間の出来事を描いている感じである。
そう言いきるのは、「面影小町伝」でお仙が変貌してしまうからである。
さて、めだか姫は正室である。物語の中に側室として月世が登場するが、この時代、側室は禄を頂戴して藩主に仕える使用人にしかなく、奥女中と一緒である。
正室との身分差は厳然として存在しており、側室はあくまでも正室に仕えることになる。
さて、最後に天童小文五に拉致されるようにして江戸に連れ出されるのが榊原香奈。「風流冷飯伝」に登場した榊原琢磨の姉である。そして、船に隠れて江戸に潜り込んだ飛旗数馬と一八。
こうした面々が次作で新たな活躍の場を与えられることになる。
内容/あらすじ/ネタバレ
明和元年(一七六四)七月の終わり。神田橋外にある風見藩江戸上屋敷。
持ち前の機転で田沼の陰謀を粉砕したのがつい先日のことなのですが、めだか姫はすぐに退屈姫君になってしまいました。
夫・時羽直重の弟で身分を隠して留守居役を演じている直光が外へ出ようとしています。それを見つけてしまっためだか姫は直光につめよります。
直光は両国広小路で貧乏神の開帳が行われているので、見物に行くのだといいます。これ以上の貧乏が風見藩に来てはたまりませんから、藩を代表して参拝するというのです。
それならば、私がとめだか姫はいいますが、直光も譲りません。結局二人とも出ることができなくなってしまいました。
そうしたところにお仙が天下の一大事だと叫んで参りました。
めだか姫は天下の一大事と聞いて、すてきすてき!と目を輝かせます。
お仙の兄・一八から手紙が来て、それによりますと、藩主・直重が行方知れずになったとか。それを聞いてめだか姫の目は輝きます。
実家・磐内藩江戸屋敷に向かっためだか姫は父・西条綱道に会って船を借りました。ちょっと風見藩に行くというのです。
ほう、さようか。と気軽に貸してしまった綱道でしたが、はっと気が付き慌てて止めます。ですが、時すでに遅し…。
めだか姫とお仙、それに諏訪と天童小文五の一行は無事に船で風見藩に着きました。
さっそくお仙は飛旗家を探します。兄・一八が世話になっている家です。周りは藩士で囲まれています。どうやら閉門蟄居の沙汰を受けているようです。
お仙は藩士の口から六波羅という人物の名を聞きます。確か家老は宇奈月頼母といったはず。一体何者なのでしょう。
飛旗の家では主の隼人は居るようですが、数馬がおらず、同じように鳴滝半平太、池崎源五という冷飯達の姿が見えなくなっているようで…。
めだか姫の一行に不審の目を向けている者がいます。飯盛のおふくです。
お仙が飛旗隼人の妻・志織を連れてきました。志織はここでことの始まりを語り始めます。
それは直重が側室をおいた所から始まったというのです。
四ヶ月前。摩訶不思議なあらわれ方をしたのが月世と名乗った娘でした。挙措は端正で、物腰が典雅であり、直重が側室にと考えるのにさほどの日にちがかかりませんでした。
月世の父は六波羅高望といい、公家の末裔で、月世には景望という兄がいると申します。この兄を直重は呼び寄せたのです。
六波羅景望は側近として登用されました。様々な提案をしてなかなか優秀な所を見せます。
そんなおりに、直重が突然姿を消してしまうという騒動が起きてしまったのです。
お仙は一八がすっかり六波羅景望に心酔しているのに驚きました。しかも小判でなびいたのではないのですから、断然おかしいのです。
しかも一八は月世が懐妊したといいます。もし男児なら、六波羅が後見という形で実権を握るという筋書きのようです。
どうやら六波羅の陰謀はかなり前から進んでいたようです。
直重を乗せたと思われる怪しげな駕籠が伊予の方角に去ったといいます。伊予といえば屋島の戦いの話しを思い出し、めだか姫は六波羅景望が平氏の末裔ではないかと考えました。
六波羅景望は不可思議な力を使うようです。一八が心酔していたのは、その力に操られていたからでした。
めだか姫は六波羅景望と直接対決をしようと考えました。ですが、危うく不思議な力で押さえられそうなります。そこに天童小文五が救いに来て窮地を脱しました。
その頃、時羽直重はのんびりと冷飯達と一緒に温泉に浸かっています。その姿を見つけたお仙は膝ががくりと落ちました。
お仙が説得しても、城に戻ってたまるか、そうとも、藩の経営に困った六波羅が泣きついてくるまで梃子でも動かぬぞ!と戻ろうとしません。
ですが、直重と冷飯達にはある考えがあったのです。
一方で、めだか姫は六波羅景望に一泡をふかせるために、あることを実行しました。
本書について
米村圭伍
退屈姫君2 海を渡る
新潮文庫 約二九〇頁
目次
ふたたびはじまる
第一回 江戸前の海にざんぶと御庭番
第二回 釣独楽にころり転んだ餓鬼大将
第三回 羽衣の天女は墜ちて月見草
第四回 殿が消え冷飯も失せ木乃伊取り
第五回 締められて蛤に泣く将棋指し
第六回 顕れて憤怒の剣に花は散り
第七回 恐るべし青き邪光に帯を解き
第八回 姫は燃えのんきな殿は湯浴みして
第九回 風前の塵と消えたり猛き者
これでおしまい?
登場人物
めだか姫
お仙…茶汲み娘、くの一
諏訪…老女
天童小文五…将棋の師匠
時羽直重…めだか姫の夫、風見藩主
飛旗数馬…冷飯
鳴滝半平太…冷飯
池崎源五…冷飯
一八…幇間、お仙の兄
飛旗隼人
志織…隼人の妻
香奈…榊原拓磨の姉
六波羅景望…月世の兄
月世
おふく…飯盛
浄斎
宇奈月頼母…風見藩家老
時羽直光…時羽直重の弟
三太
虎吉
もずべえ
口細
倉地政之助…御庭番
西条綱道…めだか姫の父
野毛又兵衛…船奉行