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米村圭伍の「退屈姫君 第3巻 恋に燃える」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

今回の天下の一大事は「恋」。とはいっても、恋に燃えるのはめだか姫ではない。

将軍家との将棋対決のために修行に出された榊原拓磨が、ある藩の姫に恋をしてしまった所から騒動が始まる。

身分違いの恋を成就させるために、しゃしゃり出てきたのがめだか姫。そして、それを知った田沼意次は、煮え湯を飲まされてきためだか姫に一泡吹かせてやろうと邪魔をしてくる。

さて、前作は七月の出来事で、今回は九月から始まる。

シリーズとしては、「風流冷飯伝」→「退屈姫君伝」→「退屈姫君 海を渡る」→本書とつながることになる。
本書の最終章は「これにて幕間」である。

幕間とは、演劇などで、一つの場面が終わって次の場面が始まるまでの舞台に幕が引かれている間をいう。

つまり、本作と次作の間に少々時間のズレが生じるということを意味しているのだと思う。すくなくとも、終わりということではなさそうだ。

そりゃそうで、この「風流冷飯伝」から続く一連のシリーズの大きなテーマは将軍家との賭け将棋であり、これを描いた作品が書かれていないのだから、終わりであるはずがない。

内容/あらすじ/ネタバレ

明和元年(一七六四)の九月半ば。神田橋外にある風見藩江戸上屋敷。

相変わらずめだか姫は退屈そうです。めだか姫は榊原香奈が羨ましく思っています。香奈はめだか姫の実家・磐内藩で、一つ年上の姉・蝶姫の腰元として扱ってもらうことになっています。

今日は神田祭の初日です。それを見に行こうとした時羽直光を見つけためだか姫でしたが、またもや…

天童小文五が天下の一大事と告げてきたので、めだか姫は目を輝かせました。

その頃、飛旗数馬は一八、お仙らとともに神田祭を見ていました。この時、榊原拓磨の姿を見つけます。どうも様子がおかしいようです。

同じく、一大事を告げた天童小文五が榊原拓磨の様子が変だとめだか姫に告げていました。あれでは将軍家との賭け将棋なぞ、とうてい無理だといいます。

師匠の伊藤宗印に訪ねると、榊原拓磨の様子がおかしくなったのは、三日前からのことだといいます。

変ったことといえば、代理で出稽古に行かせたくらいです。場所は溜池にある横隅藩の下屋敷です。奥女中に懸想でもしたかと思いましたが、そのような者はいないといいます。

ですが、どうも色恋に関係しているようです。

めだか姫は、たとえしがない色恋沙汰であったとしても、わたしが正真正銘、天下晴れての一大事にしてみせるわ!と意気込んでしまいました。

お仙の調べによると、やはり色恋沙汰のようです。これを聞き、めだか姫の瞳には星が宿り、すてきすてき!という台詞が飛び出しました。

めだか姫は榊原拓磨の恋を成就させてみせるわ!といいます。

遠州横隅藩三万五千、東勝家の当主は東勝忠実です。嫁いでいない娘が二人おり、十八歳の雪姫と、十七歳の萌姫がいます。このどちらに拓磨が懸想したのでしょう。諏訪があっさりと萌姫だと断じます。

めだか姫は横隅藩に乗り込むために姉・蝶姫になりすましました。そのために実家・磐内藩の父・西条綱道を訪ねると、遅いと怒っています。

何を怒っているかというと、めだか姫が天下の一大事と駆け込んでくるのを楽しみにしているのです。ですが、今回は色恋沙汰。それほどの大事となりそうにありません。

それでも、西条綱道は、いざとなったらこのわしが、力ずくで天下の一大事にしてみせるわい!と意気込みます。

萌姫に会っためだか姫はこれは合い惚れに間違いないわと胸をときめかせました。そして、榊原拓磨に会わせてあげると約束し、強引に萌姫を磐内藩麻布中屋敷に連れて帰ってしまいました。

少々面白く思っていないのは天童小文五と諏訪です。二人は意地悪く榊原拓磨と萌姫の恋路を邪魔してやろうと相談しています。

風見藩で散々な目にあって戻ってきた倉地政之助がお仙の前に姿をあらわしました。そしてお仙から榊原拓磨と萌姫の話を聞くと、その目がぎらりと光りました。

倉地政之助は田沼意次の屋敷に行き、事の次第を告げます。めだか姫に煮え湯を飲まされた田沼意次はめだか姫に一泡吹かせるのも一興、加えて東勝家を取りつぶせれば一石二鳥だと考えました。

東勝忠実は田沼意次に呼ばれてどきどきしています。一体何事だろう。

その田沼意次は東勝家に伝わる水無瀬駒で将棋を楽しみたいと将軍・家治が言っていると告げました。水無瀬駒は家康から東勝家に下賜された、東勝家永代安堵の証です。

ただ、問題があるのです。水無瀬駒はあるのですが、ある事件で駒を痛めてしまっていたのでした。

しかも、田沼家からは無体な申し出があります。それは田沼意次の倅・意知の添い臥し役に萌姫を求めてきたのです。

水無瀬駒は磐内藩にありました。ですが、それを見た天童小文五は役に立たないと言います。それは、東勝家に伝わっているはずの駒と、作成年代が異なるためです。

万事休す…。

萌姫が行方不明になりました。どうやらお仙が連れ出したようです。そして、萌姫は榊原拓磨のもとへ行きました。

天童小文五は作成年代の同じ水無瀬駒を持っている人物を知っていました。それは師匠の伊藤宗印です。

ですが、素直に貸してくれるはずはありません。なぜなら、水無瀬駒は伊藤宗印にとって将棋家元の証だからです。
めだか姫は、伊藤宗印に将棋対決の挑戦状を叩きつけることにしました。そこにはある案があったのです。

本書について

米村圭伍
退屈姫君3 恋に燃える
新潮文庫 約三二五頁

目次

みたびはじまる
第一回 諫鼓鶏告ぐは天下の一大事
第二回 秋空に舞いし扇は恋の花
第三回 煩うて恋する姫は雪兎
第四回 歌会は珍歌下歌乱れ飛び
第五回 姫ならで妖魔に夜這う菊月夜
第六回 忠臣の血潮が守る命駒
第七回 道行の闇に揺れるは白き足袋
第八回 信長は二色の石を握り込み
第九回 大汗の家元負かす泣き黒子
これにて幕間

登場人物

めだか姫
お仙…茶汲み娘、くの一
諏訪…老女
天童小文五…将棋の師匠
榊原拓磨
飛旗数馬…冷飯
一八…幇間、お仙の兄
榊原香奈…榊原拓磨の姉
伊藤宗印…家元
木下角兵衛
東勝忠実…横隅藩主
お今…正室
萌姫
時羽直重…めだか姫の夫、風見藩主
時羽直光…時羽直重の弟
田沼意次…御側衆筆頭
田沼意知…田沼意次の倅
三浦庄二…田沼家用人
徳川家治…十代将軍
倉地政之助…御庭番
西条綱道…めだか姫の父
猪姫
鹿姫
蝶姫